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後ろからリョウマを抱きしめたまま、再び目を閉じている魔王の寝息が聞こえる。まあ、まだ眠っていないかもしれないが。
リョウマは先ほど聞かされた魔王の昔話を反芻しつつ、自分も目を閉じたまま考えていた。
「子どものころのことはよく憶えていない」と言いながら、魔王は憶えている限りのことは教えてくれた。それはリョウマが予想していた以上に過酷な過去だった。多分、リョウマがショックを受けるような内容についてはかなり割愛するなりマイルドにするなり、適度な味付けはしているのだろうが。
こういう話になると、「いかに自分が正しかったか」とか「強かったか」「賢かったか」を自慢するのが普通の人間だろうと思うが、そこはさすが、千年も国のリーダーであり続けた男の余裕。そんな自慢げな話は一切せずに、あったことをただ淡々と教えてくれた。
正直、「一族郎党、女子供、乳児も構わず皆殺し」については引いたが、当時のあまりにも厳しかったのであろう環境のことを考えれば、リョウマはそれに「否」を突きつけることはできなかった。恐らくは、自分が考える以上の難しい側面が多かったのだろうと思うからだ。
後々の禍根を絶つことは、為政者にとってそれほど重要なことなのだろう。自分がすべての罪を背負うことで、下の者たちの苦労や争いを減らし、平和を求める。この男にはそれだけの覚悟があったのだと思う。自分にできるかと問われれば、「まあ無理だな」と思うばかりだ。
男はどこまでも淡々と語ったけれども、当時、彼が心の中でどのように感じていたかまでは語らなかった。それを語って、過度にリョウマの同情を誘うなど簡単なことだろうに、彼はそれを選ばない。そういう男だ、ということはもうリョウマにもわかっている。
十分な実力と自信に裏付けられてのことだけれども、この男は必要以上に自分を大きく見せようとはしない。そうする必要がないからというのもあろうが、敢えてこちらを侮って攻撃してきた相手には、隙を見せるふりをして反撃に出るという算段もあるからだろう。
(はあ。どっちにしろ、大変なもんだな。『王サマ』っつーのも)
今のところ、エルケニヒの後を継ぐ者は決まっていない。生まれた子どもたちはみんな、それぞれに個性的で得意分野が異なっている。魔王に言わせれば、単純に武力や魔力が優れていることだけが魔王の後継に求められる資質とは言えないそうだ。魔王がなにより見極めたいと願っているのは、子らの心の在り方、性格、民たちに対する態度の在り方なのだった。
もっとも、それはまだまだずっと先の話。
今のところ、資質の上では長女であるサファイラが頭ひとつ抜けているようにも見えるが、第一王子ローティアスは身体的な強さに加えて王らしい性格のおおらかさと、民を気遣う優しさを併せ持っている。どちらも非常に魅力的であり、一国の主としてふさわしい資質だと思われる。
(……ま、俺が考えるこっちゃねえんだろうけど)
魔王はどのように考え、どのように自分の後継者を選ぶのだろうか。
いやそもそも、自分たちの子の中から後継者を選ぶ気があるのだろうか……?
今までなら、家族というものを持たなかった魔王の後継者のことなど、話に上ること自体が少なかったらしい。なにしろ非常に優れた力の強い魔王が千年も君臨してきた国なのだ。しかし今後は違ってくることだろう。
もしかすると今後、この国にもややこしい後継者争いなどが起こり始めるのだろうか?
自分が魔王の王配におさまったことで、この国に争いが起こることになるなんて考えるだけでもゲンナリするが。
リョウマはそっと薄目を開けると、片手を持ち上げて魔王の角の少し下あたりをそうっと撫でた。
「よしよし」
「……なにをしている」
「あ。やっぱ起きてた?」
「というか、そろそろ起きる頃合いだろう」
案の定というか、魔王は眠ってはいなかった。
彼の言葉どおり、すでに窓の外はふんわりと明るくなりかけている。また今日も、騒々しくも明るい王宮の一日が始まろうとしている。
リョウマは手の動きをやめずに言った。
「ま、いいじゃん。ちょっとナデナデさせろや」
「…………」
意外にも魔王は否やを言わず、リョウマの手が優しく自分の髪や頭頂部あたりを撫でるままにさせていた。
「よしよし。お前も頑張ってきたんだな。子どもの頃から大変だったな。頑張ったな~。えらいぞ、よしよし」
「……ふ」
何を思ったか、魔王が吐息だけで笑ったようだ。顔は見えないのでわからないが。
そこから、リョウマを抱きしめる魔王の腕にぐっと力がこもった。
「うぐっ。き、キツいって──おい?」
魔王はそのまま、リョウマの首の後ろあたりにぐりぐりと頭を擦りつけている。
なんだかちょっと甘えられているような気がして、くすぐったくなった。が、そのうちすぐに魔王の手が怪しい場所を探りはじめた。
「ちょっ……こら! やめろ、もう朝だっつーの!」
「そんな風にされたら、さすがの私も我慢できなくなったわ。もう一戦、構わぬだろうか」
「構います~! めっっちゃくちゃ構いますうう──っひゃうっ!」
うぎゃあああ、と魔王と王配の褥からリョウマの悲鳴が轟いた。
ほぼ日常茶飯事のことであるため、すべてを察している使用人たちは決して部屋には入らない。「あ、またですか」というほっこりした顔をして、音もなく扉の前から去るのみだ。
「やめっ……バカっ! てめえはまったく、毎朝毎朝~~!!」
リョウマの平和な叫びが魔王宮を揺らす。
朝を謳歌する小鳥たちも、みな勝手知ったる顔をして、暢気な囀りをやめなかった。
了
2025.9.20.Sat.~2025.9.30.Tue.
これにて完結です。
最後までお付き合いをありがとうございました。
いつかまた、どこかで!
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リクエストに応えてくれてありがとうございます!!!!
やっぱりこの二人好きです!!
エルケニヒのリョウマにだけ見せる惚気が尊い…!!
瑠夏さま
見つけてくださりありがとうございます!
始めてはみたのですが、私の筆でこの二人をどこまで「いちゃらぶ」にできるのか…!? は、まだまだ未知数です(苦笑)
こちらもぼちぼち参りますので、楽しんでいただけましたら幸いです。
ご感想、わざわざありがとうございました(*^_^*)