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天使が居たんです
しおりを挟む案内された隠れ家と言ってもいいくらいの洞窟っぽい洞穴。どっちだよ。周りと比べて少し大きな木の下に空いた小さな穴。動物の巣穴かと思ったが、中が思ったよりも広かった。
ゴブリン100人は無理だが、10人位なら余裕で暮らせそうな空間があった。天然か? ダンジョン化? なんてな。そう思ってしまえるくらいには、潜伏するにはお誂え向きな穴だった。
雌穴とは違って細長くはなく、他に窪みやごつごつとした突起物なんかもなかった。ナニと比較したのかは内緒だ。湿ってもないのは良かった。これからか?
出入り口は1つしかないらしく、それもゴブリンでやっと入れるって感じの入り口だったから、上手いこと隠せば、それこそ隠れ家になりそうな環境にあった。
ここに観音開きの扉があったら完璧だったな。設置しちまうか? 厳しいか。残念だ。膜に見立てたカーテンくらいなら取り付けられそうか。ニヤリ。
ファイチクンも驚いてたな。嬉しそうにしながらも。ここなら問題なく暮らせるとも言っていた。それは俺も含めて同意見。俺は最低でもスノコとか絨毯は敷いて、椅子やテーブル、ベッドは欲しいがな。
そこが生粋のゴブリンとの違いだろう。明かりはなくても暮らして行けるのが強みかも。
そこで目にしたのが、天使だった。近くで見ると、圧倒的だった。俺は初めて天使を見たよ。居たんだな。天使って。
普通に見れば、醜いゴブリンだ。ああ、そう見えるね。目と鼻と口も、耳も、体からしたって緑色のゴブリンだ。
客観的な感想ではそうさ。だがな、俺の中の本能、ゴブリン能が語り掛けてくる。こいつは美し過ぎて段違いだぜ。と。作り物かと思える位の品と輝きがある。
なんだろうな。これ。意識と感情の違い? 久し振りに走った時に感じる、体の方がついてこられないもどかしさ? そして足が絡まって転びそうになってる感じ?
もやもやして自分が不甲斐なくなってしまう。何やってやがんだ。と。
とにかく、人間の感覚とゴブリンの感覚が共存しておかしくなっちまいそうだ。既におかしいか。ぎゃっぎゃっぎゃっ。
美しいものは美しい。それでいいか。俺は既にゴブリンだ。ならばゴブリン能に従う方が幸せになれるだろう。多分。
「あ、あのお、……。どうですか、ここなら人間に見付からずに話が出来ると思いますが」
くうぅ~っ。かっわええ~。つい、見蕩れちまったぜ。声までタイプだな。おい。穴の中で聞く声は別格だぜ。
タイプかタイプじゃないかなんて問題じゃねえ。ゴブリンなら誰でも受け入れられるだろう。いや、挿入できるだろう。当然か。ぎゃっぎゃっぎゃっ。
アイドルってレベルじゃねえな。いや。アイドルか。私はドルです。なんてな。幾らで買えますか。なんて聞けねえレベルである事は間違いない。
俺は何をしに来たんだったかな。ナニかな? ぎゃっぎゃっぎゃっ。
いかんな。興奮してしまったぜ。俺としただけに。ぎゃっぎゃっぎゃっ。
ひっひっふー。はっはっふー。いっひっひー。
落ち着いた。
いかにも中を確認しつつ、ずっと周りにも気を配ってたかのような素振りで告げる。
「凄いな。こんな所があったんだな。ここなら確かに暮らしてもいけるだろう。よく見付けられたな」
「は、はい。ありがとうございます。逃げ隠れする事しかできなかったので、それで見付けられたんです。ごめんなさい」
「ご、ごめんなさい」
まだ繰り返すか。
「別に謝る事はないぞ。戦えないのは仕方ない。レベルの問題もあるだろうが、それぞれに適性もあるだろう。それでもよく生き残って居てくれたと思うぞ。仲間は多い方がいいからな」
「あ。は、はい。ありがとうございます。そう言ってもらえると、逃げ隠れしていた甲斐がありました」
「あ、ありました」
そこを繰り返すのか。意外だったな。逃げ隠れを生き甲斐にして欲しくはないが、それでも生きてこそって言葉もある。特に雌は貴重だし、天使でもあるのだから、何をやっても許される。そしてナニをやっても許して欲しい。
「じゃあ、本題に入ろうか。夜が開ける前にもう少しレベル上げもしたいし、調達しておきたい物もある。なるべく早く話を終わらせて移動もしたいんだ。
ここも悪くないが、今日の所は別の拠点で寝ようと思っている。良ければ2人も来て欲しい。勿論、ファイチクンもだぞ」
「は、はいっ! ありがとうございます! 是非連れて行って下さい!」
「く、下さい!」
「へい。兄貴」
ファイチクンは置いといて、多分弟よ、下さいだけ言われてもな。ナニが欲しいのか分からんぞ。ってなるぞ。そこだけ聞いたらな。そしてそれは天使の方に言ってもらいたかったぜ。
私にあなたのナニを下さいと。ぎゃっぎゃっぎゃっ。言わねえな。
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