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第十三章 次の世代を
5 幼竜
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「むぇあ、ぐあおうう、ぴるるるんっ」
「あ~よしよし。もう腹減ったの? えっと、そろそろ肉とかでもいいんだっけお前?」
「がうがうがうがおう~」
今やサクランボぐらいの体色になった大事な我が子が、嬉しそうに小さな尻尾を振り回している。体を覆う鱗は手入れもゆきとどき、つやつやと日光を反射して、部屋の中をまだらの紅色にきらきらと輝かせる。薄い皮膜に包まれた翼はまだちんまりしたもので、ほとんどその体を宙に浮かせることはできない。
生まれた幼竜は──そう、その子は紛れもなく「竜」だった──とても元気で、《次世代誕生センター》のセンター長やご典医シュルレらからも見事な太鼓判を捺されている。
幼竜の性別はなかなか判別しにくいものらしかったが、どうやら男の子であるようだ。とはいえ、これも飽くまでも便宜上のことだという。はっきりと性別を知るためには、やはり魔王が復活した時のように、この子が人型をとれるようになることが望ましい。
「こら、ロート! それはかじっちゃダメだってば」
「がうがうがるるるっ」
「あーあ。この毛布ももうボロボロじゃん……」
魔王とリョウマはあれからいろいろな案を出し合ったのだが、結局このふたりの子を「赤」や「紅」を意味する言葉だという「ロート」と呼ぶことにした。男児であれ女児であれ構わない呼び方だ。今後、性別がはっきりしたところで、「ロート」を少しもじって正式な名づけをする予定である。
なにしろ見事な赤いドラゴンの子だ。この子を見て「赤」を連想しない者などいないだろう。
なにより、自分が《BLレッド》であることを思うと、リョウマはこの子が赤い姿で生まれてきてくれたことに、非常な喜びとともに何か運命的なものを感じずにはいられない。
なにしろ元気いっぱいで暴れん坊のロートは、ちょっとでも噛みごたえのありそうなものを見つけると手当たり次第にかじりまくる。いまは「かみつき期」とでも言うべき成長過程なのだそうだが、なんでもかんでもこの子の歯形だらけになるのはちょっと頭が痛かった。
魔王とリョウマは、卵のときと同様に時間を分けてこの子の世話に当たることになっている。とはいえ、べったりと付き合っていると仕事にもならないし、ろくに睡眠もとれない。そのため、ある程度は乳母としての仕事をしてくれる側近たちに任せることになった。
《第二人間保護区》で魔王とリョウマの子が生まれてすぐに、魔王城と城下の町では御子の誕生を祝って盛大な祭りが催された。各地から貴族や市民たちが大勢集まり、祝いの祭りとパーティが十日以上も続いたのである。
この祭りには、《保護区》からも多くの者が招かれて参加した。もちろん《レンジャー》たちもである。
《レンジャー》の面々は、実はロートの誕生のとき、その場に居合わせてともに感動を分かち合った。護衛のみなは少し難色を示したのだったが、魔王が「よい。捨ておけ」と言ったのである。
《レンジャー》たちの喜びは一通りのものではなかった。もっともケントだけは、やっぱりどこまでも複雑な顔をしていたけれども。
昼近くになったところで、魔王がロートのための子ども部屋にやってきた。魔王城の中でも特に日当たりのいい明るい部屋だ。
「リョウマ。そろそろ昼餉だが、今日はどうする」
「あ、うん。俺もそっちで食べるよ」
「おお、ロート。今日もまた元気にやんちゃをしているようだな。あまり父上を困らせるでないぞ」
じたばたと床の上で毛布と格闘していたロートを、魔王はこともなげにひょいとつまみ上げた。人間の子とは違って、すでに肌は頑丈そのものなので、こうしても平気なのである。
「がうがう、がううっ」
今度はロートは、どう見てもぜいたくな布地であろう魔王の上着の袖のあたりを、思う存分噛みまくっている。が、魔王はまったく気にする様子はない。
「うん? それは構わぬが、どんなに噛みつきたくても、リョウマパパの可愛い顔や手はやめてくれよ。なにしろリョウマパパに噛みついてよいのは、世界に私ひとりだけなのだからな」
(っ……こいつ)
「赤んぼ相手に、なーにクソキモイこと言ってやがんだてめえっ!」
「おお。すまぬ、つい本音が」
「『つい本音が』じゃねえわ。教育に悪ぃんだよ、反省しろボケェ! 父親だろうがっ」
「わかった、わかった。すまぬ、この通りだ。リョウマパパは手厳しいなあ。なあ、ロート?」
「てんめええ!」
絶対に反省していないな、こいつ。
「ふはははは!」
魔王が幸せそうに大笑いする。
つられて、しかめっ面で腕組みしていたリョウマもついにやりと笑ってしまう。周囲にいた執事や護衛、子の世話をする者たちもくすくすと控えめに笑っていた。
「あ~よしよし。もう腹減ったの? えっと、そろそろ肉とかでもいいんだっけお前?」
「がうがうがうがおう~」
今やサクランボぐらいの体色になった大事な我が子が、嬉しそうに小さな尻尾を振り回している。体を覆う鱗は手入れもゆきとどき、つやつやと日光を反射して、部屋の中をまだらの紅色にきらきらと輝かせる。薄い皮膜に包まれた翼はまだちんまりしたもので、ほとんどその体を宙に浮かせることはできない。
生まれた幼竜は──そう、その子は紛れもなく「竜」だった──とても元気で、《次世代誕生センター》のセンター長やご典医シュルレらからも見事な太鼓判を捺されている。
幼竜の性別はなかなか判別しにくいものらしかったが、どうやら男の子であるようだ。とはいえ、これも飽くまでも便宜上のことだという。はっきりと性別を知るためには、やはり魔王が復活した時のように、この子が人型をとれるようになることが望ましい。
「こら、ロート! それはかじっちゃダメだってば」
「がうがうがるるるっ」
「あーあ。この毛布ももうボロボロじゃん……」
魔王とリョウマはあれからいろいろな案を出し合ったのだが、結局このふたりの子を「赤」や「紅」を意味する言葉だという「ロート」と呼ぶことにした。男児であれ女児であれ構わない呼び方だ。今後、性別がはっきりしたところで、「ロート」を少しもじって正式な名づけをする予定である。
なにしろ見事な赤いドラゴンの子だ。この子を見て「赤」を連想しない者などいないだろう。
なにより、自分が《BLレッド》であることを思うと、リョウマはこの子が赤い姿で生まれてきてくれたことに、非常な喜びとともに何か運命的なものを感じずにはいられない。
なにしろ元気いっぱいで暴れん坊のロートは、ちょっとでも噛みごたえのありそうなものを見つけると手当たり次第にかじりまくる。いまは「かみつき期」とでも言うべき成長過程なのだそうだが、なんでもかんでもこの子の歯形だらけになるのはちょっと頭が痛かった。
魔王とリョウマは、卵のときと同様に時間を分けてこの子の世話に当たることになっている。とはいえ、べったりと付き合っていると仕事にもならないし、ろくに睡眠もとれない。そのため、ある程度は乳母としての仕事をしてくれる側近たちに任せることになった。
《第二人間保護区》で魔王とリョウマの子が生まれてすぐに、魔王城と城下の町では御子の誕生を祝って盛大な祭りが催された。各地から貴族や市民たちが大勢集まり、祝いの祭りとパーティが十日以上も続いたのである。
この祭りには、《保護区》からも多くの者が招かれて参加した。もちろん《レンジャー》たちもである。
《レンジャー》の面々は、実はロートの誕生のとき、その場に居合わせてともに感動を分かち合った。護衛のみなは少し難色を示したのだったが、魔王が「よい。捨ておけ」と言ったのである。
《レンジャー》たちの喜びは一通りのものではなかった。もっともケントだけは、やっぱりどこまでも複雑な顔をしていたけれども。
昼近くになったところで、魔王がロートのための子ども部屋にやってきた。魔王城の中でも特に日当たりのいい明るい部屋だ。
「リョウマ。そろそろ昼餉だが、今日はどうする」
「あ、うん。俺もそっちで食べるよ」
「おお、ロート。今日もまた元気にやんちゃをしているようだな。あまり父上を困らせるでないぞ」
じたばたと床の上で毛布と格闘していたロートを、魔王はこともなげにひょいとつまみ上げた。人間の子とは違って、すでに肌は頑丈そのものなので、こうしても平気なのである。
「がうがう、がううっ」
今度はロートは、どう見てもぜいたくな布地であろう魔王の上着の袖のあたりを、思う存分噛みまくっている。が、魔王はまったく気にする様子はない。
「うん? それは構わぬが、どんなに噛みつきたくても、リョウマパパの可愛い顔や手はやめてくれよ。なにしろリョウマパパに噛みついてよいのは、世界に私ひとりだけなのだからな」
(っ……こいつ)
「赤んぼ相手に、なーにクソキモイこと言ってやがんだてめえっ!」
「おお。すまぬ、つい本音が」
「『つい本音が』じゃねえわ。教育に悪ぃんだよ、反省しろボケェ! 父親だろうがっ」
「わかった、わかった。すまぬ、この通りだ。リョウマパパは手厳しいなあ。なあ、ロート?」
「てんめええ!」
絶対に反省していないな、こいつ。
「ふはははは!」
魔王が幸せそうに大笑いする。
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