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第八章 邂逅
6 絶叫
しおりを挟む《リョウマ! 離脱しろっ》
耳元に聞こえた魔王の声もまた、ひどく切迫したものだった。
「エル──」
《もうあまり時間がないのだろう。ただの宇宙服姿になってしまっては、魔力を持たぬ人間の身でここにいるのは危険すぎる。早々に、ダンパとともに戦艦に戻れ!》
「でもっ。お、お前は──」
それじゃあ、お前はひとりでどうするんだ。
お前ひとり、こんなところに置いていけって言うのか。冗談じゃねえ。
そう言いたかったのだが、周囲の仲間たちの手前、ついぐっと堪えてしまう。
「お前ひとりじゃ無理だろ。もう一撃ぶんだけ、なんとか時間はあるっ。もう一回いくぞ、みんな!」
「おうっ」
真っ先に応えたのはケントだ。他のみんなも、すぐにうなずいてくれる。
《ならぬ! 彗星の目の前で変身が解除されては──》
「うだうだ言ってる時間がもったいねえんだよっ! いくぞ!《武神雷帝・電撃斬》!」
ゴオオオ、と武神の巨体がうなりをあげ、再び武神雷帝剣が光り輝く。魔王は意を決したように、再び自分の魔撃に集中した。
二撃目もまた、すさまじい光芒と衝撃波がみんなを襲った。
彗星はまたもや巨体の一部を割られ、やや形を崩したが、それでも軌道をほとんどずらすこともなく推し進んできた。
「くっそうっ……」
歯噛みするリョウマの耳に、サクヤの声が飛んでくる。
「リョウマ! タイムアップよ。残り十秒!」
《離脱だ、リョウマ!》
「くそっ……! わかったよっ。《解装》っ!」
目の前にある《解装》レバーをぐっと引くと、あっという間に巨人の姿はかき消えて、宇宙空間に《BLレンジャー》姿の五名が放り出された状態になった。
《うわあっ。す、彗星が……!》
「えっ」
怯えたハルトの声で目を上げれば、彗星は本来の軌道を少し逸らしている。彗星の巨体を少し削ったことで、バランスが変わったらしい。それはよかった。これでもう、地球がこの彗星に襲われることはなくなっただろうから。
だが問題は、それが今度はちゃんとよけたつもりのリョウマたちに向かって真っすぐに爆進してくることだった。リョウマとしては、あらかじめ「こちらに逃げれば安全」と計算されていた方向へ戻ってから《解装》したはずだったのだが、これは完全に計算外だった。
しかも、ついにタイムリミットが来て、その最悪のタイミングで自分たちの《武神鎧装》が解かれてしまったのだ。
水晶に貯めてあった《勇者パワー》が尽きた《レンジャー》五名は宇宙服を着ただけの、ただの人間として宇宙空間を漂うしかない。あるのはほんのわずかばかりの、腰についた推進ロケットだけだ。
(くそっ……!)
月の何倍もある星が、まっすぐに自分たちめがけて突進してくる。魔王の言った通りだ。ただの宇宙服姿の人間があれに巻き込まれたら、完全に一巻の終わりである。
(ちくしょうっ……)
自分の勝手で、大事な仲間を巻き込む形になってしまった。すべて自分の責任だ。リョウマはキリキリと胃が軋むのを感じたが、一瞬後には吐き気をこらえて叫んだ。
「みんな、急げ! なるべく遠くへ飛べ、逃げろっ!」
《ラジャ!》
みんなは宇宙服の推進装置をオンにして、それぞれに彗星の軌道から外れる方向へと進み始めた。リョウマはダンパに向かって飛ぶ。宇宙服姿のダンパの方でも、危急の状況を見てとって、急いでこちらへ飛んできてくれているのが見えた。
しかし。
そのダンパにしては珍しい、愕然とした声がヘルメットのスピーカーから聞こえてきた。
《へ、陛下……!?》
驚愕を隠せない彼の声に、思わず振りむく。
そこで、リョウマの背筋が一瞬で凍った。
「エ、エル……!」
自分たちと一緒にこちらに逃げてくるものと思っていた魔王が、彗星に面を向けて立ちはだかっている。両手を上げ、その両手がまたもや魔力の光彩を放って輝いている。完全に、彗星を押しとどめようとする体勢だった。
「エルっ! なにやってんだバカ! さっさと逃げろっ」
《振り向くな。そなたらは疾く離脱せよ》
「アホッ、お前もだよ! 早く来いって!」
リョウマは思わず体を返し、そちらに向かって飛ぼうともがいた。が、胴体をがっしりとダンパの両腕に抱きとめられ、思うように動けなくなる。ダンパはそのまま、彗星から離れる方向へ飛び始めた。
「やめろ! ダンパさん、放せ、放してくれっ……!」
《なりませぬ。陛下のご命令にございますっ》
「エルうううっ!」
無音の宇宙空間。
本来なら聞こえるはずの轟音など、なにひとつ聞こえない。
でもわかった。
巨大な彗星がまっすぐに魔王に向かって突進したときの凄まじい音も、光も。
魔王がなにかを唱えて自分自身の体を光り輝かせ、さらに巨大化していく。
リョウマは絶叫した。
「エル! いやだ……やめろっ。エル、エルううううう────!」
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