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第十三章 次の世代を
4 誕生
しおりを挟む「あっ、あわ、あわわわわ……」
突然わたわたし始めたリョウマを見て、音もなく護衛たちが近づいてきた。いずれも緊張した面持ちだ。ただひとり、常に変わらず水を打ったように静かな物腰なのはダンパである。
「いかがなさいましたか、殿下」
「あっ、あわ、あわあわ……っ」
まったくまともに言葉にならず、必死で提げたケースを指さすリョウマに、護衛たちがハッと息をのんだ時だった。
《落ち着け、リョウマ。私もすぐに参るゆえ》
「えっ。エル……!?」
それでようやく、バクバク言い出していた心臓が少し落ち着いた。魔王の声はもちろん、リョウマの青と赤の石を合わせた結婚指輪から発せられている。魔王は当然、この指輪にも通信機能を付与していたのだ。
「ごめん、エル。わかった、落ち着くわ……」
《ああ。少々待ってくれ。ほんの少々だ。まずは落ち着いて、しっかりと呼吸をせよ》
「わ、わかった……」
ケースをしっかり抱きしめた上で、「すーはーすーはー」と深い呼吸を繰り返しているうちに、次第に心も落ち着いてきた。
そうこうするうちにも、ケースの中の卵の表面にはぴしぴしと細かな皹が入りつづけている。「きゅるる」「ぷるる」といったような、可愛らしくて小さな声も聞こえはじめた。
「こちらでは、やや騒々しゅうございましょう。場所を移動いたしましょう、殿下。もとよりこうした事態に備えて、準備していた部屋がございますので」
「あ、うん……」
ダンパが目だけで指示を下すと、護衛たちが素早く動いてリョウマの周囲をしっかりと固めた。そのままみんなで音もなく部屋から出ると、足早にとある部屋へと案内された。
なるほどそこは静かで、やや明るさを抑えたオレンジ色のやわらかな照明がついた部屋だった。学校がスタートすれば、いわゆる保健室として機能するはずの部屋である。
護衛のうちの二人が入口外に立ち、ダンパだけが傍に残る。いくつか据えられたベッドのうちのひとつに、リョウマはそっと卵のケースを置いた。
すると、なんと自動的にケースが四方に開いて平たい状態へと変化した。
卵はゆっくりと左右に振動しながら、かすかな音を立てている。そのたびに、表面に走った皹が大きくなっていく。本当に少しずつだ。
そうこうするうち、魔王が到着した。
あの連絡を交わしてから、ほんの十分ほどのことだった。
ダンパをはじめとする護衛たちが、魔王を迎えてサッと頭をたれ、身を引く。それに片手で応えながら、魔王はすぐにリョウマの隣にやってきた。ベッドのそばに座り込んでいるリョウマの肩を、しっかりと抱き寄せてくれる。
じりじりと時間が過ぎた。
卵は……というか、赤ん坊は必死に周囲の殻を取り除けようと奮闘していたが、赤ん坊にはその薄く見える殻ですら大変な障害になるらしかった。とはいえ、よほどのことがない限り、あまり手を出さないほうがよいと医者から言われている。リョウマも魔王も固唾を飲んで、赤子の奮闘を見つめるしかなかった。
やがてついに、ぴょこりと小さなしっぽが現れた。やや濃いピンク色に見える。しっぽから背に向かってならんでいるトゲのようなものはまだ尖っておらず、先が丸くて、とろりとした蜂蜜みたいな、きれいな金色をしている。
「ウグ、グルルル」
殻の中で転んでみたり、右へ左へと殻ごと転がってみたり、赤ん坊は七転八倒した末にようやく殻から抜け出した。
「……ふうっ」
リョウマは思わず、一緒になってずっと詰めていた息を吐き出した。それはほとんど溜め息だった。赤子はまだ目がよく見えないのか、あちこちをくんくん嗅ぎまわる様子で、ぴいぴい鳴いている。
赤ん坊は、ほとんどドラゴンの姿をしていた。人間らしい部分はほとんどない。人間と魔族との子の場合、魔族の特質が多く出るらしいという話はすでに聞いていたので、これには別に驚きはなかった。
また、体が濃いピンクなのは、やがて赤いドラゴンへと成長する子の特徴なのだという。角や爪や背中の棘などはすべて金色。なかなか派手ないで立ちになりそうだ。
それにしても──
「めえっちゃ……可愛い」
「ああ、そうだな。さすがはそなたの子だ」
「うぐっ……」
隣からまたもやぎゅっと抱きしめられた途端、ぶわっと景色が熱く歪んだ。
リョウマは必死で目元を擦り、赤ん坊の姿をしっかりと見ようと目を見開いた。それでもまたすぐ、涙のカーテンが眼球の表面に降りてきてしまう。
「よしよし。そなたは赤子よりよく泣くな」
「やっ、やめろよお……」
そんな風にぽすぽすと頭を叩かれると、余計に涙腺がヤバいことになる。
「あまり擦るな。目が腫れてしまうぞ」
そう言って、魔王はまたリョウマの髪やこめかみ、頬に口づけを落としてきた。
「わ、わかってーよう……」
ずびび、と洟をすすり上げたとき、背後にいたダンパが深く腰を折った。
「御子さまご誕生、まことにおめでとう存じまする」
「おめでとう存じまする!」
ほかの護衛たちも唱和する。
「う、うん……」
笑って「ありがとう」と言いたかったのに、リョウマはよくわからないうめき声と、滂沱の涙で応えることしかできなかった。
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