墜落レッド ~戦隊レッドは魔王さまに愛でられる~

るなかふぇ

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第八章 邂逅

7 四散

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 そこからは、何もかもがスローモーションになった。
 なんとかして魔王の方へ行こうとがむしゃらにもがく自分の体を、仲間の腕が後ろから何本ものびてきて引き留める。まったく身動きがとれない。真正面から自分の体で止めに入ったはケントだ。どうしようもなかった。
 みんなが必死に何かを叫んでいることはわかっていた。しかし、聞こえるのはどくん、どくんという頭の中のやかましい血流の音と、わけのわからない叫びをあげている自分の声だけだった。

 やや遅れて追従してきていた艦隊が、魔王を守ろうと周囲から主砲を撃つ。数えきれない光の束が四方八方からつぎつぎと彗星を襲うが、それが大した意味をなさないことは明白だった。
 彗星はいっさいのスピードを落とす様子もなく、こちらへ迫ってくる。

 魔王の体が光り輝いたかと思うと、さらに巨大化したのが見えた。
 リョウマは目を見開く。
 魔王の体が、今までみたこともない大きさと形に変貌してゆく。

(エル……!)

 鎧をまとった《魔王》としての姿が、見るみる変わっていく。
 恐ろしく長くのびた爪。びりびりに引き裂かれた服はちぎれて四散し、肌がむきだしになる。その肌は青黒く光る鱗にびっしりと覆われていた。
 そして、これまで一度も目にしたことのないもの。巨大な竜のものである、太く長い爬虫類の尾だった。
 そこにいるのは、もはや巨大な《魔神》だった。全身は青黒い鱗に覆われた、雄々しくも神々しいまでの一匹の魔獣だった。
 場にいる者はだれも、目と口をぽかんとあけてその光景に見入ることしかできなかった。

 やがて巨大な《魔神》と化した魔王の全身が、青光りし、次第にまぶしいほどに白熱していく。彼の全身を包む膨大な魔力が横溢し、全身全霊をかけて彗星にぶつけられていく。

 最後の瞬間、リョウマの脳髄に突き刺さるように飛びこんできた意識があった。

 《──リョウマ》
 《エル……!》

 すまぬな、と魔王の意識は言った。
 リョウマは自分が何を叫んでいるのか、よくわからなかった。
 だが魔王はそんなリョウマのとっ散らかった精神こころなだめるように、ただ静かで深い思念を送ってきた。

 そなたのせいではない、と。
 だから自分を責めるな、と。

 そして、言った。
 ……生きよ、と。



 ◇



 ぱっと目を開けたとき、リョウマは戦艦の自室、自分のベッドの上にいた。
 すぐに寄ってきたダンパと仲間たちの心配そうな、しかし安堵したような表情。
 ぼんやりとそれらを見回して、自分が何をやっていたのか、これまで何が起こったのかをぼんやりと反芻し──
 そしていきなり、起き上がった。

「エルっ……!」
「リョウマ様!」
「リョウマっ」

 みんなが慌ててリョウマの体を支え、手を取ってくれる。
 が、そんなことに構ってはいられなかった。

「エル、エルっ……! どうなった? あれからどうなったんだよっ? エルは、エルは……!?」

 どれだけ眠っていたのか、喉は完全に掠れて声はガラガラだった。体も自分のものとは思えないほどに重い。それでも必死に起き上がろうとして、リョウマは暴れまくった。完全に取り乱しているリョウマの体を、それ以上暴れられないようにみんなが押さえつけている。
 やがて重苦しい沈黙ののち、ダンパが言った。

「陛下は……見つかっておりませぬ」
「な……っ」

 だれかが艦長であるトリーフォンにリョウマ覚醒の連絡を入れたあと、みんながそれぞれにその後の話を聞かせてくれた。それぞれに、沈痛な面持ちで。

 彗星は、四散した。
 音もなく。
 ただ凄まじい光と、圧力によって周囲のすべてのものは押し戻され、吹き飛ばされた。

 すべてが終わったとき、その空間にはなにもなかった。
 四散した彗星の残骸と、体勢をくずした艦隊と、ちっぽけな自分たちが浮かんでいるばかりだった。
 魔王の姿は、どこにもなかった。

(……エル)

 ベッドに仰向けに押さえつけられたまま、リョウマは力なく頭を振った。

 ……そんな。
 ウソだ。
 
「う、そだ……。ウソだっ。そんな、そんなっ……。そんなの、俺っ……」

 俺は絶対に信じない──。

「エル! エル! ばっきゃろ、あのやろ、許さねえぞバカ野郎っ! エル、エルううううっ……!」

 それが、鎮痛剤を打たれて気を失うまで、喉も裂けよと絶叫するリョウマの意識にのぼった最後の言葉だった。
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