11 / 96
第一部 トロイヤード編 第二章 秘密
6 告白(3)
しおりを挟むシュウの話が終わっても、レドはしばし無言だった。
気がつけば、すっかり夜も更けている。窓の外は真っ暗で、消え残った蝋燭の明かりがゆらゆらと部屋のすみに深い隈を落としている。
椅子の背に両腕をのせ、そこに顎をのせた姿勢でレドはしばらく動かなかったが、やがてぼそりと口を開いた。
「ひとつ、聞いても構わんか」
「あ……はい」
目を上げると、いつもは強い光を放つその瞳がなんだかひどく優しげだった。シュウはまた、どぎまぎと落ち着かない気持ちになる。気を抜くと、つい彼から視線を逸らしたくなってしまうのだ。
「誰かに『それ』を施すと、お前の身にも影響がある。……違うか?」
「あ……それは」こくり、と頷き返す。「普段はそこまでのことはないんですけど……。ちょっと疲れたり、気分が悪くなったりすることはあります。あと、たまに、とても症状の重い人なんかだと──」
「最悪、気絶することもある、か」
「え……っ」
レドがさらりとその後を引き取ったので虚を衝かれたが、否定する理由もない。シュウは素直に頷いた。
「なるほどな」
レドも何かを得心したようだった。やがてぼりぼりと頭を掻きながら立ち上がり、シュウを振り返った。
「つまりだ──」
見れば、にんまり笑っている。
(ん?)
なんだろう、この反応。なんだか嫌な予感がする。
「これはもう、そんじょそこらの『恩返し』では済まぬ事態だということだな? そうだな?」
(……は?)
シュウの顎がかくんと下がった。それは、何の念押しだ?
この男はまた、何を言い出すつもりなのだろう。それに、どうしてこんなに嬉しそうなのだ?
──と。
ばちん! といきなりレドが両手を打ち合わせた。
シュウはびっくりして、ベッドの上で飛び上がった。そればかりではない。さらに続いたセリフを聞いて、本格的に言葉をなくした。
「よし! 決めたぞ。城に戻り次第、盛大な感謝と歓迎の宴を催そう!」
「…………」
(うた……げ??)
つまり、「宴会」とも呼ばれるあれか。
(でも、どうして──)
「無論、主役はお前を措いてほかにない! 何しろ俺と黒竜の『命の大恩人』なのだから!!」
声高に大笑。「恩人」のレベルが盛大にグレードアップしているのだが。
「…………」
真っ白になっているシュウを後目に、黒髪の若き王は仁王立ち状態だ。腰に手をやり、もはや意味不明な「大威張り」の態である。
「早速、城に手紙を書こう。我々が着く前に、十分に準備をさせておかねば!」
「あのー、ちょっと……」
真剣に頭がくらくらしてきた。
(この人、本っ当に、僕の話を聞いてたのか──?)
だから「目立つようなことは困る」と、あれほど。
途端、紅い風が眼前を飛び去って、シュウは面食らった。
「うわっ!」
もちろん、それはレドのマントだ。
「何はともあれ、腹が減った! 何か持ってこさせるから、ここで待て」扉を開けて振り返りざま、笑顔で能天気な捨て台詞。「お前も付き合えよ」
そのまま荒々しく階段を駆け下りていく。
まるで、一陣の旋風だ。
シュウはただただぼんやりと、飛び去ったマントの後を見送った。
0
あなたにおすすめの小説
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
ジャスミン茶は、君のかおり
霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。
大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。
裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。
困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。
その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。
王弟の恋
結衣可
BL
「狼の護衛騎士は、今日も心配が尽きない」のスピンオフ・ストーリー。
戦時中、アルデンティア王国の王弟レイヴィスは、王直属の黒衣の騎士リアンと共にただ戦の夜に寄り添うことで孤独を癒やしていたが、一度だけ一線を越えてしまう。
しかし、戦が終わり、レイヴィスは国境の共生都市ルーヴェンの領主に任じられる。リアンとはそれきり疎遠になり、外交と再建に明け暮れる日々の中で、彼を思い出すことも減っていった。
そして、3年後――王の密命を帯びて、リアンがルーヴェンを訪れる。
再会の夜、レイヴィスは封じていた想いを揺さぶられ、リアンもまた「任務と心」の狭間で揺れていた。
――立場に縛られた二人の恋の行方は・・・
おだやかDomは一途なSubの腕の中
phyr
BL
リユネルヴェニア王国北の砦で働く魔術師レーネは、ぽやぽやした性格で魔術以外は今ひとつ頼りない。世話をするよりもされるほうが得意なのだが、ある日所属する小隊に新人が配属され、そのうち一人を受け持つことになった。
担当することになった新人騎士ティノールトは、書類上のダイナミクスはNormalだがどうやらSubらしい。Domに頼れず倒れかけたティノールトのためのPlay をきっかけに、レーネも徐々にDomとしての性質を目覚めさせ、二人は惹かれ合っていく。
しかしティノールトの異動によって離れ離れになってしまい、またぼんやりと日々を過ごしていたレーネのもとに、一通の書類が届く。
『貴殿を、西方将軍補佐官に任命する』
------------------------
※10/5-10/27, 11/1-11/23の間、毎日更新です。
※この作品はDom/Subユニバースの設定に基づいて創作しています。一部独自の解釈、設定があります。
表紙は祭崎飯代様に描いていただきました。ありがとうございました。
第11回BL小説大賞にエントリーしております。
発情期アルファ王子にクッキーをどうぞ
小池 月
BL
リーベント国第五王子ロイは庶民出身の第二公妾の母を持つ貧乏王子。リーベント国は農業が盛んで豊かな国。平和だが貴族や王族の権力争いが絶え間ない。ロイと母は、貴族出身の正妃と第一公妾、その王子王女たちに蔑まれて過ごしていた。ロイの唯一の支えは、いつか国を脱出し母と小さな洋菓子店を開き暮らすこと。ある日、ロイが隣国アドレアに友好のため人質となることが決定される。国王の決定には逆らえず母をリーベントに残しロイは出国する。
一方アドレア国では、第一王子ディモンがロイを自分のオメガだと認識したためにロイをアドレアに呼んでいた。現在強国のアドレアは、百年前は貧困の国だった。当時の国王が神に救いを求め、卓越した能力を持つアルファを神から授かることで急激な発展を実現した国。神の力を持つアルファには獣の発情期と呼ばれる一定の期間がある。その間は、自分の番のオメガと過ごすことで癒される。アルファやオメガの存在は国外には出せない秘密事項。ロイに全てを打ち明けられないまま、ディモン(ディー)とロイは運命に惹かれるように恋仲になっていく。
ロイがアドレアに来て二年が過ぎた。ロイは得意の洋菓子でお金稼ぎをしながら、ディーに守られ幸せに過ごしていた。そんな中、リーベントからロイの母危篤の知らせが入る。ロイは急いで帰国するが、すでに母は毒殺されていた。自身も命を狙われアドレアに逃避しようとするが、弓矢で射られ殺されかける。生死をさ迷い記憶喪失になるロイ。アドレア国辺境地集落に拾われ、シロと呼ばれ何とか生きて行く。
ディーの必死の捜索により辺境地でロイが見つかる。生きていたことを喜び、アドレア主城でのロイとの生活を再開するディー。徐々に記憶を取り戻すロイだが、殺されかけた記憶が戻りパニックになる。ディーは慈しむような愛でロイを包み込み、ロイを癒す。
ロイが落ち着いた頃、リーベント国への友好訪問をする二人。ディーとリーベント国王は、王室腐敗を明るみにして大掛かりな粛清をする。これでロイと幸せになれる道が開けたと安堵する中、信頼していた親代わりの執事にロイが刺される。実はロイの母を殺害したのもこの執事だった。裏切りに心を閉ざすロイ。この状態ではアルファの発情期に耐えられないと思い、発情期を一人で過ごす決意をするディー。アルファの発情期にオメガが居なければアルファは狂う。ディーは死を覚悟するが、運命を共にしようと言うロイの言葉を受け入れ、獣の発情期を共にする。狂ったような性交のなかにロイの愛を感じ癒されるディー。これからの人生をロイと過ごせる幸福を噛みしめ、ロイを守るために尽くすことを心に誓う。
雪を溶かすように
春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。
和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。
溺愛・甘々です。
*物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています
嫌いなあいつが気になって
水ノ瀬 あおい
BL
今しかない青春だから思いっきり楽しみたいだろ!?
なのに、あいつはいつも勉強ばかりして教室でもどこでも常に教科書を開いている。
目に入るだけでムカつくあいつ。
そんなあいつが勉強ばかりをする理由は……。
同じクラスの優等生にイラつきを止められない貞操観念緩々に見えるチャラ男×真面目で人とも群れずいつも一人で勉強ばかりする優等生。
正反対な二人の初めての恋愛。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる