星のオーファン

るなかふぇ

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第八章 漂流

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 次に意識を取り戻したとき、アルファは自分の置かれている状況がすぐには把握できなかった。

(ここは……? 私は)

 宇宙服や軍服は脱がされており、医療機関で患者が着せられるような前開きの夜着を着せられている。体は重だるく、首や手先がやっと動かせるぐらいだった。
 どこかの医療機関に収容されたのか、周囲はそれらしいモニターやら機器の設置された壁に囲まれている。アルファ自身は医療用のカプセルの中に入れられているので、それらのことは透明なカバーを通して伺い知れるばかりだったが。

 やがて、さまざまな獣の形質を身につけた医療従事者らしい白衣の男女がやってきて、アルファに「気分はどうか」等々の質問をした。しかし、彼らは不思議とアルファの名前や身分について尋ねようとはしなかった。

「すみません。ここはどこなのでしょうか。あなた方は──」

 自分でも驚くほどにかすれた声しか出なかったが、アルファのその質問にも、答える者はいなかった。白衣の男女は黙ったまま、にこりとも笑わないで自分に課せられた仕事を淡々とこなしているという風情だった。返事と言ったら女の一人が硬い声音で「まだあまりお話しになりませんよう。お体に負担になります」と注意したぐらいのことだった。

(なんだ……?)

 奇妙な疑問を覚えているうちにも、彼らの操作でアルファのカプセルは浮き上がり、彼らの腰あたりの高さで浮いたまま、ゆっくりと移動を始めた。あまり体の動かせない患者を運ぶ場合にこうすることは普通である。ということは、ここはやはりどこかの病院なのだろうか。
 ある一定の距離を運ばれたところで、白衣の男女はその場にとどまり、カプセルを見送ったらしかった。アルファはただ一人、そのカプセルに乗せられたままゆっくりと通路を移動していくようだった。

 なにか、非常にいやな予感がした。
 きちんと友軍に救助されたのであったなら、こういう奇妙な扱いをされているはずはない。ユーフェイマス軍は自分の身分と扱い方を十分に心得ているはずだし、それはたとえ医療従事者であったとしても同じであるはずだった。
 だとすれば、自分は敵軍に拉致されたのだろうか。
 特殊な身分をもつ自分のような捕虜に対して、ザルヴォーグがどのように対処するかは未知数だ。ユーフェイマスに恩を売る形で返還するにしろ、直接あのスメラギ皇国と交渉するにしろ、身柄を大事に保護されることは間違いないが。そうだとしても、この扱いはどうも奇妙であるように思えてならない。

 あれこれと考えるうちに、やがてカプセルは豪奢な飾りのほどこされた大扉の中に入ったらしかった。寝そべった体勢のままではよくわからなかったが、その扉にふさわしい大きく豪華な飾りつけの部屋に入ったようである。
 金持ちの家によくあるような、ビロードや黒檀のあしらわれた家具がちらりと目に入った。部屋全体は妙に薄暗く、明かりはわずかであるようだ。
 と、部屋の中ほどまできて不意にカプセルは動きを止めた。そのまま静かに床におりる。ほとんど振動もさせずにそれが床に降下したのを感じ、アルファは鈍い動きしかしない自分の体にいら立ちながらも少し上体を起こしてみた。カプセルを覆っていた透明なカバーが、アルファの動きに合わせてすうっと開いた。

 真っ先に目に入ったのは、ワインレッドであるらしい分厚い布地の下がった、なにか大きな家具だった。それが天蓋つきの巨大な寝台であることに気が付いて、アルファは無意識にも背筋にぞくりと冷たいものを覚えた。

「ほう。なるほど。美しい」

 いきなり部屋の奥のほうから声がして、アルファはびくっと身を竦めた。それはざりざりと心の底をひっかくような、ねちっこいのに痛みを覚えるような声音だった。
 暗さに目が慣れてきたところで、やっとアルファも声の主の姿を認めた。
 部屋の奥に、てらてら光る素材でできた紫のローブをまとった、でっぷりとした男が腰かけていた。座っているのはその体躯にふさわしい、豪奢で巨大なソファである。
 男は体全体がトカゲと呼ばれる生き物に非常によく似ていた。顔はもちろんローブの袖から見える腕にも、びっしりとぬらぬら光る鱗のようなものが見えている。片腕にはその手に見合った大きめのワイングラスを持ち、時折りそれを、ちょろちょろと長い舌で舐めるようにしている。

「あ、……あなたは」

 アルファは掠れた声でやっとその質問を絞り出した。
 頭の中では非常警報ががんがんと鳴り響いている。それは先ほどの比ではなく、目の前を真っ赤に染めそうなほどの音量だった。

 今すぐ逃げろ。
 この男は危険な生き物だ。
 警報はずっと、アルファの頭の中でそれを繰り返し続けている。

 この場所。この状況。
 そして相手の男の薄気味の悪い爬虫類の瞳の中にうかぶ、まぎれもない色欲の色。そこにいるのは、物語に出てくる淫魔そのものではないかと思った。
 蜥蜴の男はもったいぶるように目を細め、アルファの体を上から下まで文字通り舐めまわすようにしてからゆっくりと言った。

「我が名はゴブサム。……今からお前の主人あるじになる男よ」と。

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