墜落レッド ~戦隊レッドは魔王さまに愛でられる~

るなかふぇ

文字の大きさ
131 / 227
第八章 邂逅

6 絶叫

しおりを挟む

 《リョウマ! 離脱しろっ》

 耳元に聞こえた魔王の声もまた、ひどく切迫したものだった。

「エル──」
 《もうあまり時間がないのだろう。ただの宇宙服姿になってしまっては、魔力を持たぬ人間の身でここにいるのは危険すぎる。早々に、ダンパとともに戦艦に戻れ!》
「でもっ。お、お前は──」

 それじゃあ、お前はひとりでどうするんだ。
 お前ひとり、こんなところに置いていけって言うのか。冗談じゃねえ。
 そう言いたかったのだが、周囲の仲間たちの手前、ついぐっと堪えてしまう。

「お前ひとりじゃ無理だろ。もう一撃ぶんだけ、なんとか時間はあるっ。もう一回いくぞ、みんな!」
「おうっ」
 真っ先に応えたのはケントだ。他のみんなも、すぐにうなずいてくれる。
 《ならぬ! 彗星の目の前で変身が解除されては──》
「うだうだ言ってる時間がもったいねえんだよっ! いくぞ!《武神雷帝・電撃斬でんげきざん》!」

 ゴオオオ、と武神の巨体がうなりをあげ、再び武神雷帝剣が光り輝く。魔王は意を決したように、再び自分の魔撃に集中した。
 二撃目もまた、すさまじい光芒こうぼうと衝撃波がみんなを襲った。
 彗星はまたもや巨体の一部を割られ、やや形を崩したが、それでも軌道をほとんどずらすこともなく推し進んできた。

「くっそうっ……」
 歯噛みするリョウマの耳に、サクヤの声が飛んでくる。
「リョウマ! タイムアップよ。残り十秒!」
 《離脱だ、リョウマ!》
「くそっ……! わかったよっ。《解装》っ!」

 目の前にある《解装》レバーをぐっと引くと、あっという間に巨人の姿はかき消えて、宇宙空間に《BLレンジャー》姿の五名が放り出された状態になった。

 《うわあっ。す、彗星が……!》
「えっ」

 怯えたハルトの声で目を上げれば、彗星は本来の軌道を少し逸らしている。彗星の巨体を少し削ったことで、バランスが変わったらしい。それはよかった。これでもう、地球がこの彗星に襲われることはなくなっただろうから。
 だが問題は、それが今度はちゃんとよけたつもりのリョウマたちに向かって真っすぐに爆進してくることだった。リョウマとしては、あらかじめ「こちらに逃げれば安全」と計算されていた方向へ戻ってから《解装》したはずだったのだが、これは完全に計算外だった。
 しかも、ついにタイムリミットが来て、その最悪のタイミングで自分たちの《武神鎧装》が解かれてしまったのだ。
 水晶に貯めてあった《勇者パワー》が尽きた《レンジャー》五名は宇宙服を着ただけの、ただの人間として宇宙空間を漂うしかない。あるのはほんのわずかばかりの、腰についた推進ロケットだけだ。

(くそっ……!)

 月の何倍もある星が、まっすぐに自分たちめがけて突進してくる。魔王の言った通りだ。ただの宇宙服姿の人間があれに巻き込まれたら、完全に一巻の終わりである。

(ちくしょうっ……)

 自分の勝手で、大事な仲間を巻き込む形になってしまった。すべて自分の責任だ。リョウマはキリキリと胃がきしむのを感じたが、一瞬後には吐き気をこらえて叫んだ。

「みんな、急げ! なるべく遠くへ飛べ、逃げろっ!」
 《ラジャ!》
 
 みんなは宇宙服の推進装置をオンにして、それぞれに彗星の軌道から外れる方向へと進み始めた。リョウマはダンパに向かって飛ぶ。宇宙服姿のダンパの方でも、危急の状況を見てとって、急いでこちらへ飛んできてくれているのが見えた。
 しかし。
 そのダンパにしては珍しい、愕然とした声がヘルメットのスピーカーから聞こえてきた。

 《へ、陛下……!?》

 驚愕を隠せない彼の声に、思わず振りむく。
 そこで、リョウマの背筋が一瞬で凍った。

「エ、エル……!」

 自分たちと一緒にこちらに逃げてくるものと思っていた魔王が、彗星におもてを向けて立ちはだかっている。両手を上げ、その両手がまたもや魔力の光彩を放って輝いている。完全に、彗星を押しとどめようとする体勢だった。

「エルっ! なにやってんだバカ! さっさと逃げろっ」
 《振り向くな。そなたらはく離脱せよ》
「アホッ、お前もだよ! 早く来いって!」

 リョウマは思わず体を返し、そちらに向かって飛ぼうともがいた。が、胴体をがっしりとダンパの両腕に抱きとめられ、思うように動けなくなる。ダンパはそのまま、彗星から離れる方向へ飛び始めた。

「やめろ! ダンパさん、放せ、放してくれっ……!」
 《なりませぬ。陛下のご命令にございますっ》
「エルうううっ!」

 無音の宇宙空間。
 本来なら聞こえるはずの轟音など、なにひとつ聞こえない。
 でもわかった。
 巨大な彗星がまっすぐに魔王に向かって突進したときの凄まじい音も、光も。
 魔王がなにかを唱えて自分自身の体を光り輝かせ、さらに巨大化していく。
 リョウマは絶叫した。

「エル! いやだ……やめろっ。エル、エルううううう────!」
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

神官、触手育成の神託を受ける

彩月野生
BL
神官ルネリクスはある時、神託を受け、密かに触手と交わり快楽を貪るようになるが、傭兵上がりの屈強な将軍アロルフに見つかり、弱味を握られてしまい、彼と肉体関係を持つようになり、苦悩と悦楽の日々を過ごすようになる。 (誤字脱字報告不要)

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

目が覚めたら宿敵の伴侶になっていた

木村木下
BL
日本の大学に通う俺はある日突然異世界で目覚め、思い出した。 自分が本来、この世界で生きていた妖精、フォランだということを。 しかし目覚めたフォランはなぜか自分の肉体ではなく、シルヴァ・サリオンという青年の体に入っていた。その上、シルヴァはフォランの宿敵である大英雄ユエ・オーレルの『望まれない伴侶』だった。 ユエ×フォラン (ムーンライトノベルズ/全年齢版をカクヨムでも投稿しています)

処理中です...