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第四章 この宇宙の片隅で

10 睦言 ※

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「あっ……あぅ、あっ、あっ……!」

 そこから起こったことについては、青年は大半を覚えていない。
 とにかく、ついていくだけで必死だった。
 腹の奥をごりごりと男の熱い芯棒に突き続けられる。部屋には一層、淫らな水音と肉のぶつかりあう音が響き続けた。

「ひいっ……や、ああん、あん、あんっああ……!」

 男に思う存分に揺すられて、あらぬ場所を思い切り、何度も何度も突き上げられて。
 体位を変えられ、思うさま足を開かれて。
 最後はもう、本当にあられもない恰好で嬌声を上げまくるしかできなかった。

「ひあっ……! あ、あ──」

 脳の中心が真っ赤に染まり、しまいに真っ白にはじけ飛んで。
 遂には何もわからなくなる。
 結局、いったい自分が何度達したのかも定かでなかった。

 男に言わせれば「最初だからかなり手加減した」ということだったけれど、とても信じられなかった。とにかく男は、それから何度も青年の中で達してくれたのだ。
 触れれば火傷しそうな男の熱が腹の奥で爆発するたび、青年は感電したように体全体を震わせてそれを受け止めた。叩きつけられる男の欲望のすべてを、この体で吸い尽くしてしまいたかった。

 幸いにもと言うべきなのか、人間ではない男の精液は人体に害を及ぼさないものであるらしい。本物の男がこれと同じ行為をすれば、注がれた側には腹を下したり感染症にかかったりといったリスクが大いにあるという話だった。





「……起きたか」
 耳元で低い男の声がして、青年は目を覚ました。
「ん、パパ……」
 喉のところまで気だるい多幸感にかり、重い眠気に包まれて、ぼんやりと視線を彷徨わせる。
 あれからすでに何時間も経ってしまっているようだ。隣に横たわった男はいま、寝床の中で青年を抱きしめて、ゆっくりと髪を撫でてくれていた。うっすらと目を開けたところで、静かにキスが落ちてくる。
 行為中、互いの体は体液や汗でどろどろになっていたはずだった。だが今、それはすっかり綺麗にされている。自分が最後はついに気を失うように眠ってしまったので、すべて男が世話をしてくれたのだろう。

「お風呂、入れてくれたの……? ありがと、パパ……」
「ああ」

 氷の色を浮かべた男の瞳がすぐ目の前でにやりと笑った。色はひどく冷たそうなのに、今はそれが温かく優しいものに見える。とても不思議な感じだった。

「しかし、やっぱり赤ん坊とは訳が違うな。ひと苦労したぞ」

 本当に大きくなったもんだ、と言いながら、軽く後頭部をぽすぽす叩かれる。
 青年は男の胸に顔を寄せ、もっとしっかりと抱きつこうとした。その拍子に、先ほど散々に舐めまくられて腫れてしまった胸の尖りがひりひりする。そうっと見下ろせば体じゅう、どこもかしこも男につけられた赤い印が散り放題に刻まれていた。
 腰のほうはもっと切実だ。少し動くだけでもひどく重だるい。

「うっ……く」

 それやこれやで身じろぎするだけでもつらく、ちょっと動こうとして思わず眉を顰め、低く呻き声を上げてしまった。
 男が少し困った顔になった。

「すまん。最初にしては、ちょっと無理をさせすぎた」

 もう少し自制できるつもりだったんだが、とかなんとか言いながら、やや面目なさげな顔になっている。青年はくすっと笑い、男の胸に顔をすり寄せた。
 前から抱き合っているだけなのに、不思議なぐらいにぴったりと互いの体が密着している。それがひどく心地いい。
 このままこの人と、溶け合えてしまえばいいのにと思った。

「……ううん。いいんだ」

 それだけ、あなたが僕を求めてくれたということだ。そう思えば何でもない。むしろ、頬がにやにやと緩んでしまう。お腹がほこほこするような温かな気持ちが、次々にあふれ出してくるからだ。

「パパ、ありがと。すっごく嬉しかった……」
「……そうか」

 それだけ言って、男は青年の頭にキスを落とした。
 あらためて両腕で抱きしめられる。

(ああ……)

 この人の腕の中にさえいられるなら。
 どんなことがあったって、きっと自分は大丈夫なのだ。

「……んね。パパ?」
「ん?」
「えっとね……ちょっと変なこと、訊いていい?」
 言われて男はやや変な顔になった。少し体を離してこちらを見つめてくる。
「なんだ?」
「んー。えっとね……」

 言いかけておきながら、青年はしばらく躊躇ためらった。
 なんとなくだけれど、こういう行為にはずっと前から「役割」みたいなものがあるような気がしていた。実はあのヴォルフパパとフランパパを見て、その感覚はより強くなったのだ。
 だからこれをこの男に訊ねるのには、相当に勇気がいった。

「えーっと。つまり……あ、赤ちゃんの、ことなんだけど──」

 やっとそう切り出したら、男は目を丸くした。

「赤ん坊……? どういうことだ」
「だ、だからさ──」

 さらに見つめられて、どんどん耳のあたりが熱くなる。きっと自分は、いま顔じゅうを火照ほてらせていることだろう。
 胸元で両手をもじもじさせながらちらっと上目遣いで見やると、男は完全に怪訝な顔になっていた。

「あ、いや。別にその……パパが欲しくないっていうなら、関係ないことなんだけど」

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