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1. 異世界デビュー
町歩き2 夜の帰り道
しおりを挟む不味い。
不味いマズイ不味い。
ヤバイ。
ヤバイ厄場いヤバイ。
男は振り返らないとか偉そうに言っちゃって、それらしく肩で風邪を切って歩き出したまでは良かったが。
今更気が付いた。
ここは何処? 俺はモルト。
ここは花街の1角。町の南にある商業区。それは分かる。でもね。俺が押さえてある宿、『寛ぎの宿 猫の尻尾亭』は何処?
ま、まあ、冷静になって落ち着いて考えれば分かる。
取り敢えず北に向かって大通に出る。そしてそこから東へ向かえばいいのだよ。知ってるさ。でもさ。時間的にも、慌てる必要はないのも知ってる。
門限は、23時。これを過ぎると中に入れてもらえない。そう説明されてたし、了承もしてるから、そこは譲れられない? 無理も言えない。
まだ22時を少し過ぎた位だ。どれだけゆっくり歩いても、30分も掛かるまい。酔ってもないし、迷わなければ、大回りする事にならなければ、直ぐに辿り着いてしまうかもしれない。
5発も出したけど、疲れはそれ程ない。ような? 緊張感のせいでそれも吹っ飛んでるのかもしれないが。今の所、汗はかいてない。冷や汗は出そうだが。
冒険者に釣られて歩いて来ちゃったから、正確な場所は分からない。でも、大丈夫。目印の時計台さえ見付かれば、問題ない。はずだ。
だから探すのだ。建物の隙間を。見通しの良い場所を。
でもね。ここは花街。独特な雰囲気もあって、街並みも独特。残念ながら、そんな隙間はねえ。なら、ここを早く抜ければいいって事になる訳だが。
……
俺はすっかり忘れてた。
ここは前の世界とは違う。24時間営業の店なんて、ここ、花街位しかありませぬ。ぬっ!
言っても、そういうコースにすれば泊まれるってだけで、受付け時間の制限はある。殆どが23~24時迄みたいだが。
花街時間で言えば、まだ受付け時間内なせいか、それなりに人がちらほらとは居る。居るには居るんだが、怪しい人も多いのさ。ああ、怪しい。皆怪しく見えてくる。
外国人から見れば、他の国の外国人は皆怪しく見えるもの。こんな場所で、こんな時間なら尚更に。
何が言いたいかって? ナニは何も言いたくないって感じで、すっかり大人しくしていらっしゃる。萎んでいらっしゃる。
俺は、もしかしなくても、狙われてるかもしれない。そんな視線をびんびん感じちゃう。いやん。そんな目で見ないで! なんて言って走り出したい気分。息子は相変わらず無反応。ぶれないな。
走った所で、余計に不味い方向に行ってしまうかもしれないし、余計に時間が掛かる事になるかもしれない。そして、……。
オヤジ狩りと言う名の、とっても酷い仕打ちを受けちゃう可能性、有り? 散々イったから、これで逝っちゃう事になるのかな? なんて。
いやいやいや。まだ決まった訳じゃない。ただ、どの店に入ろうか物色してるのかもしれないし、偶々目が合っちゃっただけかもしれないし。
男同士なんだから。玉々同士、仲良くね? 考える事は同じでしょ? 違うかも。
取り敢えず、まだ店を物色してる振りをしながら、看板をあちこち眺めながらも花街を抜ける方向に歩いてます。多分。合ってるはず。こういう時の勘ほど頼りにならないものはない?
さっきと違って、魅力的な看板のはずなのに、今は全然妄想する気になれません。息子も起きてくれません。そこに意識を向ける事すら難しい。剥けてないだけに?
……
最悪、何処かの店に駆け込んで、お泊まりコースを選んでやればいいのかもしれないけど、何処か勿体無い気もしてしまう。
命と金、どっちが大切かなんて知ってるさ。ああ、知ってるさ。でもね。勿体無いって気持ちもあるのだよ。
どうせなら、さっきの店でお泊まりコースにしとけば良かったとか。宿代も払ってるから二重払いはしたくないとか。この状況で外れの店を引いたらめっちゃ悔しいじゃんとか。
仮に当たりだったとしても、流石にもう致せないでしょ。立つかもしれないけど、出ないでしょ。また痛くなっちゃうよ? 股と言わず玉々の方。竿々の方も。
そんなの嫌だし、それこそ滅茶苦茶勿体無い。堪えられない位に勿体無い。金だけ払ってやれないなんて。やらないなんて。そんな勿体無い事しちゃダメ!
なんて怒られそう。未来の自分に。命があればだけど。
後悔先に立たず。息子も言っている。行動で示してくれている?
だから、取り敢えずは、無事に宿に戻る方向で進むのです。合ってるよね。こっちで。
うん。花街はまだそれなりに明るく街灯が灯ってるけど、その先には暗闇が待ち受けてる感じ? 全く街灯がないって事はないけど、光量は段違い。エコだね。じゃねえ!
俺にはこの先が、自分の暗い未来のようにしか見えない!
歩いて近付いて行く程に思う。闇に自ら吸い込まれるかのように歩く俺。光に群がる蛾のように、闇に引き寄せられるおっさん。滅される?
それとも、そっちには三途の川があるのかな? 渡っちゃう?
必要ないから灯さない。分かるよ。分かっちゃいるさ。無駄遣いは良くない。それも知ってる。
昼と夜の境いを人工的に壊してしまう便利道具を作り出しても、それを無駄に使い続ければ、自ら体内時計という生物が生まれながらに持ってる生体機能を狂わせてしまうだけだ。
太陽の恵みも、闇の静寂も、自然という宝物を自らの愚行に拠って壊して行っているようなものだ。
でも。便利な生活には勝てない。それも知ってる。
でも。今は恨めしい!
自分が!
調子に乗って、宿までの帰り道を確認しなかったあの時の自分をぶっ飛ばしてやりたい! やりたい気持ちが強過ぎて、そんな事すら忘れてた! てへ。てへじやねえ!
しっかり確認しとけよっ! どあほうがっ!
『おふくろの味 八重亭』で、おふくろの味とか言ってんのに、生姜焼き定食なんか食ってんじゃねえ! 旨かったけど。
まだ時間も少しあるからと、日本酒なんてゆっくり飲んでんじゃねえ! しかも、酔ったら息子に影響があるかもしれないからって、1杯だけで粘りやがって!
そんな時間があったら、帰路を確認しとけやボケぇっ!
きらきらの花街の看板見て、ネーミングセンスに感動して、あんな事やこんな事を妄想して楽しんでんじゃねえっ!
はあはあはあ。
それと、最後に、繰り返しになるけど、男は振り返らないとか偉そうに言っちゃって、格好付けて店を出てんじゃねえ!
聞いとけよ! 恥も外聞もなく色々聞いただろうが! 宿の方向くらい、聞いても恥ずかしくないだろうが! この、ドあほうぐあぁっ!
でもね。世紀末仕様の冒険者に釣られて行っちゃった事は後悔してないんだよ。当然です。
結果としては大満足だったし、また行きたいとも思ってる。イきたいとも。だからそこは反省しない。
反省すべくは、『家に帰るまでが遠足です』。この言葉の深い意味を、今になって思い出した事。
旅先でも、宿に戻るまでが外出。しっかりルートの確認はしておくべきだった。いい年こいて、やりたい一心でそんな大事な事まで吹っ飛んじまった。まだまだだ。日々修行。人生なんてそんなもの。
やれやれ。落ち着いたか。俺。
そうだ。『おやつは500円まで』とも言われてた。やはりこれ以上の出費は控えるべき。そういう事だろう。深いよねえ。
やれやれ。決心は付いたか。俺。
出来る事をするぞ。やるしかない。やらなきゃ殺られる。かもしれない。異世界舐めんなよ。散々舐めて舐められて来たけど。それとこれは全く違う舐め!
結局、疑心暗鬼で色々警戒してたけど、お店もサービスも女の子も最高だったけど、最終的には、自らのバカさ加減でピンチに陥る俺。
なんて過酷な世界。俺は最低でーす。
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