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第八章 邂逅
8 悪夢
しおりを挟むつぎに自分を認識したとき、リョウマの体はぼんやりとした灰色の、何もない空間に浮かんでいた。
上もなく、下もない。それは宇宙空間にもちょっと似ていた。だが、肌と空気との境目がよくわからない。どこまでが自分で、どこからがそうでないのかがわからないのだ。それは不思議な感覚だった。
しばらく、だらんと両腕を垂らしたままふわふわと浮かんでいたが、ふと気になって自分の腕をつねってみた。痛みもなにも感じなかった。
リョウマはそのまま少しの間、ぼんやりとその空間に漂っていた。
なにもしたくなかったし、考えたくもなかった。
やがて、ゆらゆらと右左に揺れているうちに、目の前にぽっかりと円形の黒い穴が口を開けているのに気がついた。
やっぱりなにも感じないまま、ぼうっとそれを見つめていたら、そこにあの恐るべき彗星の巨大な姿と、こちらに背を向けて彗星に腕を突き出している、《魔神》となった魔王の姿が浮かんできた。
それでもしばらく、リョウマはそれが誰だったのか、なぜそんな場面が目の前に展開されているのかを理解することができなかった。だれかが理解と無理解の間に、分厚くやわらかな壁でも立ててしまったような感じだった。
《魔神》がわずかに首をひねってこちらを見ている瞳は爬虫類そのままだった。それはひどく大きく、金色の光を湛えている。その顔は、到底人間のものとは似ても似つかぬものだった。どちらかといえば、架空の生物であるという古の存在、「ドラゴン」などと呼ばれる者に似ているのかもしれなかった。
そう考えた瞬間、《魔神》の背中に弓なりの骨格に囲まれて薄い皮膜をもった、ドラゴンの翼があることに気がついた。
もとはつややかな銀色をしていた髪はカナクギのようにあちこちに跳ね、頭や首の後ろをぼうぼうと覆う鬣になり、大きく裂けた口にはずらりと長い牙が生えそろっている。そんな非常に細かい部分まで、なぜかリョウマの瞳には明瞭に映し出されていた。
あのとき、そこまで具に彼を観察できたはずはない。
そこでふと、こんな考えが浮かんできた。
(あの、とき……?)
自分の思考に違和感を覚えて、ふと首をかしげる。
まるで自分が、この場面を知っているかのようではないか。
自分はこんな場面は知らない。あのドラゴンのような存在のことだって、なにも知らない。覚えがない。
そんなことはどうでもいいから、早く《勇者の村》に帰りたい。帰って、仲間の《レンジャー》や村の人々とまた、あの地下の隠れ里で暮らすのだ。狩猟と採集と農作業、《レンジャー》としての訓練をおこないながら──。
《……マ》
どこか遠くで、なにかが聞こえる。
《リョウマ……》
《リョウマ様》
(うるさい)
リョウマはぐっと眉根を寄せた。
もう、放っておいてくれ。
もう目覚めたくない。
俺はこのままでいたいんだ。
大事な、とても大事なものを失ってしまった自分の現実になんて、もう二度と戻りたくない……
(お願いだから……もう、放っておいてくれ)
「リョウマっ! しっかりしなさい! 起きるのよ、リョウマっ!」
「痛いってえええ!」
バチンという音とともに、両頬に激しい痛みを覚えて、リョウマは飛び上がった。
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