SAND PLANET《外伝》~忘れられた惑星(ほし)~

るなかふぇ

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第四章 この宇宙の片隅で

11 新たな歴史を

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「あ、いや。別にその……パパが欲しくないっていうなら、関係ないことなんだけど」
「そんなことを言った覚えはないが」
「え?」

 あっさりとそんな言葉が返ってきて、青年は驚いて目をあげた。
 男はそれで、逆にむっとした顔になったようだった。

「なんだ、お前。それが心配だったのか?」
「え? いや、えーっと。そういうことじゃ……なくって」

 完全にしどろもどろになる。
 青年は必死で脳内にいろんな表現のバリエーションを展開させ、それらを取捨選択せねばならなかった。

「えっと、あのね……? フランパパのとこの子供たちを見てて、思ったんだ。赤ちゃんって可愛いなって。家族ができるって、大変なこともあるんだろうけど、こんなに楽しくて嬉しいんだなって……。もし、もしも……僕とパパにもそういうことができるんならどんなにいいかなって。でも──」

 耳がさらに、燃えるように熱くなる。
 さっきよりももっともっと、手をもじもじさせて俯いた。

「えっと、えっと。ぼ、僕とパパは、フランパパとヴォルフパパとはその……逆、っていうか。だから──」
「ああ。なるほどな」
「えっ!?」

 あまりにあっさりとそんな返事が来て、青年は目を剥いた。

「いや、その……えっ? 待って。僕、その……ってちょっと無理、みたいな……??」
「『そっち』ってどっちだ」
 しれっと訊かれる。
「ええっ?」
 ほとんどパニックになって見上げたら、男は完全ににやにやと、面白そうにこちらを見下ろしていた。

「まあ、お前だって男なんだしな。ちゃんと立派なものはついてるんだ。に回ることは可能だろう。物理的にはな」
「いや、待って。ちょっとパパ……?」
 それはいくらなんでも、あけすけ過ぎないか。
「なんなら、今から試してみるか?」
「えええっ!?」

 青年が驚いている暇もあらばこそだった。言うが早いか、男はがばっと掛け布を跳ねのけて青年の腰に跨った。二人とも、まだ生まれたままの姿だ。
 男の手がそろそろと青年の足の間のものをさすり始める。

「あ、ちょ……!」
「別に、簡単なことさ。これを固くしておいて、俺のここに挿れる。俺が動いてやるから心配いらん。お前は寝ていればいい。そのまま中に出すだけだ。あっというまに子ができるぞ」
「や、やだっ。ちょっとってば……!」

 上からぐいとし掛かられて、眩暈めまいがしそうになる。
 足の間のものが、男の手にさすさすと触れられて早速反応を始めてしまった。男がまぶたを半ばまで下ろし、喉奥でくくっと笑う。

「なるほど、さすがの若さだな。ここは正直だ」
「え? いやいやいや! そんな、待ってって!」
 青年はもう必死で、男の体を押しのけようとした。が、人外である男の腕力は凄まじい。がっちりと腰をおさえこまれ、ろくに動かせもしなかった。
「いやっ! いやいや! やめてよっ。僕、そっちは無理だよう!」
「ぶっは……」

 何とか動かせる両手と顔だけをわたわたと横に振りまくって叫んでいたら、とうとう男が吹き出した。

「ふは……あは、あっはははは!」

 青年の腰に跨ったまま腰をそらせ、涙まで滲ませて笑っている。
 こんな風に楽しそうに、この人がゲラゲラ笑うところなんて初めて見た。
 青年はしばし呆然と、そんな彼を見上げて固まっていた。

「……すまん。ちょっといじめてみたくなっただけだ」
 やがて男は、目尻にたまった涙をちょっと指の甲で拭って笑いをおさめた。
「あいにく俺も、できればは御免だな。なにしろ百年以上もこっち側だったわけだし。こればっかりは、今更変えられないと思う」
 まだくつくつ笑いながら、柔らかな眼差しで青年を見下ろしている。
「結果的に、お前には色々と無理をさせることになってしまうが。できればこの立ち位置でお願いしたい。入浴そのほか、サポートは十分にさせて頂く」

 いいだろうか、と訊かれて、途端にかあっと血がのぼった。
 間違いない。これは完全に遊ばれたのだ。そうとわかってほっとするのと入れ替わりにむかむかとせり上がって来たもので、青年は頬を膨らませた。

「もうっ!」
 そのまま、引き締まった男の腹筋や太腿のあたりを拳骨でぽかぽかやる。もちろん本気のものではない。
「やっぱりそうじゃんっ! バカバカ、パパのバカ!」
「悪かったって」

 言いながら、男はさらに大笑いした。
 明るい笑声が部屋に響く。やっぱりこんなことは、青年が生まれて以来初めてのことだった。もしかしたらあのフランパパがここに居た頃からですら、初めての事態だったかも知れない。
 しばらくされるままになっていた男は、やがて青年の両手首を掴んで枕に押し付け、上から覆いかぶさってきた。
 どきりとするほど蒼く澄んだ綺麗な瞳が、じっと自分を見つめてくる。

「……まあ、子供が欲しくなればなんとでもなる。お前の遺伝情報──まあ、平たく言えば精液だな。それだけ渡してくれればいい」
「せ……せいえ……?」
 あんまりな単語がきて、青年は口をぱくぱくさせた。対する男はにやにやと口角を上げたままだ。
「それも、できるだけイキのいい奴をな。子を生むだけなら、俺がそうすればいいだけの話だ」
「パパ……」
「なにしろ、俺たちはお前たち人間とはわけが違う。百発百中な上、相当に手間いらずだ。あっという間に生んで見せるさ。何人でもな」

 ちゅ、と鼻の頭にキスが落ちてくる。

「が、済まんがしばらくは二人でいたい。お前だって、ついこの間まではぴーぴー泣くだけの赤ん坊だったんだ。子育てのこと以外にも、もっと学んでおかねばならないことが山ほどある。このところ、なんだかんだですっかり学習をさぼっていたようだしな」
「あ、うん……」
 ややきつい目で睨まれて、青年はちょっと目をしょぼしょぼさせた。それを言われるとどうしても弱い。
「それに、子供が小さいうちはかなり手を取られることになるぞ。二人でゆっくりできる時間なんてまずなくなるが。お前はどうだ? それでいいのか」
「え?」
 と、ずいと顔を近づけられて目を覗き込まれた。
「俺と二人きりでこうしていられる時間が、もう少し欲しくはないのかと訊いている」
 男の瞳はどこまでも澄んで綺麗に見えた。
「え、ええっと……」

 青年はちょっと考えた。
 やっとこうなれたこの人と。
 もう少しこうやって、二人きりの時間を──。

(そんなの──)

 考えるまでもないことだった。

「うん。僕もしばらくは、パパとふたりっきりが、い──」

 それは最後までは言えなかった。
 くちゅりと舌を絡ませて、深いキスが降りてきたから。
 解放された両手で男の背中をしっかりと抱き返し、青年は温かなキスに応えながら目を閉じた。
 しばらくそうやって互いの唇を味わってから、男はふと顔を離して言った。

「そういえば、なんだがな」
「え……」

 キスの余韻でぼうっとしている青年の顔を、男は不思議な瞳でじっと見ていた。

「その、呼び方だ。こうなった以上、俺はもうお前の『親』とは言えないだろうし」
「あ。……うん」
 それはそうかも、と思いながらも首をかしげたら、男は静かに微笑んだ。
「名前で呼んで構わんぞ。俺も今後は、お前を『ジュニア』と呼ぶことにしよう。まあ、お前がいいならだが」
「え……」

 この男を、名前で呼ぶのか。
 あのフランパパがそうしていたように、「アジュール」と……?

「…………」

 青年はしばし考えた。
 が、やがてぷうっと頬を膨らませて男を睨んだ。

「やだ。パパは、パパだもん」
「……そうか」
「僕のことは『ジュニア』でいいよ。でも、パパはやっぱり、パパだもん……」

(僕のパパ。僕だけの、パパだもん──)

 そう思って力いっぱい抱きつくと、男はもう何も言わず、それ以上の力で抱き返してくれた。
 次にはまた、息もできないようなキスがおりてくる。

 やがて部屋には、再び青年の甘やかな喘ぎがあふれ出す。
 ゆるやかに、高く低く。
 熱く、激しく。

 やがて淫靡にとろけていくそれを、ただAIだけが聞いていた。


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