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第三章 ユーフェイマス宇宙軍
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しおりを挟む「ご依頼ですね。用件をおうかがいいたしましょうか」
タカアキラの胸が、どくんとはねた。
それはなんだか、腹の下の、さらに奥のほうを刺激されるような声だった。
思ったとおり、声が若い。低くて、深くて……色がある。
そう、これは色気だと思った。色気があるのだ、この声は。
そう思って見れば、黒いスーツのその下は引き締まった逆三角の体が隠されているようだった。
意味のよくわからないその衝撃に戸惑いながら、タカアキラはカウンターチェアからするりと下りて羊の男に向き直った。
「お会いできて光栄です、<鷹>どの」
そう言うと、男はくすりと笑ったようだった。
「どうか、ここでは『マスター』と」
「……はい」
先ほどの、「小鳥の遊べぬ木々の唄」。
あれが、この男に依頼をするための暗号だった。
スメラギには、言葉遊びのような古い言い回しがいくつもある。
その中に「小鳥遊」というものがある。
鷹がおらねば、小鳥は遊ぶ。
そして小鳥が遊べぬ木には、すぐそばに<鷹>がいるのだ。
マサトビの情報によれば、その店でこの台詞を言ったからといって、すぐに<鷹>に会えるとは限らないという話だった。<鷹>は宇宙のあちらこちらにこうした店を持っていて、さきほどの特別な「暗号」によって客を見分ける。マスターは<鷹>本人でないことも多く、その場合は精巧なアンドロイドが客の相手をするらしい。
もちろん、客がここに入ってきた時点から、その身に危険なものを帯びていないか等々、店内を常に監視しているコンピュータがしっかりと精査しているはずだった。相手のほうでもそのことを十分に確認したうえで、こうして話をする気になったものだろう。
タカアキラが訥々と述べる依頼内容について、羊の顔をした<鷹>の男はしばらく黙って聞いているようだった。
が、やがて苦笑を堪えるような声でこう言った。
「つまり、こういうことでしょうか。知り合いの困窮する子供らを助けるために、なるべく急ぎで大金がご入用だと。しかし宇宙軍からの給金だけでは到底、足りぬと。そのために当方のような仕事がしたいので、利用のできる情報、あるいはそのためのスキルを身につけたいと?」
あまりに澱みなくさらさらと確かめられて、タカアキラはどぎまぎした。
「ええ……はい」
「失礼ながら随分とまた、豪儀な方なのですね、お客様は」
「いえ、そういうわけでは──」
恐る恐る相手の顔を見つめて、タカアキラはすぐにまた俯いた。なんとなく、相手の顔を直視できない。とぼけた羊の顔でしかないというのに、いったいどうしたというのだろう。こんなことは初めてだった。
ともかくも、タカアキラはそのタイミングで、当初予定していたとおり、そっと<感応>の扉を開いた。相手が少しでもこちらをだまそうと図っていたり、明らかな敵意や悪意を持っている場合には即刻ここを立ち去るべしと、あのマサトビから口を酸っぱくして言われていたからだ。
しかしこの相手からは、何かをわずかに戸惑っている以外には、特におかしな感情は流れてこなかった。タカアキラは何となくほっとした。それが何故なのかまでは分からなかったが、なんとなく、この男からそうした気持ちを向けられたくないという気がしたからだ。
もちろんタカアキラのささやかな<感応>では、相手の細かな思考までを追うことは難しい。だがそれでも、ついつい安堵する気持ちは禁じえなかった。
この男は、そんなにひどい悪人ではない。
そのことだけは、はっきりと分かったから。
そしてそう分かったことが、なんとなしに嬉しかった。
「ともあれしばし、お時間をいただけますか。お返事は、また追ってということで」
「はい。もちろん」
次の連絡の時期と方法についてごく簡単なやりとりをして、その夜はそれで男と別れた。ずっとマスクをつけたままだったタカアキラは、ホテルの自分の部屋に戻るなりそれを脱ぎ捨ててベッドに倒れ込むと、大きく息を吐き出した。
もちろん、扉の外はザンギと交代したミミスリが陣取っているため、音をたてぬようにと細心の注意を払ってのことだったが。
しかし。
タカアキラのささやかな嬉しさは、大して長続きはしなかった。
はっきり言えば、そんなものは次に彼に会うまでのことだった。
何故ならその時、「また彼に会えるのだ」といううきうきした心楽しさなど、粉々に砕け散ったからである。
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と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
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