2 / 44
0. 長~いプロローグ
死後の世界・チュートリアル
しおりを挟むどうやら俺は死んだらしい。
ここに表示されてるからと言って、盲目的に全てを受け入れるつもりはなかったのだが、やはり俺は死んだのだろう。
死因は『飛行機墜落事故』だそうだ。
それで無傷でこうして居られるという事は、やはりそう思わざるを得ない。それだけの事だ。他にも思うところは何かとあるのだが。話が長くなりそうだから止めておこう。
状況を一旦素直に受け入れてみるのも心を安定させる方法の1つだ。
…………
思えば波乱万丈な人生だったな。…………
まあ、いいか。それを受け止める為の時間まで用意されていようとは。なんと優しさに溢れる仕様なのだろうか。ありがとうございます。
それで裸というのは受け入れるしかないのだろうが。生まれたて時も裸だったんだ。死んだ時も裸になるのは標準の仕様なのかもしれないな。
なんて頭の中で落ち着こうとして余計な事を考えながらタブレットに表示されるままに進んで行くと、それも理解できた。
言わばこれもチュートリアル。
俺は、仕事の関係で、とある中東の国を目指して飛び立っていたはずだった。
現実で中東に。
中東のリアル。
これも1つのチュートリアル。
……
今はいいだろう。さっさと次に進もうか。いつ死んでもいいと思っていたのだが、実際に死んでみると実に呆気ない。死んだのだから当たり前なのか。
特に気を使う相手も居たかったというのが大きいのか。独りも悪くなかったな。
振り返った所で何があるって訳でもない。黒歴史を振り返った所でな。恥ずかしいと思える相手も居ないのだから。今はもう。
それで。
どうやら、このタブレットの指示に従って今後の方向を決めて行くらしい。自らの意思で。
神様とか閻魔様とか、女神様とか天使ちゃんとか、そういった存在の方々は現れてくれないのだろうか。ふと思ってしまった。
駄女神かもん!
……
無いのか。残念だ。
これがそう?
この端末こそが神の遣い?
これなら『駄』が付く要素は無いからか?
…………
虚しいな。いや。これも効率を考えた上での最新設備になるのかな。飛行機事故ならそれこそ大量に、……
止めよう。俺もその中の1人だ。そんな事を考えても仕方ない。特に時間に制限があるでもないみたいで、よく考えて選択するようにとの指示がある。人生の再選択とはそういうものなのだろう。
ならばよく考えて進もうじゃないか。こういうのも悪くない。
人生は選択の連続だったんだ。死んでからも自らの意思での選択があるとは思ってもなかったが、それはそれで楽しめそうだ。
「よし」
ちょいと気合いを入れ直してタブレットと向き合う。
…………
…………
…………
…………
人は死ぬと、基本的にはグレートスピリットと言われる魂の根元的存在の一部に戻って行くらしい。この端末情報に依るとだが。
自殺者には適用されないらしいのだが、今回の俺の死は、不慮の不可抗力の墜落事故。それなりの悪事に手を染めた事はあったはずなのだが、そんなのは許容範囲。
故意に他者を傷付けたり、悪意を持って社会生活を送って居なかったというだけでも、人間としては合格だったらしい。勿論、警察の厄介になったりした事はないし、そっち系の危ない人達との交流があった事もない。
これが本当なら、選んだのが自分だったのなら、日本で生まれて良かったと思った。家庭にも、周囲の環境にもそれなりに恵まれていただけに。本人の資質や能力は置いておいて。
こほん。
そこで選べる2タイプ。
・魂の修行を一旦終え、グレートスピリットに還って暫くのんびりするか。
・すぐに修行を再開するべく生まれ変わるか。
このタブレットに依れば、人間の生きる目的の1つが、様々な経験をする事なのだそうだ。
何の為かは分からない。そう書いてあるだけだ。一方通行のチュートリアル。これは仕方がないのかもしれない。チャット機能は無いのかな。
ふむ。
ただ、生きてきた年数、経験、為してきた事、等々によって選べる選択肢は大きく異なるようなのだが。
簡単に言ってしまえば、増減のあるポイント制。生きてた年数だけでもプラスになるみたいで、他にも、経験内容によって加点、減点されているみたいだ。
例えば、善行値、熟練度、感動値、影響値。みたいな感じで。
まあ、要はやって来た事が何かしらの見えざる存在によって適正に評価されていたという事だ。『適正』の判断は、見えざる存在の価値観なのだろう。
これを見る限り、社会生活を営む上で道徳的に『是』とされる行いがプラスなのだろう。真面目に生きて来て良かったよ。死んだようだけど。墜落事故で。……
輪廻転生。人は何度も生まれ変わって経験を積む。その度にポイントを消費して生まれ変わる。ポイントが多い者はより有利に。ポイントが少ない者はより不利な立場からの出発となる。
容姿や能力、家庭環境なんかも選べるみたいだから。当然そうなる。隠し設定とか裏ステージなんかがあればまた変わってくるのだろうけど。
上手いというか何というか、よく出来た仕組みだと思った。単純だし分かり易い。
生まれ変わるとここでの詳細な記憶はなくなるみたいだから誰も覚えていないはずなんだけど、こういった内容の書物を読んだような記憶はあったような? それも気のせいか?
更に詳しく読み解いて行くと、ポイントは持ち越せるようだ。今回全部使わなくとも、最低限必要だと思う条件だけを選ぶ事も出来るようだ。
何なら、敢えてマイナスの条件下で不遇に堪え、品行方正に長生きすれば、それだけポイントも溜まり易いみたいだ。そんなのも有りらしい。俺は嫌だけど。
出来れば毎回俺つえーとか、俺らっきーって言いながら生きて行きたいと思う。はれーむ要素があれば尚良しとも思う。それが俺だ。
俺が何回生まれ変わってるのかは分からないけど、今あるポイントが持ち越し分を含んでるのか、今回の人生でのポイントだけなのかも分からない。そんな説明は何処にも無いみたいだ。
だが、それなりにポイントが溜まってるように思えた。ひゃっはーなチート野郎まではなれないかもしれないけど。事故のせい? お陰? まあいいか。今更だし。
恐らく、ここでの考え方も人それぞれ。その時の気分や経験値にも依るだろう。こんな状況なのに、不意に死んでしまったはずなのに、俺の心は晴れやかを通り越して躍り狂いたいとさえ思ってしまった。
勿論、遠慮なくポイントは全て使い切るつもりだ。
選べる2タイプの中に、すぐに修行を再開するべく生まれ変わるかの先に、『これまでとは違った世界で新たな経験を積む』があったから。当然だろう。
はい。来ました。
にゅーわーるど。にゅーげーむ。違うか。
暫くのんびりするって選択肢は魅力的だったけど、疲れ切ったおっさんには破格の甘~い言葉に見えたけど、こんな選択肢があったらどうするか。
選ぶよね。選べるのなら。しかも、最終的に決定してから、ドアを開けなければ何度でもリセット出来るらしい。この部屋に居る間は悩み放題。時間制限無し。
ならば進むしかないだろう。タブレットの指示に従って自分という形、入れ物を作り上げて行く作業。そう、キャラクター設定。まさにそれ。
ふっふっふっ。人生って楽しいものだったんだな。この作業が1番の楽しみなのかもしれないけど。そこから先はですゲームになるかもしれないのだから。
いえす。イエス。YESを繰り返すですゲーム。それとも生死を懸けたですゲーム。それを選択するのも自分次第。
はい。お次に進みま~す。
人生、諦めず、不貞腐れず、人様に迷惑を掛けずに生きて来て良かったよ。極力という言葉は各々に付くけど。
些細な事でもポイントにはプラスになる。国家資格じゃない民間資格でも、あまり役には立たなかった浅く広い知識でも、繰り返して来た転職でも、軽い気持ちで始めた習い事でも。
勿論、趣味で始めた事や、長続きはしなかったけど気の向くままに手を出して来た事なんかもしっかり反映してくれてるみたいだ。
嘘など吐けない、誤魔化し様のない、見えざるものに依って詳らかにされる経歴。黒歴史を含む。
ここでの記憶が有りさえすれば、人間、欲望剥き出しで生きようとは思わないのかもしれないのに。それをしないのは何故なのだろうか。
なんてどうにもならないような感想を抱きつつ、今生の俺、よくやったなと声を掛けてやりたくなったりして。
さあさあ。取り敢えず振り分けて行こうかな。
こういうのは将来を見据えてしっかり考えてからっていうのが正しいのだろうが、やり直しは利くのだ。まずは思うままに選んでみるとしよう。
正しいだけが人生じゃない。遊び心も大切だ。真面目一辺倒の人間なんて面白味がないからな。少なくとも今の俺はそう思っている。45年という短いようで長い、長いようで短い人生を送って来たのだから。
どっちやねんって感じやね。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる