71 / 227
第五章 和平会談
1 指輪
しおりを挟む《勇者の村》との和平交渉のために組織された使節団は、合計五名と決まった。
団長になったのは四天王の一人である大鷲の顔をもつトリーフォン将軍。以下、騎士団長ダンパと大臣級の男が一名、文官の女性が一名、そしてリョウマだ。
魔王自身は自分が出向くことを望んだのだったが、それは臣下一同によって言下に拒否されたらしい。当然だ。
「いきなり『ラスボス』が村に登場したら、長老一同がひっくり返るわ! じじいのだれかが死ぬわ! やめろ、ぜってーやめろ!」というリョウマの鶴の一声が──おもに魔王にだけ通じるやつだが──なんとか通って、本当によかった。
実は魔王、《BLブルー》であるケントのことが気がかりだったらしい。彼が「俺は幼少時からリョウマの許嫁だ」と主張していることを非常に気にしているようなのだ。
(あんなもん、俺だって完全に「寝耳に水」だったっつーのによー)
本当に、心の底から不本意なだけなのに。「あんなので、大の魔王が簡単に嫉妬するなや」と、つい不満がたまってしまう。まったくもって腹立たしい。……いや、ほんのすこーしだけ、嬉しい気持ちがないと言ったら嘘になってしまうけれど。
会談場所は、《勇者の村》からさほど離れていないとある丘と決まった。あまり近いところに四天王トリーフォンを招くのは危なくないか、とリョウマは心配したのだったが、《魔素》への耐性をもたない長老も参加するためには仕方がないのだろう。
そんなわけで、魔王も「使節の人員を最小限にしてほしい」というあちらの要求を飲むことにしたらしい。
ともあれ、その日の朝、使節団は魔王城の前庭に集まった。
トリーフォンはじめ使節団のみなはそれぞれ外交用の礼装になっている。
(ほええ……きれいだなあ)
リョウマが驚いたことに、移動はいわゆる《魔法》のひとつ、《瞬間移動》によって行われるということだった。おもに魔王城所属の高位魔法使いたちによる仕事である。
前庭は閲兵式なども行われるという、かなり広いスペースだったが、その中央にグリーンに輝く丸く巨大な魔方陣が描かれている。複雑な文様はとてもきれいで、思わずリョウマは見惚れてしまった。魔方陣の周囲には、「いかにも魔法職です」と言わんばかりのフードつきの白いマントを着た人々が十二名いて、魔方陣を見守っている。きっと精神集中をしているのだろう。
魔王とその背後に居並んだ将軍たちや大臣たち、兵らとの儀礼的な挨拶が終わり、いよいよ出立の時間がやってきたところで、魔王がすいとこちらへ近づいてきた。
「リョウマ。手を」
「ん? なんだよ」
ひょいと左手を取られ、気が付けばひし形の魔石がはめ込まれた指輪をはめられていた。派手すぎはしないが、美しいデザインの指輪だ。魔石はとろりとした奥行きのある赤い石で、見ているとなんだか吸い込まれそうな気分になった。
そしてそれは、なぜか薬指にはめられている。当然のように。
リョウマの眉間にしわが寄った。
「……えーっと。これはなんだ」
「お守りだ。困ったことがあれば、これに向かって私の名を呼べ」
言ってそのまま、手の甲にキスをされた。
「ふぎゃっ! な、なにすんだてめえっ。人前でこーゆーのはヤメロ!」
「……うん。人前でなければもっともっと致したいところだが」
「わーわーわー! 聞こえねえ、なーんも聞こえねえっ。もう行くぞっ、みんな!」
「ああ。どうか気を付けてな。リョウマ」
魔王の瞳がちょっと寂しそうなのに、めちゃくちゃ優しそうにも見えて、鼓動がまたつい早まってしまう。
首から上が一気に熱くなったのを感じて、リョウマは慌てて後ろを向いた。マントのフードでばふっと顔を隠し、すでに魔方陣の中央に集まっている使節のみんなに大股に近づく。
「それでは、行って参ります」
トリーフォンがそう言って片手を上げたとたん、急に周囲の景色がぐらりと歪んだ。
「あ。まお──」
思わず魔王を見てそう言いかけたが、それは最後まで言えなかった。
少し寂しげに見える魔王の顔が、緑の光に包まれてふわりと空気に溶け、やがてふっと見えなくなった。
5
あなたにおすすめの小説
小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)
九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。
半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。
そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。
これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。
注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。
*ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)
竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】
ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
オメガ転生。
桜
BL
残業三昧でヘトヘトになりながらの帰宅途中。乗り合わせたバスがまさかのトンネル内の火災事故に遭ってしまう。
そして…………
気がつけば、男児の姿に…
双子の妹は、まさかの悪役令嬢?それって一家破滅フラグだよね!
破滅回避の奮闘劇の幕開けだ!!
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる