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第六章 帰還
5 愛撫 ※
しおりを挟む帝都、青碧の東宮御所。
その湯殿で、ユーリは久しぶりの沐浴をした。
本来は玻璃との婚礼と《七日七夜の儀》のときにすでに行われた諸々のことだったのだが、これほど長く肌を合わせなかった人との久しぶりの夜だ。やっぱり隅々まで綺麗にしておきたかった。
とはいえ、アルネリオのように身支度に手がかかるわけではない。こちらの国にはそれに必要な便利な器具がいくらでもあり、彼を受け入れる大切な場所も、ここではすんなりと清潔にすることができる。
ロマンと側付きの女官たちの手を借りて身を清め、ユーリは滄海式の白絹の夜着に身をつつんで、寝所で静かに我が夫を待った。
玻璃は退院すると、早々に御前会議に復帰した。
瑠璃は以前から宣言していた通り、すぐに「皇太子代理」としての立場を返上して兄にその座を譲り渡した。これからは兄弟が手に手をとって協力し合い、さらに政権を盤石のものにしていくのだそうである。ユーリもひとまずは安心していた。
「皇太子殿下のお渡りにございます」
小さな声で扉の外から側付きの女官の声がかかり、天蓋つきの寝台の縁に座っていたユーリは一気に緊張した。
なにしろ、とても久しぶりだ。
ずっと待ってはいたし、彼もそう思ってくださっていたのは知っている。けれど、あまりに久しぶりであるために不調法なことをしてしまわないか。それだけがひどく不安だった。
が、するりと入室してきた夜着すがたの玻璃の顔を見た途端、ユーリは自分の肩から力が抜けるのを覚えた。
「おお、ユーリ。待ちわびたぞ」
玻璃はいつもの玻璃だった。緊張など欠片もない、ただただ一点の曇りもなく懐の深い笑みを湛えている。そのまま、まっすぐにこちらへやって来た。
本来であれば宿直の者が部屋の四隅に控えるものなのだそうだが、ユーリが懸命に固辞するので、今夜も部屋の外にしりぞいている。
「前回そなたを抱いてから、一体何日経っているものやら。宇宙から来たあの御仁には、まったくとんだ横槍を入れられたものよ。なあ?」
隣に腰をおろし、肩を抱きよせながらそんなことを耳に囁かれるだけで、背筋にぞくんと電気が走った。
「ん? どうした。緊張しているのか」
「あ、えーと……はい。なんだかとても久しぶりすぎて、ですね……」
ここまで来ると、もうほとんど初夜みたいなものだ。あの七日七夜、あらゆる体位で存分に抱かれたのが、もう遥か昔の夢のように思われる。
が、俯いて口の中でごにょごにょ言っていたら、あっさりと唇を奪われた。
「んう……」
「まあ、そうだな。俺もそれに近いものがある。だが、これはこれで新鮮、一興。そうではないか。ん?」
口づけの合い間にそんな言葉を耳に流し込まれる。
「一興って、いやあの……んんんっ」
そこから一気に深いくちづけになり、ユーリは言葉を紡げなくなった。
(ああ……嬉しい)
玻璃の匂いがする。長く豊かにうねる髪から、彼だけが使う高貴な香のかおりも立ちのぼる。
太い腕がぎゅうっとユーリの背中をかき抱き、次第に寝床に沈められていく。
あの宇宙船で大きな筒に入れられていた彼からは決して感じることのできなかった温かさ。
耳朶を食まれ、背中から脇腹、腰へと下りていく手を感じるだけで、背筋をぞくぞくと覚えのある感覚が駆け巡りはじめる。
「んうっ……!」
布地の上からするっと足の間のものに触れられて腰がはねた。玻璃はユーリの手を取ると、自分の股間へと導いた。そこにあるものは布地を通してもはっきりと勃ちあがり、欲望を露わにしてくれていた。
羞恥を覚えないわけではないが、ユーリはただ嬉しくて、玻璃の舌に自分のそれを絡めあわせながら、そこを上からそっと撫でた。途端、それがさらにぐうっと力と硬さを増した。
玻璃の唇はユーリの首筋をなぞり、鎖骨の上にも丁寧に愛撫を落としている。夜着のあわいから鼻先をさし込んで、じわじわと胸の突起へ近づいていく。どうにももどかしくて、ユーリは身をよじらせた。
「ん……ん、玻璃、どの……」
「もう『どの』は要らぬと言うのに」
くふ、と笑った場所が胸の尖りのすぐそばで、吐息が触れただけでユーリはまた腰を跳ねさせた。
「ひゃ……!」
「敏感になっているな。ここもすっかり、『初物』に戻ってしまっておるようだし」
言いながら、着物ごしに入り口をなぞられてしまう。ぞくっと肌が粟立った。
「あうっ! や……!」
「ゆるゆる進めるゆえ、しっかりと感じるがいい。声も我慢しなくてよいぞ。むしろ大いに聞かせて欲しい。よいな?」
「ん……あ、あ……玻璃……」
寝床に背中を押しつけられ、大きな手が腰から太腿へと愛撫をずらしていく。自然に片膝を立て、玻璃の腰に巻き付けるようにしながら、ユーリは深い多幸感に包まれていた。
何度も舌を絡めあって、ようやく唇を離すと、彼の顔を両手で挟むようにして薄紫の瞳を覗き込む。
「はやく……抱いて。玻璃……」
途端、玻璃の瞳の奥に野生の光が灯ったのがはっきりわかった。
「そう煽るな。配殿下」
でありながら、男はにこにこと笑みを絶やすことはない。男の指はひたすら優しく、ユーリの体の隅々まで愛撫し、ゆっくりと拓いていった。
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