白と黒のメフィスト

るなかふぇ

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第十四章 審議

18 皇后の陰謀

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 その後、セネクス翁は《跳躍》を使ってみんなを隠れ家に送り届けてくれ、そのまますぐに魔塔へと戻っていった。かなりご多忙な様子である。
 ともあれ、まずは皆で、居間に集まって今日のまとめと意見交換をおこなうことになった。
 集まったのはインテス様、レオ、ティガリエ、ラシェルタとシディだ。

「しかし、ようございました。思っていた以上に陛下の後押しがあったのは驚きでしたな」

 口火を切ったのはラシェルタ。彼は相変わらずこちらにとどまってくれている。基本的に、ティガリエとともにシディとインテス様を守ることが自分の務めだと考えているようだ。もはやセネクス翁に命じられたからとかいうことは度外視しても「それが当然」といった態度なのが頼もしい。

「ま、気持ちはわかる。あんだけ目をかけて皇太子にまでしてやったっつーのに、親である自分をじわじわ毒殺しようってんだからよー」
 のんきな声で答えたのはレオだ。
「もともと能力を買って皇太子に据えたわけではないでしょうからね。単純に『愚かなればこそ御しやすし』と思われたのかもしれませぬが」
「今回はそれが裏目に出たっつー話だぁなー」

 にこにこ笑いながら、なんて話をしているのだろう、この人たちは。
 レオはさらに「にこにこ」よりは「へらへら」と言ったほうが正しい感じだ。
 なんとも不敬な感じだが、しかし的は射ている。愚かな者にはそれなりに使い道がある、と皇帝は見ていたのだろう。
 贅沢をさせ、ある程度望みを叶えておいてやれば、政治むきのことには無関心で放蕩三昧するだけの皇子。そのぶん、帝位をしりぞき上皇になった自分が手綱を握れる。不都合になればいつでも、その行状の悪さを列挙して廃位に追いこむことも可能。
 そのためのお飾りなのだから、健康でさえあればいいのだ。従順であれば頭の中身はどうでもよい。はっきり言えばどんなバカでも構わぬ。……と、皇帝は考えていたのだろう。まあ裏目に出すぎたわけだけれど。

 逆に、能力が非常に高く人望もあり、さらにこれほどの美貌さえ兼ね備えているインテス様みたいな息子は、溺愛されるかひどく煙たがられて遠ざけられるかのどちらかになることが多い。そこは皇帝の人格に大いに左右される部分だ。
 不幸なことに、あの皇帝には優秀な息子を引き立てて後継者にするだけの愛情も度量も知恵もなかった。

「これで終わったわけじゃない。まだ皇后陛下のことが残ってるからな」
「おっしゃる通りかと」珍しくティガリエが口をはさんだ。「皇后陛下はアーシノス殿下の罪一等を減じるよう、すでに法務部と皇帝陛下に打診しているとの由」
「うっわ。やっぱオバハンはそうくるかー」

 レオがバシンと額をたたいた。
 現皇后はアーシノスの生みの母だ。息子が死罪にならなかっただけでも感謝すべきはずのところ、まずは無罪を主張して騒ぎたて、裁定が下ってからは少しでも罰を軽くしてもらおうと、あれこれ水面下で画策しているらしい。
 皇后といえば、かつてインテス様とそのお母さまの命を狙い、お母さまを死に追いやった黒幕のはずだ。確定はしていないが、最も疑わしいのは間違いない。いやな言い方をすれば、政治の裏側で暗躍することにかけてはなかなかの手練てだれだとも言える。

「平民になって追放されんのと、下っ端でも一応貴族で田舎住まいするのとじゃ、生活の質が雲泥の差だかんな~。気持ちはわかるが、無理がありすぎんだろ。あんだけ皇帝を怒らせたんじゃ、いくらオバハンが頑張ってもよー」
「そうだといいがな。あの方も、父上の寵愛はとうに失っておられるわけだし」

 インテス様が腕組みをし、顎に手をあてつつ淡々と言った。

「下手にかばえば自分の身も危うくなるんだ。そうそう無茶はしねえんじゃねえの?」
「ああ。こちらとしては、むしろ無理をして自滅していただくのが、一番手がかからないんだがな」
「おーおー。言うようになったねえ皇子サマ」
「まあな。あんな親類縁者ばかりでは、イヤでもそうなるさ」

 苦笑するお顔が神々しいばかりに輝いて見えるのは、シディの目が、あるいは頭がおかしいからなのだろうか。もう少し寂しげなお顔になってもおかしくない話題だけれど。でもこの方はもうとっくに、そんな段階は脱却しているのかもしれない。
 そうなるまでにどれほどの苦悩と悲しみを乗り越えなければならなかったのだろう。そう思うと、シディの胸はつきんと痛みを覚えた。

「しかしアレだな。今回はサクライエまでは手が届かなかったわけだが。どーすんだ?」
「まあ、そちらはまだまだやりようがある」
「ほう? どんなよ」

 レオがぐっと身を乗り出し、ほかの者は耳を澄ませた。
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