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とある選択者と非選択者集団 2

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 待てどもナニも起こらない1階層のセーフティー・フロア。セーフティー・フロア、SFだから当たり前。でも、サイエンス・フィクションではありません。

 2階層でもナニも起こらなかった。ダンマスがそうしているのだから当たり前。敢えて、まだ、ナニもしていないだけだった。

 でも、そのダンマスはナニかしていたかもしれないが、ダイレクト・メールやメッセージは届かない。そのDMじゃない。団体マス掻き員の略でもない。なんじゃそれ。

 このダンジョンを支配し管理する存在。ダンジョン・マスター。それがダンマス。

 そのダンマスは、ダンマス・ルームで複数の雌達とナニかしていたかもしれない。それは、ここを攻略しようとチャレンジしている者達には分からない。分からない方が幸せだと思われる。

 それは置いておいて。


 言っても、状況の確認は、荷物持ち3、4の役目として、交代で噴水の中を潜らせて報告させていた。

 基本は、囮役でもあり、特攻隊でもあり、最初の犠牲者にもなる荷物持ち達に先行させ、ナニかあれば選択者が順番に対処する。そんな序盤の攻略を考えていた集団だった。

 選択者は最後の砦。いかに安全に魔物を倒すか。いかに選択者の被害を少なくして目的を達するか。今回はダンジョンを攻略する事なのだが。それがこの集団のやり方だった。


 ここでは他者への危害は加えられないから、荷物持ち苛めも出来ない。ある意味、ここはそんな荷物持ちにとっての本当のセーフティー・フロアだったのだが、荷3、4の出番が来た。


「ちっ。何も持たせてなかったから仕方ねえか。次のフロアの様子ぐらいは知りたかったけどよ。その深さじゃ戻って来れねえか。使えねえなあ」

「まあ、無能でも生きて進めた事は分かったんだ。それだけでも十分だろうよ」

「ふっ、そうだな。俺達なら余裕そうだしな。じゃあ、次はお前らだ。荷物は置いて行っていいから、トランシーバーだけは持って行けよ。使えるかどうかは分からねえけどな」

「おうっ。しっかり様子を確認して報告しろよ。まだ魔物は居ないようだが、逃げようなんて考えんなよ? 俺らも直ぐに行くからな」

「ふっ。どうせお前らだけじゃ直ぐ死ぬだけだろうがよ。まだ生きてえなら、大人しく俺達の言う事聞いとけや。いいな?」


「「……」」

 無言で頷き、手荷物からトランシーバーだけを取り出す2人。

 1人は体を鍛えていると思われる体格のいい雄。もう1人はやや年配、ただ頭が、髪の毛がちょっとだけ薄くなってるからそう見えるだけの同年代の雄。

 また荷物を置いて行く事を許されてはいたが、ぶっちゃけ、各パーティに最低1人は異次元収納持ちが居る。ただの苛めである。

 今度は押される事もなく、また自ら噴水に入って行く2人。

 ここで死ぬ事になるかもしれない。毎回こんな思いをして生きて行くくらいなら、いっその事、楽に死にたいと思ってしまえるような環境で生きていた。

 それでも簡単には死にたくない。家族も居る。簡単には諦められない。そんな悲壮な思いのまま、今を生きていた。いつ死んでもいいようにとの覚悟、お別れは毎回していたのだが。



 荷3は、本当は全裸になりたいくらいだったのだが、流石にそれは止め、パンツ一丁になって潜る事にした。

 抵抗を少しでも無くす為、頭の抵抗は少し減ってるだけに、そういう事には敏感だった。危機意識も執着心もひと1倍持っていた。

 虐待癖のある選択者達から不用意な時間を取られるだろうし、そんな趣味もなかったし、そこまで下半身の特定部位に自信がある訳でもなかったから、敢えて脱がなかったのだった。


 そして荷4は、そんな荷3を不思議に思っていたが、特にナニを聞くでもなく、荷1、2が行けたんだから自分も行けるはず。ただそう思って進もうとしていた。


 とぷん とぷん

 自分達のタイミングで潜って行った2人。

 しかし、その差は直ぐに現れた。

 パンツ一丁になっていた荷3は、やはりかなり苦しみながらも、何とか無事に湖面に顔を出し、生きている喜びの声を上げていた。

 激しい苦しみの呼吸の後に。べたりと張り付いた薄い髪の毛で。それこそ魔物のような雰囲気になりながら。

 既に島に上がっていた荷、1、2の恐怖とも歓喜とも取れる叫びは聞こえていないようだったが、それで良かったのだろう。生きている。それに勝る喜びは今はなかったのだから。


 一方、荷4だが、年のせいもあり、無駄な筋肉もあり、甘く考えていた結果も仇となり、苦しみ足掻きながらも敢えなく途中で動きを止め、湖底に沈んで行った。

 早くも脱落者1。ダンマスにとっては幸先がよく、チャレンジャーにとっては幸先が悪過ぎるスタートだった。


 そして、当然のようにトランシーバーは使えなかった。念の為に1人2つずつ持って出たのだが、同階層間なら繋がったが、階層を跨ぐ交信は出来なかった。

 ちなみに、荷3が何処にトランシーバーを持っていたかだが、ナニではなく、邪魔にならない様に長めのストラップを繋げて首に掛けていただけだった。勿論、物は防水性。

 一物も耐水性はあるし、ある程度の引っ張り強度もあるのだが、精神的に弱い部位。雄にとっての1番大事な所。

 首も危険ではあるが、今回は正解だったのだろう。どうせ息は出来ないし、上へと泳ぐ邪魔にもなり難かった。ナニより生き残れたのだから、それが正解でいいのだろう。特に深い意味もない。


 そして島で待つだけの3人の荷物持ち。3人だけならナニも気にせず話は出来る。しかしナニが出来るでもない。

 選択者の到着を待つしかないのだが、一応、この後の事も考え、ナニかと打ち合わせをしていた。少しでも生き残る可能性を高める為に、自分達がナニが出来るかを。


 一方、SFの選択者達は、暫くしてもトランシーバーが繋がらない事を確認すると、漸く動き出した。

「ちっ。やっぱりあんな奴等じゃ使えねえな」

「ふっ。まあいい。それも想定内だ。水深もそれなりにあるし、階層も違うしな。それもダンジョンらしいじゃねえか。

 そんな事よりも、次は俺達が行かせてもらうぜ。水魔法が得意なのが2人も居れば何とでもなるだろうからな」

「ああ。好きにしてくれ。こっちも風魔法が得意なのが2人居る。何とでもなるだろうからな」

「よし。じゃあ、各パーティ適当に続いてくれ。先に行っても合流するまで下手に動くなよ。間違っても抜け駆けだけはしてくれるなよ」

「ちっ。一々うるせえ野郎だなあ。分かってんだよ、そんな事たあよおっ。おっし。行くぜ!」

「ちっ。馬鹿は何度言っても分かんねえだろうから言ってやってんだよ。クソが」

「おいっ。小さい声でも口に出すな。殺るなら全部終わってからって言ってんだろうが。忘れんな」

「ふんっ。分かってんよ。ああいう調子に乗ったクソ共見てるとイラつくんだよ。あー。早く殺りてえぜ。はんっ」


 不穏な会話があったようだが、各パーティはそれぞれに動きを確認中で、耳へは届いていなかった。

 選択者同士でもこれだ。『人間 対 魔物』ではなく、『人間 対 人間』の方が余程危なかったりする世界になっているようだ。一部選択者にとってはだが。



 そして最初に進んだ若者ばかりのパーティは、宣言通り、水魔法を利用して水流を生み出し、事も無げに水面に到達した。

 次のやや年配者ばかりパーティは、風魔法を駆使して推進力を増し、少し危ない所もあったが、皆無事に水面に到達した。

 どれもレベルアップによる身体能力の向上があったからこそ成し得た結果だった。


 ダンマス・ルームでは、へー。そんな遣り方でも簡単に攻略できちゃうのか。魔物が居なけりゃそんなものかもな。ちっ。まあいいや。なんて言う独り言があったとか。


 次に進んだ危険な言動が1番多かった年齢不詳のパーティは、特にナニをするでもなく、持ち前の体力だけでいとも簡単に攻略してしまった。

 ダンマス・ルームでは、ただ、ちっとナニかが響いただけだった。膣からだったかもしれないが。


 しかし、最後の年齢層の複合したパーティは、全員が潜り込んだ所でお仕舞いだった。

 魔法使いも居たようだが、創意工夫なんてしていなく、ただ魔法を放っての殺しをしていただけに、特にナニが得意でもなかった。ただ、高火力魔法が好きなだけだった。

 他のメンバーのレベルもそこそこで、身体能力によるゴリ押しで攻略しようとしていただけに、魔物は出ないとの判断から特に装備も用意してなかったのもあって、嬉々として迫る水生魔物の襲撃を受け、呆気なく湖底に沈む事となった。

 ある者は痺れクラゲに麻痺させられ、ある者は細槍魚に急所を刺され、ある者は電気鰻に巻き付かれ、ある者はピラニアに食われて。最後は皆仲良く沈んで行った。

 水中を、水圧を甘く見過ぎでもあった。身体能力を過信し過ぎでもあった。それを過信と言うのだからし過ぎはない。重言である。


 ナニかと迷惑を掛けられてたパーティであっただけに、ダンマス・ルームは大盛り上がりだった。し過ぎでもあった。これは一般論。

 ゴブリンにとってはややし過ぎ、ダンマス・ゴブリンにとっては通常であったようだが。

 先程の非選択者の死亡で得られた初の返り討ちDPも思ったよりも多くて嬉しかったが、今回はちょっとレベル上げを頑張ってたのかもな。ってレベルの選択達が6人。うっはうはでがっぽがっぽ。

 思わずばっこばっこでぶっしゅぶしゅ。色んな液体をDMRで飛び散らかしていた。DMRはダンマス・ルーム。ダイレクト・モリモリ・ラッシュじゃない。でも、そんなし過ぎでもあった。まあお盛ん。


 まだ島に上がっていなかったメンバーも居たが、敢えてそこには攻撃させずに、ムカついてた奴等を確実に殺りに行ったのだった。

 2階層の攻略具合も見てみたいし、より効果的に、より絶望的に改修する為、そんな実験台にするつもりでいた。そんなゴブリンのダンマスだった。


 だが結局は、大した実験も出来なかった。最初の島からの移動。それが出来ずに皆、湖の底へ沈んで行った。

 船も無ければ飛べるでもない。装備を着ければ泳ぎが鈍る。しかし裸では魔物の攻撃で簡単に致命傷を負う。しかも、所々に機雷が浮かび、ワニも浮かび、細槍魚も跳び跳ねる。

 そんな湖を攻略できる選択者は居なかった。また潜って1階層に戻るという選択肢も持てなかった。


 勿論、抵抗はしたし、ある程度の魔物は屠る事が出来た。しかし、数が多過ぎた。ケチらず、一切の容赦なき配置。しかも、皆ダンマスの言う事をよく聞いて動いてくれもした。

 俯瞰して眺められながらの指示、それに素直に、従順に従う魔物達。僅か8人の選択者では、初見で準備も足りない状態では、到底対処しきれない数であり、質でもあった。

 陸の上で1対1なら楽に勝てただろうが、体力にも、魔力にも限りはある。しかも魔物は24時間稼働のブラック・労働者。入って来たばかりで体力はあったとは言え、他の島へと渡る事も出来なかった。


 終局である。

 お疲れ様でした。


 パルテノンの神殿のような建物の中での打ち合わせや、パーティ同士でのいさかいや、荷物持ち達への情けのない暴行や、『次層への転送腕輪』についての考察なんかもあったのだが、特にそれが活かされる事はなかった。

 ひと言、省略である。


 選択肢者達が放つ魔法、攻撃技、チートな装備、つたない連係、やけくそな特攻、仲間割れ、絶望の叫び、断末魔。

 ナニかと楽しむ事は出来たし、参考にもなったようだが、『クリアさせる気なんて更々ないダンジョン』。その通りだった。

 この時逝った数よりも、とあるダンマス・ゴブリンがイった数の方が圧倒的に多かったのは当たり前過ぎて言うつもりもなかったが、参考までに。


【成果】
・選択者18名、非選択者2名の大量の返り討ちDP
・非選択者2名の労働力(隷属の首輪装着済み)

・選択者の装備品や便利そうな魔道具
・愛には嬉しい人間の料理、スイーツ、生活雑貨等

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