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第十三章 次の世代を
3 第二保護区教育センター
しおりを挟むリョウマの心配をよそに、卵はすくすく育っていった。日々は平和であり、仕事は少々の問題が起こらぬわけでもないが基本的には順調。卵を連れて《第二保護区》に出向くことも多くなったが、《レンジャー》はじめ《勇者の村》の面々も、普通に卵にも挨拶をしてくれるようになった。もちろん最初のうちこそ怪訝な顔をする者はいたのだったが、今ではすっかりみんなも「卵づれ」なリョウマの姿に慣れた。
「おーっす。来たぜえ」
「いらっしゃい、リョウマ。卵くんもこんにちは!」
「どちらも元気そうで何よりにござるなあ」
今日は《BLピンク》のハルトと《ブラック》のコジロウが出迎えてくれた。そのまま、建設の終わった《第二保護区教育センター》へ向かう。
今日の目的は、募集していた教師の面接に参加することだ。
選考はここまで、慎重の上にも慎重に行われてきている。来歴はもとより、能力面、人格面ともに信頼できそうな人たちがたくさん来てくれていて、今日はいよいよ最終選考だ。
応募者には基本的に人間が採用されることになりそうである。魔族は《魔素》の少ない場所では体調を崩す者も多いからである。あの魔王が平気なのは、あくまでも膨大な魔力を有する協力な魔族であるからなのだ。
《第二保護区教育センター》は、子どもたちが通いやすい雰囲気を重視したデザインを採用した。穏やかな色味の壁に、曲線を多用した優しいいで立ちの建物だ。外壁には、上階から滑り降りてこられるように、透明なカバーつきの滑り台まで設置されている。校庭には子どもたちが思い切り遊べるような広い運動場と、各種の遊具も整えられている。
「はあ。やっとここまで来たんだなあ……」
「本当だね。ここまでほんと、色々あったよねえ」
「それもこれも、みんなリョウマのおかげにござる」
「なーに言ってんだよ、コジロウ! 村のみんなと、《レンジャー》のお前らがめっちゃ頑張ってくれたからに決まってんじゃん」
笑って返すと、コジロウは急にウッ、と喉を詰まらせたようだった。ちょっと感涙してしまったらしい。リョウマは慌てた。
「おっ、おいおい! 泣くなよバカ! 子どもたちがびっくりすんだろ~?」
赤いマントの下で卵のケースを撫でながら、もう片方の手でコジロウの肩を叩く。
運動場には、すでにここで学ぶことを決めた子どもたちが集まって事前の説明会に臨んでいる。
すでに子どもたちの指導に入ることが決定しているサクヤとケントが、ワイワイ言っている子どもたちにこれからの生活について簡単な説明をしているところだ。
「朝、集合は八時半までだからね。大事なことはプリントも渡すけど、それぞれの家で画面でも確認すんのよ~? いい?」
「はーい、サクヤせんせーい!」
「授業は九時から始まるぞ。ひとコマは四十五分で、休憩時間はニ十分。昼休みは一時間。休み時間には校庭で自由に遊んで構わない」
「はーい、ケントせんせーい!」
子どもたちは年齢こそバラバラだが、みんな希望に目を輝かせている。この学校ができることをかなり楽しみにしてくれている様子だ。
今のところ、入学希望者は五十名ほど。もともとの村人の数から言って、かなり多いと言える。前の村にいたら、畑仕事そのほかの仕事に駆り出されざるを得ず、とても学校になんて通えない子がほとんどだったことを思えば、格段の進歩だろう。今では親たちは、魔王国の技術を使い、便利なシステムを利用することでかなり楽に農作業などを行うことができるようになった。これもそのおかげである。
高い教育を受けた結果、子どもたちがまた農業や牧畜などに戻るのも大いに結構。というか、実は農業や牧畜にはそうした高いレベルの知識や経験が必要なものだ。知識は彼らにたくさんの選択肢を与え、より幸せになるためのチケットになる。……と、そう言ったのもまた魔王だった。
「さてと。面接はどこでやんの?」
「A棟の会議室だよ。こっち」
「足元に気を付けるでござるよ?」
「うん。あんがと」
コジロウがまるきり、リョウマを妊婦のように扱うのがちょっとおかしい。
面接では十数名の人たちが、面接官であるムサシや《第一保護区》側の教育者たちを前に緊張の面持ちで受け答えをし、リョウマとハルト、コジロウは別室でその様子を映像で見守った。
そろそろ面接もお開きになりそうになった頃、ふとリョウマは不思議な違和感を覚えた。
(ん……?)
腹のところに抱えているケースから、微妙な、本当に微妙な音と振動が伝わってくるのだ。
「えっ……?」
(まさか)
慌ててマントをそうっと開き、ケースの蓋を静かに開いて覗き見る。
「うっわ……!」
そのまさかだった。
乳白色の上に今やはっきりと金色の模様のついた大きな卵。
その表面に、ぴしりと小さなひび割れが出現していた。
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