SAND PLANET《外伝》 ~はじまりの兄弟~

るなかふぇ

文字の大きさ
12 / 16
第二章 来訪者たち

7 ※・※※

しおりを挟む

 ロバートは木の枝を放り出し、すぐに寄ってくると、フランの猿轡を外してくれた。
「ロバート! 何やってるの。こんなことしちゃ……」
「だって。このままじゃ危なかったろ?」
 ロバートはフランのいきなりの抗議に不服そうな顔になった。
「なんだよ。このままこいつに犯されても良かったのか、あんた」
「い、いや。そうじゃないけど──」

 だが、これではあとで彼がどんな報復をされるか分からない。
 ロバートは手首のロープをほどこうと頑張っている。 
「くそっ。固いな」
 忌々しげに彼が舌打ちした時だった。
「おい。そこで何やってんだ」
 彼の背後から野太い声がした。他にも数名の足音。
 ほかの乗組員が起きだして来たようだった。

「なんだ……? ダミアン、どうした」
「ってか、おい──」

 男たちが息を呑む気配がした。
 そのとき月明かりに照らされたフランの姿がどんなものだったか。それは想像に難くない。
 胸元は完全にはだけられ、下半身は生まれたままの姿だ。足を開かれ、身体の中心はゆるく屹立し、尻の奥は濡れそぼって。
 フランは慌てて足を閉じたが、もう遅かった。

 男たちはわさわさとこちらに近づいてくると、手にしたライトを無遠慮にフランの体に当てた。

「なんだ、抜け駆けかよ? やってくれんじゃねえかよ、ダミアンさんよ」
「だなあ。俺らにあんだけ、『フランに構うな』ってうるさかったくせによお」

 一人の男が、フランの脇で気を失っているダミアンの体をぐいと足で押しのけた。

「てめえもどけよ、このうすらボケ野郎!」
 別の男が容赦なくロバートの脇腹を蹴り上げた。
「ぐは……!」
 痩せたロバートはひとたまりもなくその場に転がり、身を丸めてうめき声を上げる。
 手首のロープは外れていない。
 男たちの目には、明らかな獣欲が燃えたぎっている。

(ああ……!)

 フランは自分の血の気の引く音を聞いた気がした。
 それは考えられる限り、最悪の展開だった。





 そこからのことは、記憶がとても曖昧だ。
 理性のたがを外した男たちは、フランの体にむしゃぶりついた。
 彼らはフランを好き放題に犯し、何人もで輪姦した。

「甘い……甘いぜ。たまんねえ」
「こんなの、ほんとに反則だ」
「あんたの体は美味うますぎる」
「こんなので我慢しろなんて、今の俺らにゃ無理すぎだぜ……!」

(やめて。……もうやめて。許して)

 何度、そう願っただろう。
 願うだけでなく、実際口でも何度もそう懇願した。男たちのものがそこに突っ込まれていない時には、だが。男たちは苦くて妙な匂いのする体液を思う存分フランの体に注ぎ込み、顔と言わず体と言わずに浴びせ続けた。フランの体の内側も外側も、男たちのそれでどろどろに汚された。
 男たちはフランの秘奥だけでなく、口でも存分に欲望を発散させた。ときには二人同時に秘奥に挿入し、手にそれぞれの逸物を握らせた上、口での奉仕も要求した。
 以降のことは、よくわからない。フランはただただ許しを懇願しながらも、男たちの要求に応える以外のことができなかった。

 やがてフランのものを舐めしゃぶっていた誰かがとうとう、堪りかねたようにそこに食らいついた。

「ひいいいッ……!」

 凄まじい痛みが全身を貫く。
 悲鳴をあげ、許しを乞い。
 でも、誰にも届かなかった。

(助けて……たすけて)

 脳内だけで叫び続けた声は、恐らくそのとき、やっと兄に届いたのだと思う。
 自分たちは、深い深い場所でつながっている。互いにそうと望んだとき、自分たちは思念によって意思を通じ合わせ、互いの場所を知らせあうことができたから。

(助けて……! アジュール)

 フランが心の中でそう叫んだ時。
 それは頭上に、男たちの手にした刃物が打ち下ろされる瞬間だった。
 
 それまでの窮乏の中でひどく肉に飢えていた男たちが、その時なにを考えていたものか。今となっては、誰も解き明かすことができない。
 その時の男たちで存命の者は、誰一人のこってはいないからだ。
 
(……そう。殺したんだ)

 あの兄が。
 あの男たちの、あまりの凶行に激怒して。
 いや、無理もない話だった。
 しかしそれは、全部自分の責任だった。
 彼らとの距離の取り方を誤り、事態に直面したときのこれといった行動方針もなく。そのままいい加減な態度をとり続け、中途半端な愛想笑いを振りまいてしまった、自分の責任だったと思う。
 彼らの命の責任は、自分にこそあるのだ。

 あの兄が、人類というものを心底から憎み、蔑むようになったのも。
 彼らを「蟲ども」と言って毛嫌いし、この惑星そのものにステルス機能を施して、その後いっさい外界とのつながりを断ってしまうことになったのも。

(全部、僕が悪いんだ──)

 次に意識をとりもどした時には、フランはあの「たい」の中に浮かんでいた。最初のうち、体はほとんど四散したかのようにバラバラで、手も足もない状態だった。
 その「胎」の前で、目の落ちくぼんだ恐ろしい相貌でうずくまっていた兄の姿。
 フランはあれを、あの鬼気迫る兄の姿を一生忘れることはないと思う。
 そんなに多くの食事をしなくとも大丈夫な体をしているはずなのに、ひどく痩せさらばえて薄汚れた体躯。人類の男性のように無精髭なんてものは生えないけれど、兄はひどく憔悴して、髪も肌もぼろぼろになっていた。
 やっと意識が戻っても、すぐにはしゃべることもできなかったフランを、兄の氷の色を載せた瞳はなんともいえない光を湛えて、長いことじっと見つめ続けていたものだった。

 それから、ふたりは本当にふたりきりになってしまった。
 ふたりきりで生きることを選び取ってしまったのだ。
 この宇宙の辺境の、砂ばかりの惑星で。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...