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第十二章 新たな命
9 保護区行政庁舎
しおりを挟む「これはこれは、配殿下。斯様な狭苦しい場所にお越しくださり、恐縮至極に存じまする」
しかつめらしい顔をしてリョウマたちを出迎えたのは、《第一人間保護区》の行政官筆頭だという初老の男だった。前に自分たちを出迎えてもてなしてくれた古老とは別人だ。あちらはあくまでも、村の代表者であり、村民をたばねる要の人物。
そしてこちらは、村内の具体的な政策を立案して魔王国との仲立ちをする、魔王国所属の行政機関だ。
「《保護区》の中で、我が国と関連する活動をするためには、保護区の行政官の同意と協力をとりつけておく必要がある」という魔王のアドバイスに従って、今日のリョウマはこちらへ訪問することにしたわけである。
いかにも武人然としているムサシなどに比べると、行政長官はずいぶんと脆弱そうに見える男だった。ここには《瘴気》が存在しないため、人間の男である。名を「オサマベリ」というらしい。真っ黒な髪を真ん中できっちりと分けてなでつけ、針のように尖らせたくの字型の口ひげを鼻の下に蓄えている。脂肪をかなり積み上げてあるらしい腹を、きらびやかな布地で幾重にも覆っていた。
彼の周囲を囲んでいる、この地域の行政を担っている者たちも、大体は似たような体形である。栄養状態がいいといえば聞こえはいいが、なんとなく全体に自堕落な雰囲気を醸し出していて、とてもいい印象とは言い難い。全部で十名ほどで、うち三名は女性だった。
行政庁舎も村のほかの建物とはちがい、魔都デヴァーデンスでよく見かけたような、つるりとした曲面の壁で囲まれたつくりだ。村の中ではほとんど見ることもない絵画が飾られていたり、「シャンデリア」と呼ばれるような照明器具がさがっていたり、大窓に豪華なカーテンが掛けられていたりと、全体にとても瀟洒な感じがする。
庁舎を貫く廊下を案内され、リョウマ一行は応、接室らしき部屋へ通された。一行はリョウマのほか、護衛のダンパ以下二名と、村長ゲンゴ、《勇者の村》の古老ムサシ、それに《レンジャー》四名で構成されている。総勢十名だ。
あちらの十名とこちらの十名は、向かい合ってテーブルについた。速やかに茶などが供され、話はすぐに始まった。
「事前の書面にてご訪問の主旨は承っております。そちら《第二保護区》の子どもをこちら側の子どもと共に、デヴァーデンスの学校へ通学させたいとのことでしたな」
「はい」
つまり、今回の訪問の目的はこれだった。
いま現在《勇者の村》出身の子どもたちは、学力の点でこちらの子どもたちとは比べるべくもない。このままでは、彼らの将来は非常に狭い選択肢しかないことになりかねない。それではあまりに可哀想だ。
こちらの村の子どもたちと同じレベルの教育を受け、同じように将来を展望できてこその「平和」であり「幸せ」だろう。と、リョウマはそう考えた。そして魔王もそれに同意してくれたのだ。「まずは思うようにやってみよ」と。
「ナリスのレポートを先に読んでくれたんスね。どうもありがとうございます」
「いえいえ。当然のことですゆえ」
これら諸々の要望を、事前にレポートにまとめて庁舎へ送ってくれたのは、結婚以来文官としてリョウマの側近になってくれている魔族の青年だった。今回、この仕事を託されてから、魔王によって直々に紹介された人だが、これまた非常に優秀かつ魔王に忠実な人であるらしい。名を「ナリス」という。
顔は赤ギツネのそれに最も近く、すらりと細身で姿がよい。非常に賢そうな印象の青年だ。賢そうすぎて、ちょっと冷たそうに見えてしまうのは残念な感じではあるが。今回はダンパの下につく形で、書記もかねて同行してくれている。
「それより、殿下。わたしどもに敬語はお使いになりませぬよう」
「え? でも、そんなわけにはいかねえッスよ」
ぶ、と後ろから吹き出す声が聞こえた。明らかにサクヤとケントの声だった。
(くっそう。わーってるっつーの)
どうせ、自分の「敬語」など敬語とも呼べぬほどのお粗末なものだ。そんなことはわかっている。しかし、こういう場合はやはり言葉遣いも大事だろうと思うのだ。
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