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第十章 帰還
1 見舞い
しおりを挟む往路に比べて、帰路はなぜか非常に短く感じられた。
地球帰還の準備に追われてあれこれやっているうちに、「大気圏突入シークエンスに移行する」との艦内放送がかかり、リョウマと子ドラゴンはスペース・スーツに身を包み、自室のベッドに横たわって安全ベルトを締めた。
もちろんドラゴンの子用のスーツなどありはしない。人間のものでは小さすぎるため、大き目の種族──ゾウやゴリラなど──が使うスーツを代用している状態だ。
少しばかり感じた緊張もつかの間、ザイード大佐率いる掃海作戦艦隊は、全艦無事に魔王国のメイン宇宙空軍港に着陸した。
宇宙港には、特段の出迎えパレードなどは準備されていなかった。
まあ、当然である。地球にはまだ正式に「魔王陛下発見」とも「幸いにしてご無事」とも、いっさい報せが届いていないからだ。もちろん、これはほかならぬ魔王の意向だった。
だが、リョウマを出迎えるべく《レンジャー》の四名と長老ムサシがやってきていた。
「おかえり、リョウマ!」
真っ先に近づいてきたのは《ブルー》のケントだ。そうしてほかの仲間たちからも「おかえり」「おつかれ」と声を掛けられ、リョウマは笑って見せた。やっぱり、仲間の顔を見るとホッとする。
「で? そっちが例の?」
《イエロー》サクヤがリョウマとダンパの頭上でバサバサと翼をはためかせて飛んでいる子ドラゴンを見上げて言った。
「おお、そうだよ。元気そうだろ?」
仲間たちと長老には、すでに魔王が復活したことは連絡済みだ。
暢気そうに飛んでいるドラゴンの子を微妙な顔で見上げて、サクヤは溜息をついた。
「ま、とりあえず戻ってきてくれてよかった……って言っていいのかしらね、一応は。なにしろこっちは大変だったんだから」
「そうなん?」
「ええ。ほんっと、おっさん連中の権力争いってば、どこの世界でも醜いわよね~」
さらっと言ったそのセリフに、彼女の隣にいたムサシがほんのわずかに複雑そうな目になった。
実際、魔王が不在なのをいいことに、権力争いは激化の一途をたどっているという。大きく分けて武官と文官の戦いになっているわけだが、武官の雄はもちろん、四天王大将軍サムイルだ。
魔王の命令により、両陣営ほかの謀反の証拠は着々と集まりつつあるという。
ザイード大佐は報告のためまっすぐ軍本部に向かうとのことだったが、魔王は前々から、帰還したら真っ先に訪問する場所を決めていた。というわけで、ここからは別行動ということになった。
◇
「へ~。ここが軍の病院かあ」
移動のための飛行艇から、穏やかなクリーム色の落ち着いた雰囲気の建物の前に降り立って、リョウマは独り言のように言った。そこは、魔都の中心部からやや北西にいった場所にあった。
魔王がなにより優先にしたいと言った訪問先は、この魔王軍病院だったのだ。基本的に魔王軍に所属する将兵のための病院だが、一般の患者も必要に応じて受け入れているらしい。
病院入口にはタヌキ顔の院長が出迎えに来てくれており、ひととおり院内を案内してもらう。《勇者の村》だったら絶対に考えられないほどの進んだ設備と医療機器を目にして、《レンジャー》のみんなと長老ムサシは明らかに驚いている様子だった。
ちなみに王宮づきのご典医である白ヘビのシュルレは、どこの病院にも属してはいないものの、その腕を買われて必要に応じ、高難易度の手術には呼ばれて来ることがあるらしい。
今回、名目としては、一応まだ《王配》としての立場を保持しているリョウマが故郷の仲間とともに病院を見学がてら「王国に忠実な臣下の将兵らの病床を見舞う」ということにしてあった。だがもちろん、メインの目的は別にある。
さまざまな形質を持つ兵らが何人もつめこまれている大部屋への見舞いも一応希望してみたのだったが、こちらは院長から丁重なお断りを頂戴してしまった。というわけで、そちらへは執事ガガノフに頼んで見舞いの品を届けるのみにした。
一通りの見学が終わって、院長が「それでは」と辞していってから、ようやくみんなはその最重要案件のための病室に向かうことになった。
一般病棟とは明らかに違う、静かな個室の病室ばかりが並ぶフロアである。
将兵だけでなく、いわゆる「わけあり」な患者を受け入れることの多い場所でもあるらしかった。ときおり扉の前に、いかつい顔をした男らが並んでいる病室が散見される。
リョウマたちが向かった扉の前にも、胸板の厚い兵士が無表情に立っていた。
近づいていくと、あからさまに剣呑な目を向けられ、誰何される。
「申し訳ありませぬ。こちらは約束のある方以外、お通しすることは叶いませぬ」
「ご無礼ながら、どなた様でいらっしゃいましょうや」
「あ。えーと……。俺、リョウマです。魔王の《王配》ってのをやってて。えーと」
「は?」
「控えいっ」
男の一人が怪訝な顔になったのと、ダンパがずい、と前に出るのとは同時だった。
「無礼であるぞ。こちらは魔王、エルケニヒ陛下の王配殿下、リョウマ様にあらせられる。早々に道を開けいっ」
「はっ?」
途端、ふたりのでかい男が驚いて、ビシッと姿勢を正した。
「はっ、配殿下っ?」
「も、申し訳なきことにございます! 殿下のお顔をあまりよく存じ上げずっ」
「いや、うん。それはそうだよね。しょうがないって」
リョウマは苦笑して片手を振った。
今のところ、《BLレッド》が魔王の王配になった、というニュースぐらいは少しずつ巷間に流れているようだが、それはまだ一般には「眉唾もの」としてしか受け入れられていない。というか、貴族連中が「そんな事実は受け入れられぬ」とばかりに大反対している。まして、リョウマ自身の姿がネットのニュースとして流されたという事実もない。顔を知らなくて当たり前なのである。
片方の武官が扉の中に声を掛けると、中から重々しい声が訪問を許す旨を告げてきた。
「ご無礼をつかまつりました」
「どうぞ、お入りください」
低く頭を垂れる武官ふたりの間を抜けて、晴れて一同はようやく目的の病室に足を踏み入れることになった。
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