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第二章 来訪者たち
7 ※・※※
しおりを挟むロバートは木の枝を放り出し、すぐに寄ってくると、フランの猿轡を外してくれた。
「ロバート! 何やってるの。こんなことしちゃ……」
「だって。このままじゃ危なかったろ?」
ロバートはフランのいきなりの抗議に不服そうな顔になった。
「なんだよ。このままこいつに犯されても良かったのか、あんた」
「い、いや。そうじゃないけど──」
だが、これではあとで彼がどんな報復をされるか分からない。
ロバートは手首のロープを解こうと頑張っている。
「くそっ。固いな」
忌々しげに彼が舌打ちした時だった。
「おい。そこで何やってんだ」
彼の背後から野太い声がした。他にも数名の足音。
ほかの乗組員が起きだして来たようだった。
「なんだ……? ダミアン、どうした」
「ってか、おい──」
男たちが息を呑む気配がした。
そのとき月明かりに照らされたフランの姿がどんなものだったか。それは想像に難くない。
胸元は完全にはだけられ、下半身は生まれたままの姿だ。足を開かれ、身体の中心はゆるく屹立し、尻の奥は濡れそぼって。
フランは慌てて足を閉じたが、もう遅かった。
男たちはわさわさとこちらに近づいてくると、手にしたライトを無遠慮にフランの体に当てた。
「なんだ、抜け駆けかよ? やってくれんじゃねえかよ、ダミアンさんよ」
「だなあ。俺らにあんだけ、『フランに構うな』ってうるさかったくせによお」
一人の男が、フランの脇で気を失っているダミアンの体をぐいと足で押しのけた。
「てめえもどけよ、このうすらボケ野郎!」
別の男が容赦なくロバートの脇腹を蹴り上げた。
「ぐは……!」
痩せたロバートはひとたまりもなくその場に転がり、身を丸めて呻き声を上げる。
手首のロープは外れていない。
男たちの目には、明らかな獣欲が燃え滾っている。
(ああ……!)
フランは自分の血の気の引く音を聞いた気がした。
それは考えられる限り、最悪の展開だった。
◆
そこからのことは、記憶がとても曖昧だ。
理性の箍を外した男たちは、フランの体にむしゃぶりついた。
彼らはフランを好き放題に犯し、何人もで輪姦した。
「甘い……甘いぜ。たまんねえ」
「こんなの、ほんとに反則だ」
「あんたの体は美味すぎる」
「こんなので我慢しろなんて、今の俺らにゃ無理すぎだぜ……!」
(やめて。……もうやめて。許して)
何度、そう願っただろう。
願うだけでなく、実際口でも何度もそう懇願した。男たちのものがそこに突っ込まれていない時には、だが。男たちは苦くて妙な匂いのする体液を思う存分フランの体に注ぎ込み、顔と言わず体と言わずに浴びせ続けた。フランの体の内側も外側も、男たちのそれでどろどろに汚された。
男たちはフランの秘奥だけでなく、口でも存分に欲望を発散させた。ときには二人同時に秘奥に挿入し、手にそれぞれの逸物を握らせた上、口での奉仕も要求した。
以降のことは、よくわからない。フランはただただ許しを懇願しながらも、男たちの要求に応える以外のことができなかった。
やがてフランのものを舐めしゃぶっていた誰かがとうとう、堪りかねたようにそこに食らいついた。
「ひいいいッ……!」
凄まじい痛みが全身を貫く。
悲鳴をあげ、許しを乞い。
でも、誰にも届かなかった。
(助けて……たすけて)
脳内だけで叫び続けた声は、恐らくそのとき、やっと兄に届いたのだと思う。
自分たちは、深い深い場所でつながっている。互いにそうと望んだとき、自分たちは思念によって意思を通じ合わせ、互いの場所を知らせあうことができたから。
(助けて……! アジュール)
フランが心の中でそう叫んだ時。
それは頭上に、男たちの手にした刃物が打ち下ろされる瞬間だった。
それまでの窮乏の中でひどく肉に飢えていた男たちが、その時なにを考えていたものか。今となっては、誰も解き明かすことができない。
その時の男たちで存命の者は、誰一人のこってはいないからだ。
(……そう。殺したんだ)
あの兄が。
あの男たちの、あまりの凶行に激怒して。
いや、無理もない話だった。
しかしそれは、全部自分の責任だった。
彼らとの距離の取り方を誤り、事態に直面したときのこれといった行動方針もなく。そのままいい加減な態度をとり続け、中途半端な愛想笑いを振りまいてしまった、自分の責任だったと思う。
彼らの命の責任は、自分にこそあるのだ。
あの兄が、人類というものを心底から憎み、蔑むようになったのも。
彼らを「蟲ども」と言って毛嫌いし、この惑星そのものにステルス機能を施して、その後いっさい外界とのつながりを断ってしまうことになったのも。
(全部、僕が悪いんだ──)
次に意識をとりもどした時には、フランはあの「胎」の中に浮かんでいた。最初のうち、体はほとんど四散したかのようにバラバラで、手も足もない状態だった。
その「胎」の前で、目の落ち窪んだ恐ろしい相貌でうずくまっていた兄の姿。
フランはあれを、あの鬼気迫る兄の姿を一生忘れることはないと思う。
そんなに多くの食事をしなくとも大丈夫な体をしているはずなのに、ひどく痩せさらばえて薄汚れた体躯。人類の男性のように無精髭なんてものは生えないけれど、兄はひどく憔悴して、髪も肌もぼろぼろになっていた。
やっと意識が戻っても、すぐにはしゃべることもできなかったフランを、兄の氷の色を載せた瞳はなんともいえない光を湛えて、長いことじっと見つめ続けていたものだった。
それから、ふたりは本当にふたりきりになってしまった。
ふたりきりで生きることを選び取ってしまったのだ。
この宇宙の辺境の、砂ばかりの惑星で。
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