星のオーファン

るなかふぇ

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第二章 スメラギの秘密

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 それから。
 ヒナゲシの言葉の通り、二人はときどき日にちを合わせて、その池のはたで会うことになった。「会う」とは言うが、それは最初のときと同様に目と目を合わせてのことではない。相変わらず、彼女は池を見つめているばかりだし、タカアキラは己が姿を隠して、ただ心の声でのみ言葉を交わすだけである。
 ヒナゲシの話は、驚くことばかりだった。
 そうしてタカアキラにとってはひどく、不愉快なものだった。

《では……あなたがたは、両親のもとに生まれた人たちではない、ということなのですか──》

 愕然として問い返したタカアキラの思念に、ヒナゲシは平板な調子で「ええ」と答えた。その長いまつげを、そよと揺らすことさえなかった。

 彼女の話を要約すれば、こうである。
 具体的に、それがいつから始まったのかまでは彼女も知らない。しかし、スメラギ皇国が始まってから一千年の後にはすでに、その一連の「仕事」は行われていたのだという。
 すなわち、自然な状態であれば父の体内にあるはずの種と、母の胎内にあるはずの卵とを、人工的につなぎあわせて「人」にする。そうして生まれた子どもたちを、スメラギ皇家は数千年もの間、してはミカドやその皇子らの后にしてきたというのだ。
 タカアキラは呆然とし、しばしその事実を飲み込むのに時間を要した。

《……いったい、何人の子らが生み出されてきたのです》
《わかりません。ですが、わたくしの代だけでも全部で数十名はおりましたわ。毎回、后妃を決める時期に合わせて子らが『産出』されるらしいのです》

(数十名、だと……?)

 それを聞いたとき、タカアキラはぐらりと眼前が暗くなるのを覚えた。が、どうにか傍らの木の幹によりかかり、危うく踏みとどまった。直衣のうしを着た胸をおさえて呼吸を整える。正直なところ、こみ上げる吐き気を抑えるだけでも精一杯だった。

 聞けば「子ら」は、男女合わせて一度に数十名が生まれてくるのだという。そこは内部に赤子の浮かんだ無機質な筒がただ整然と並ぶ、どこかの研究機関のような様相を呈した冷たい空間なのだそうだ。
 「子ら」の観察、研究と世話を担当する技官らによれば、そこは<つばめの巣>と呼称されているらしい。「子ら」がある程度育ち、選別されてやがていなくなるまでの間の、単なる居所に過ぎないからであるのだろう。「子ら」が飛び立っていなくなればまた、次の「産出」のための準備がなされる。
 しかし実際の渡り鳥とは異なり、「子ら」はひとたびそこを離れれば、決して戻ってくることはない。それぞれに、選別にしたがって行き場所を与えられ、別れてからは二度と会うこともないのだと。
 タカアキラはからからになった喉の奥で唸った。

《いったい、何のために……そのような》
 実際に声を出しているわけではないのだが、その思念もやはり、震えているように思われた。
《あなた様のように、入内の叶わなかった子らはどうなるのです。それに、男子おのこたちは……? そもそも彼らは、入内などできないのでは──》
《詳しいことまでは、わたくしにも分かりません。……けれど》

 そう言って、彼女は自分なりの見解を淡々と述べた。それは彼女がこの十年ばかりの間に、あの<恩寵博士>や技官らの心のうちを読み取り、情報をつなぎ合わせて編み上げた推理であると言い置いて。
 つまり、これらの「子ら」は、スメラギ皇家を存続させるために生み出されているのだろうと。今では宇宙全体の中でもかなりの「希少種」だと思われる完全体の人間型ヒューマノイド。その形を数千年前から失わずに存続しつづけているのがこの惑星スメラギの人々だ。
 言うまでもなく、その筆頭がスメラギ皇家の一族である。しかしその血を守るために、皇家がその家の中、一族の中ばかりで婚姻を繰り返した結果、ある時代に非常に虚弱であったり、体のあちこちに異常をきたしたりする者が現れだした。医学的にも、そうしたことはかなり昔から危惧されていた事態だった。
 そうして、皇家は選んだのだ。自分たちの血が濃くなりすぎないよう、自分たちの遺伝情報をより安全に、かつうまくバランスを取りながら存続させる方策を。
 それがつまり、この「子ら」を生み出し、意図的に自分たちの血に混ぜあわせるという暴挙だった。

 「混ぜ合わせる」とは言ったけれども、これも皇族の血には違いない。つまり、古くから採取され続けてきた多くの皇族の遺伝情報を用いて子らを生み出し、その血が濃くなりすぎぬようにバランスをとりながら「掛けあわせ」、かつてのような虚弱な者や障害をもつ者を生まないように「調整」していく。それが、かの<燕の巣>の最大の使命だったのだ。

《まって……。待って、ください……!》
 タカアキラは頭を抱えて、何度もヒナゲシにそう言った。無論、心の中だけで。
《まだ、わかりません。結局、あなた様のように后妃として選ばれるのはたった一名の、しかも女性にょしょうだけなのではありませんか。それなのになぜ、数十名も生まれさせる必要があるのです? そもそも、男子が生まれる理由がわからない。彼らはなぜ――》
《殿下》
 しかし、相変わらずヒナゲシの心の声は冴え冴えとして静かなばかりだった。
《殿下も皇子であらせられる以上、これまでスメラギを治めるための政治学、帝王学などは修めておいででございましょう》
《え? ……はい、それは》
《でしたら、不思議に思われたことはないのでしょうか。この国では、ほぼ九割ほどの人々が農業や漁業などに従事する、庶民と言われる者たちです。残りの一割が商業に携わる者、さらにそれよりずっと少ないのが、貴族階級とこちらスメラギ皇家のご一族――》
《ええ。そのように、聞いておりますが……》

 そうだ。タカアキラのもとに日々通ってくる政治学や帝王学の教師である文官たちから、それらの話はすでに聞いている。実際、さほど多いわけではないが惑星スメラギに生きる人々を毎日食わせていくだけでも相当な食糧が必要になる。それを産出するためには、やはり多くの人手が必要なのだ。
 もちろん、スメラギでは農作物の産出効率を上げるため、多くの科学的な技術も導入している。天候に左右されすぎないようにするため、必要とあらば農地の上を覆うことのできるシールドを発生させる装置を地中に埋め込み、大風や嵐のときにはそれを用いて作物を守るのだ。
 さらに作物の品種改良であるとか、太陽光を用いての屋内での野菜の栽培等々、さまざまな場所に科学技術は導入され、用いられてもいる。

 そのように思い巡らせていたタカアキラの頭の中に、再び静かにヒナゲシの声が響いた。

《……それだけで、立ちくとお思いですか? タカアキラ殿下》
《え……》

 タカアキラは、驚いて彼女を見つめ返した。

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