星のオーファン

るなかふぇ

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第一章 黒髪の皇子

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 その結果。
 次第しだいに明らかになってきたことを総合し、よくよく吟味した上で、ベータはとある結論に至ったのだ。

 スメラギの第三皇子タカアキラ──今では自分にとっては「アルファ」と呼ぶほうがより自然だが──が、その協力者であるマサトビとかいう男とともに、もと<燕の巣>の出身者である子供らをとある惑星で大切に育てているのだという結論に。
 「酒池肉林」など、とんでもない。
 アルファは心底、ただただ善意で私財をなげうち、その惑星を購入して子らを救い出し、厳重な警備システムまでつけて、そこで大切にかくまっていたのである。
 それはいずれ彼自身に案内されてかの惑星への訪問を果たした時に証明されることになるのだったが、実際はそのずっと以前から、ベータはとっくにその事実に行きついていた。

 だから、と言うにはあまりに後ろめたい気持ちにもなるのだったが、ともかくも。
 ベータはそれまで「七三で」と申し渡していた互いの報酬の取り分を、やがて完全に折半にした。そうしてアルファを自分の「相棒バディ」と呼ぶことを良しとするに至ったのだ。
 とは言え、それは決してアルファの働きが十分なものだったからではない。銃や剣のスキルについては標準以上ではあったものの、彼は主に性格的な理由でもってこうした仕事には向かなかった。ぶっちゃけて言ってしまえば要するに、あまりにも「いい人」すぎた。
 基本的に、こういうたぐいの仕事においてはターゲットに無用な憐れみを掛けるべきではない。かれらに対する変な同情は、時にはおのが身の破滅をも招く。ベータも何度かは口を酸っぱくして言ったのだったが、それでもアルファは彼らに優しくせずにはいられないらしかった。それも、相手が女や子供である場合は特に。
 あのパンダの少年に対する態度など、そのいい例だ。

(なにが『ママのところに帰ろうね』だ、あの野郎──)

 思い出すだに、尻のあたりがむず痒くなる。
 ああいう無条件に与えようとする善意だの優しさだのといったものに、自分はあまりに免疫がなかった。だから時に、自分はかの青年を平然と見守ることすらできず、冷たい態度で突き放すようなことも多かった。

 だから、なかなか気づけなかったのだ。
 自分が実はかの青年のことを、心の内でどう思うようになっていたかということを。





 二人で行う「仕事」は結局、そんな調子でしばらく続いた。
 その半年ほどの間に、少しずつアルファの態度は物慣れてきたようで、時にはこちらの発する皮肉に皮肉で応酬してくるようにまでなった。当初、なんだか初々しすぎて「こいつこんな風情で大丈夫か」などとさえ思ったのだが、この頃にはそんな思いも相当に薄れていた。
 しかし、なんとなくわかってもいた。彼が意識的にベータの態度から様々なことを学び、自分の態度に反映させているのだろうということは。

 はじめのうち、ベータに向かって「ですます調」で話すことの多かった皇子様は、このころにはもう簡単にこちらを「君」やら「貴様」呼ばわりさえする、ちょっとふてぶてしい雰囲気を身に着け始めていた。
 それがなんとなく嬉しいような寂しいような、なんとも複雑な気分になり、ベータはそんな甘っちょろい自分をまた叱咤せねばならなかった。とはいえ宇宙艇のコクピットに並んで座り、頭の回転の早い青年と何かのことでぽんぽん言い合うその状況を、ベータは決して嫌ってはいなかった。

 いや、むしろ気がつけば、彼との仕事が一段落するとすぐさま「次はどんな仕事を受けようか」と、次を楽しみにしている自分がいた。自分の根城でコーヒーなど飲みながら世間のニュースを拾い読みなどしているうちにも、無意識に「あの依頼だったらあいつと一緒にできそうじゃないか」などと、いつのまにやら考えている。そんなことがしばしばあった。
 が、それでもやっぱり、ベータは自身の気持ちの奥底にあるものにちゃんと向き合いはしなかった。
「べつに理由なんてない。二人でできる仕事もあったほうが、仕事の幅が広がってこっちも便利なだけに過ぎん」と、自分に言い訳しているばかりで。

 自身がそうやって自分に向かって様々な言い訳を繰り返していることに気づいたのはいつのころだっただろう。
 
(そうだ。……あの夜だ)

 大海戦後の虚しい宇宙空間をながめやり、犬顔のマスクの下でベータは考え続けている。

 そうだ。
 最たるものは、あの夜だった。
 アルファにこの大海戦への参加を命じる辞令がおりて、彼はその夜、そのことをベータに報告にやってきた。隠れ家兼連絡場所として使っている、とあるバーの店内だった。

 彼は何を思ったのか、急に「抱いてほしいんだ」と、この自分に頼んできた。
「君の言い値でいいんだ」と、震える声でそう言った。
 つまりそれは、自分にを依頼する内容だった。

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