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第五章 月下哀艶
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しおりを挟むそこからは何と言うか、完全にベータの独壇場だった。
なにしろここは彼の「居城」だ。アルファは彼に腰のあたりを抱かれたままで有無を言わさずあの分解シャワールームに連れていかれた。見ればいつのまにか彼の片手には例のスプレー・ゴムやら行為のためのジェルのチューブなどが握られている。
シャワールームに入って扉を閉めた途端、それらを壁の小さな棚に置き、ベータはアルファの体をあらためて抱きすくめた。再び深いキスが始まる。
「ん……ベータ、でも、こんな……」
「観念しろ。どの道、そんな体で寝所には戻れまい」
「ん……っ」
言いながら足の間にまたすっと手を入れられて腰がはねる。彼の言う通りだった。スラックスの上からでもはっきりわかるほど、アルファのそこはギリギリと硬くなったもので押し上げられている。確かにこんな体では住処に戻ることも叶わない。
男は楽しげにアルファのうなじに、首にとキスをずらしていきながらアルファの着ているものを慣れた手つきで脱がしていく。彼の熱い唇が敏感な場所をかすめるたびに、アルファは小さな声を上げて体を跳ねさせた。
「んっ……あ!」
「お前の身分では、そうそう誰かに抱いてなんぞ貰えまい。命令してってのは可能だろうが、お前はそういうタイプではなかろうし」
あれこれとしゃべりながらも、男の唇と手が次々にアルファの気持ちいい場所を探し当てていく。指先が胸の尖りを弄び、さらりと脇腹を撫でおろして下着の中へと這いこんできた。
すでに熱く熾りたってしまっているそれを、やんわりと手のひらに包み込まれる。
「ふっ……ん」
「気の毒なもんだな、高貴なお方なんてものは」
「え……? っあ!」
きゅっとそこを握りこまれ、そのままかりかりと爪をたてるようにして悪戯を仕掛けられる。
「あっ……あ!」
足ががくがく震えてしまい、アルファは目の前の男の肩にしがみついた。
と、蕩けかかった意識の中にベータの低い声が滑り込んできた。
「せいぜい俺を使えばいいのさ。皇子サマ」
「……え」
思いがけないその言葉に、アルファは熱い吐息を零しながら涙のにじんだ目を開けた。
(『使う』……? ベータを?)
違う。そんなつもりはまったくない。
しかし、そんな風に思われるのも無理もない話だ。自分はここに至るまで、自分の気持ちをいっさい彼に伝えていないのだから。
いや、伝えたと言えば伝えたのだが、あれを言ったのは飽くまでも記憶を失くしていた頃のアルファ、つまり<玩具>のほうだ。今でも彼は、それがアルファ自身の気持ちだったのだとは認識していないのだろう。
だから一連のこの事態も、単純にアルファが体の欲望を抑えかねてベータに行為を求めているのだと、そう理解されてしまっているのだ。
(……しかし)
だからと言って、そんなものが伝えられるか。彼を不幸のどん底に叩き落した一族の人間である自分が、そんなに容易く彼にそんなことが言えたなら、なんの苦労があるものか。
「…………」
唇を噛んで沈黙したアルファをちらっと見て、男は変な顔になった。
「……すまん。また余計なことを言ったか」
「いや……」
俯きかけた顎をとらえられ、ちょっと信じられないほど優しいキスが下りてくる。目尻をぺろりと舐められて、アルファはかっと羞恥を覚えた。また自分は子供のように、見せてはいけないものをつい見せてしまったらしい。
「忘れてくれ。どうも俺は、余計なひと言が多くていかんな」
「…………」
「何も考えるな。……今はただ、せいぜい愉しめ」
「っあ……!」
言葉と同時に服ごと下着を下ろされた。ベータはアルファの耳たぶを柔らかく食んでみたり、顎に、鎖骨に、胸の飾りにと唇を這わせながら至極器用にアルファの革靴を脱がせ、やがてスラックスを引き抜いてしまう。
今やアルファの着ているものはシャツとネクタイ、それに靴下のみだ。それだとてすでにすっかり乱されて、前のボタンはすべて外され、胸から下腹まですべて露わになっている。
ベータはねっとりとアルファの胸の尖りを舐め、吸い上げて、肩に、胸に、脇腹に思うさま跡を残すようなキスを降らせた。胸を飾るふたつのものは待ちわびた快楽を喜ぶようにつんと硬く立ち、彼の唾液でぬらぬらといやらしく濡れ光っている。
「は、……あ、あ……ベータ……っん」
今やアルファの体の中心はすぐにも爆発しそうにかちかちになっていた。その先からとろとろと滲む雫をベータが目ざとく見つけて、にやりとこちらを見上げて笑った。
「気持ちよさそうでなによりだ。……もっといい声で啼いてみろ。ん?」
「ひゃっ……! あ、あんっ……!」
握りこまれ、親指の腹でぐちぐちと染み出たものを塗りこめられて腰が砕けそうになる。力を失った両足の間にベータが腰を割り込ませ、今度は両手で思うさまアルファの尻を揉みしだいた。
その指先が、時おり巧みに入口を掠めていく。そのたびに、アルファは尻を振りたてて仰けぞり、喘いだ。
「あっ……あっ、あ……! や、あんっ……!」
無意識に腰を振り、彼の肩に両腕を回して抱きついたまま、猛り立ったものを彼の腰に押し付けてしまう。
「あ、はや……く。ベータ……!」
……はやく。欲しい。
お前のもので、私を。
私を貫いて、めちゃくちゃに犯して。
アルファが快感に酔っている間に、ベータはとっくに自分の準備を終えていたらしい。その上で自分の指にジェルをたっぷりと塗り付けて、まずはアルファの体を慣らした。
ぬぷりと彼の指が押し入ってきて、アルファは一瞬だけ息を止める。
「っひ、あ……あっあ……っ」
ぐちゅぐちゅと男の硬い指先が自分の中、その悦い場所を掠めるたびに、涙をこぼして腰をはねさせた。
たまらない。
もどかしい。
はやく、はやくと体全部が悲鳴を上げる。
「や……もう、や……っ! ベータぁ……っ」
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