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しおりを挟む「子どもの頃か。そなたも存じていると思うが、すでに数千年も前のことでな。かなり記憶が曖昧なのだが」
「それでもいいよ。なんでもいいから、憶えてること教えてくれよ」
魔王は顎に手を当て、やや考える様子だったが、あらためて両腕でリョウマの身体を抱き直した。いつものように、頭をぽすぽすと軽く叩かれる。これが本当に気持ちいい。わざわざこいつに言ったりはしないが、もうすっかり、無くてはならない体にさせられてしまっている。かつて、この男と敵対していた自分からするとにわかに信じられないが、今はこうされるときが最上の幸せなのだ。間違いなく。
「ええと。お前の親も魔族だったのか?」
「いや……。定かではないが、恐らく違う。が、もともと何らかの形でその素質はあったのだと思う。両親二人の形質がうまく混ざり合ったことで私が生まれた。その結果、あの頃のあの環境にうまく『嵌まった』のだろうよ」
「うん」
ただそれだけ言って頷くことで、リョウマは魔王の言葉の先を促した。
◆
幼少期の魔王──その頃は単なる脆弱な幼い少年にすぎなかったが──の記憶は、至って曖昧模糊としている。そこからの数千年、あまりにも多くのことがありすぎたのだ。ゆえに憶えていることは至って少ない。
ほかにも兄弟姉妹はいたようだったが、地球の大変動期、地上に《魔素》が溢れ出るにしたがって少しずつ死んでいった。それでも即死しなかったのは、親からうけついだ形質によるのだろう。まさにそれは「恩寵」だった。そうでなければ、普通の人間の体は《魔素》や《魔気》に堪えられない。
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エルケニヒを含む残った子どもたちを守りながら、両親はそれでもしばらくは生き残っていた。が、やがては力尽きた。幼かったエルケニヒには、その時何が起こったのかをきちんと記憶できてはいない。ただ目の前に転がって、単なる物体のような何かになって停止してしまった両親や兄弟たちの体を見た記憶があるばかりだ。それもすぐに、飢えた得体の知れない生き物の腹におさまっていったけれども。
エルケニヒが生き残れたのは、ただただ「運」だったと思う。
たまたま、突然変異的に身に宿っていた《魔素》に耐えられる体質──いや、実際にはそれ以上のものだったが──が、脆弱だったはずの幼い少年を生かし、守った。
「もちろん、生き残る過程で多くの人間を殺したし、そのうえで食い物や何かを奪ったと思う。今では犯罪と呼ばれていることのほとんどをやった。そうでなければ生き残れなかった」
「……うん」
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