墜落レッド《外伝2》夜の睦言

るなかふぇ

文字の大きさ
7 / 7

しおりを挟む

(はあ……。思ってたよりずっとキツかったなあ)

 後ろからリョウマを抱きしめたまま、再び目を閉じている魔王の寝息が聞こえる。まあ、まだ眠っていないかもしれないが。
 リョウマは先ほど聞かされた魔王の昔話を反芻しつつ、自分も目を閉じたまま考えていた。

 「子どものころのことはよく憶えていない」と言いながら、魔王は憶えている限りのことは教えてくれた。それはリョウマが予想していた以上に過酷な過去だった。多分、リョウマがショックを受けるような内容についてはかなり割愛するなりマイルドにするなり、適度なはしているのだろうが。
 こういう話になると、「いかに自分が正しかったか」とか「強かったか」「賢かったか」を自慢するのが普通の人間だろうと思うが、そこはさすが、千年も国のリーダーであり続けた男の余裕。そんな自慢げな話は一切せずに、あったことをただ淡々と教えてくれた。

 正直、「一族郎党、女子供、乳児も構わず皆殺し」については引いたが、当時のあまりにも厳しかったのであろう環境のことを考えれば、リョウマはそれに「否」を突きつけることはできなかった。恐らくは、自分が考える以上の難しい側面が多かったのだろうと思うからだ。
 後々の禍根を絶つことは、為政者にとってそれほど重要なことなのだろう。自分がすべての罪を背負うことで、下の者たちの苦労や争いを減らし、平和を求める。この男にはそれだけの覚悟があったのだと思う。自分にできるかと問われれば、「まあ無理だな」と思うばかりだ。

 男はどこまでも淡々と語ったけれども、当時、彼が心の中でどのように感じていたかまでは語らなかった。それを語って、過度にリョウマの同情を誘うなど簡単なことだろうに、彼はそれを選ばない。そういう男だ、ということはもうリョウマにもわかっている。
 十分な実力と自信に裏付けられてのことだけれども、この男は必要以上に自分を大きく見せようとはしない。そうする必要がないからというのもあろうが、敢えてこちらを侮って攻撃してきた相手には、隙を見せるふりをして反撃に出るという算段もあるからだろう。

(はあ。どっちにしろ、大変なもんだな。『王サマ』っつーのも)

 今のところ、エルケニヒの後を継ぐ者は決まっていない。生まれた子どもたちはみんな、それぞれに個性的で得意分野が異なっている。魔王に言わせれば、単純に武力や魔力が優れていることだけが魔王の後継に求められる資質とは言えないそうだ。魔王がなにより見極めたいと願っているのは、子らの心の在り方、性格、民たちに対する態度の在り方なのだった。

 もっとも、それはまだまだずっと先の話。
 今のところ、資質の上では長女であるサファイラが頭ひとつ抜けているようにも見えるが、第一王子ローティアスは身体的な強さに加えて王らしい性格のおおらかさと、民を気遣う優しさを併せ持っている。どちらも非常に魅力的であり、一国のあるじとしてふさわしい資質だと思われる。

(……ま、俺が考えるこっちゃねえんだろうけど)

 魔王はどのように考え、どのように自分の後継者を選ぶのだろうか。
 いやそもそも、自分たちの子の中から後継者を選ぶ気があるのだろうか……?
 今までなら、家族というものを持たなかった魔王の後継者のことなど、話に上ること自体が少なかったらしい。なにしろ非常に優れた力の強い魔王が千年も君臨してきた国なのだ。しかし今後は違ってくることだろう。

 もしかすると今後、この国にもややこしい後継者争いなどが起こり始めるのだろうか?
 自分が魔王の王配におさまったことで、この国に争いが起こることになるなんて考えるだけでもゲンナリするが。

 リョウマはそっと薄目を開けると、片手を持ち上げて魔王の角の少し下あたりをそうっと撫でた。

「よしよし」
「……なにをしている」
「あ。やっぱ起きてた?」
「というか、そろそろ起きる頃合いだろう」

 案の定というか、魔王は眠ってはいなかった。
 彼の言葉どおり、すでに窓の外はふんわりと明るくなりかけている。また今日も、騒々しくも明るい王宮の一日が始まろうとしている。
 リョウマは手の動きをやめずに言った。

「ま、いいじゃん。ちょっとナデナデさせろや」
「…………」

 意外にも魔王は否やを言わず、リョウマの手が優しく自分の髪や頭頂部あたりを撫でるままにさせていた。

「よしよし。お前も頑張ってきたんだな。子どもの頃から大変だったな。頑張ったな~。えらいぞ、よしよし」
「……ふ」

 何を思ったか、魔王が吐息だけで笑ったようだ。顔は見えないのでわからないが。
 そこから、リョウマを抱きしめる魔王の腕にぐっと力がこもった。

「うぐっ。き、キツいって──おい?」

 魔王はそのまま、リョウマの首の後ろあたりにぐりぐりと頭を擦りつけている。
 なんだかちょっと甘えられているような気がして、くすぐったくなった。が、そのうちすぐに魔王の手が怪しい場所を探りはじめた。

「ちょっ……こら! やめろ、もう朝だっつーの!」
「そんな風にされたら、さすがの私も我慢できなくなったわ。もう一戦、構わぬだろうか」
「構います~! めっっちゃくちゃ構いますうう──っひゃうっ!」

 うぎゃあああ、と魔王と王配のしとねからリョウマの悲鳴が轟いた。
 ほぼ日常茶飯事のことであるため、すべてを察している使用人たちは決して部屋には入らない。「あ、またですか」というほっこりした顔をして、音もなく扉の前から去るのみだ。

「やめっ……バカっ! てめえはまったく、毎朝毎朝~~!!」

 リョウマの平和な叫びが魔王宮を揺らす。
 朝を謳歌する小鳥たちも、みな勝手知ったる顔をして、暢気なさえずりをやめなかった。

                 了


2025.9.20.Sat.~2025.9.30.Tue.

これにて完結です。
最後までお付き合いをありがとうございました。
いつかまた、どこかで!
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

瑠夏
2025.09.21 瑠夏

リクエストに応えてくれてありがとうございます!!!!
やっぱりこの二人好きです!!
エルケニヒのリョウマにだけ見せる惚気が尊い…!!

2025.09.21 るなかふぇ

瑠夏さま

見つけてくださりありがとうございます!
始めてはみたのですが、私の筆でこの二人をどこまで「いちゃらぶ」にできるのか…!? は、まだまだ未知数です(苦笑)
こちらもぼちぼち参りますので、楽しんでいただけましたら幸いです。
ご感想、わざわざありがとうございました(*^_^*)

解除

あなたにおすすめの小説

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

隊長さんとボク

ばたかっぷ
BL
ボクの名前はエナ。 エドリアーリアナ国の守護神獣だけど、斑色の毛並みのボクはいつもひとりぼっち。 そんなボクの前に現れたのは優しい隊長さんだった――。 王候騎士団隊長さんが大好きな小動物が頑張る、なんちゃってファンタジーです。 きゅ~きゅ~鳴くもふもふな小動物とそのもふもふを愛でる隊長さんで構成されています。 えろ皆無らぶ成分も極小ですσ(^◇^;)本格ファンタジーをお求めの方は回れ右でお願いします~m(_ _)m

転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される

Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。 中1の雨の日熱を出した。 義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。 それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。 晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。 連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。 目覚めたら豪華な部屋!? 異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。 ⚠️最初から義父に犯されます。 嫌な方はお戻りくださいませ。 久しぶりに書きました。 続きはぼちぼち書いていきます。 不定期更新で、すみません。

過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される

中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」 夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。 相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。 このお話はムーンライトでも投稿してます〜

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。