【改訂版】Two Moons~砂に咲く花~

るなかふぇ

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第一部 トロイヤード編 第二章 秘密

6 告白(3)

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 シュウの話が終わっても、レドはしばし無言だった。 
 気がつけば、すっかり夜も更けている。窓の外は真っ暗で、消え残った蝋燭の明かりがゆらゆらと部屋のすみに深いくまを落としている。
 椅子の背に両腕をのせ、そこに顎をのせた姿勢でレドはしばらく動かなかったが、やがてぼそりと口を開いた。

「ひとつ、聞いても構わんか」
「あ……はい」

 目を上げると、いつもは強い光を放つその瞳がなんだかひどく優しげだった。シュウはまた、どぎまぎと落ち着かない気持ちになる。気を抜くと、つい彼から視線を逸らしたくなってしまうのだ。

「誰かに『それ』を施すと、お前の身にも影響がある。……違うか?」
「あ……それは」こくり、と頷き返す。「普段はそこまでのことはないんですけど……。ちょっと疲れたり、気分が悪くなったりすることはあります。あと、たまに、とても症状の重い人なんかだと──」
「最悪、気絶することもある、か」
「え……っ」

 レドがさらりとその後を引き取ったので虚を衝かれたが、否定する理由もない。シュウは素直に頷いた。

「なるほどな」

 レドも何かを得心したようだった。やがてぼりぼりと頭を掻きながら立ち上がり、シュウを振り返った。

「つまりだ──」

 見れば、にんまり笑っている。

(ん?)

 なんだろう、この反応。なんだか嫌な予感がする。

「これはもう、そんじょそこらの『恩返し』では済まぬ事態だということだな? そうだな?」

(……は?)

 シュウの顎がかくんと下がった。それは、何の念押しだ?
 この男はまた、何を言い出すつもりなのだろう。それに、どうしてこんなに嬉しそうなのだ?

 ──と。

 ばちん! といきなりレドが両手を打ち合わせた。
 シュウはびっくりして、ベッドの上で飛び上がった。そればかりではない。さらに続いたセリフを聞いて、本格的に言葉をなくした。

「よし! 決めたぞ。城に戻り次第、盛大な感謝と歓迎のうたげを催そう!」
「…………」

(うた……げ??)

 つまり、「宴会」とも呼ばれるあれか。

(でも、どうして──)

「無論、主役はお前をいてほかにない! 何しろ俺と黒竜の『命の大恩人』なのだから!!」

 声高に大笑。「恩人」のレベルが盛大にグレードアップしているのだが。

「…………」

 真っ白になっているシュウを後目しりめに、黒髪の若き王は仁王立ち状態だ。腰に手をやり、もはや意味不明な「大威張り」のていである。

「早速、城に手紙を書こう。我々が着く前に、十分に準備をさせておかねば!」
「あのー、ちょっと……」

 真剣に頭がくらくらしてきた。

(この人、本っ当に、僕の話を聞いてたのか──?)

 だから「目立つようなことは困る」と、あれほど。
 途端、紅い風が眼前を飛び去って、シュウは面食らった。

「うわっ!」

 もちろん、それはレドのマントだ。

「何はともあれ、腹が減った! 何か持ってこさせるから、ここで待て」扉を開けて振り返りざま、笑顔で能天気な捨て台詞。「お前も付き合えよ」

 そのまま荒々しく階段を駆け下りていく。
 まるで、一陣の旋風つむじかぜだ。
 シュウはただただぼんやりと、飛び去ったマントの後を見送った。

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