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第一部 トロイヤード編 第三章 王都ヨルムガルド
1 帰還(1)
しおりを挟む翌朝早く、レド王の一行は再び王都に向けて出発した。
王都に近づくにつれ、次第に迎えの将軍や兵士たちも合流してきて、今では総勢三百人ほどにもなっただろうか。
正式な出陣ではないため、騎馬ではありながらも、わりと装束はまちまちだ。なかには甲冑の兵士もいるが、大抵は平服にマントを羽織った気さくないでたちである。
都から馳せ参じ、王に一礼をしてその隊列に加わるとき、みなは一様に、ひどく嬉しそうだった。王が無事だったということはもちろんなのだろうが、むしろ、ただ単に彼に会えたことが嬉しくて堪らないように見える。合流して同行する兵士たちからは、時おり楽しげな笑い声が湧き上がった。
そういえば、迎えに来てすぐ、ゴルザス将軍も、苦笑混じりにレドにこう言ったものだ。
「悪運の神にこよなく愛されておられる陛下のことです。当然ご無事とは思うておりましたが、なにぶんあの文官どもが五月蝿うございましてな。『早う王都にお帰し申せ、一刻も早う!』と、それはもう──」
それを聞いたレドは、案の定、馬上で抱腹絶倒の態であった。
聞けばゴルザス将軍は、トロイヤード軍一万騎を指揮する立場だということである。他にも同様に大軍を指揮する将軍が十一人いるという。その下に、それぞれが十人の千騎長、さらに百人の百騎長と多くの兵士を抱え、全体が緻密に組織されている。
ゴルザスは、いかにも真面目で誠実、かつ勇猛果敢な人柄と見えた。その真面目さゆえ、今回のように結構貧乏くじも引かされてしまうようだ。しかし、レドのことはひどく可愛がっているらしい。それは傍目にも明らかだった。
レドに語りかける様子や彼を見るときの深い眼差しは、可愛い息子に対するそれとなんら変わりない。実際、年も親子ほど離れている。
同行する兵士たちによると、将軍の実の息子である千騎長の青年は、子供の頃からレドと兄弟のようにして育ったのだという。
レドの実の兄弟は、本来ならば二人いた。もとは三人兄弟であり、レドの上と下に、長兄と末弟がいたのだが、村人たちの噂によると、どちらもかなり前に亡くなっている。つまり直系の王権者は、現在レドを措いて他にない。第一王位継承者たる嫡子の誕生が切に待たれる所以である。
やがて、なだらかに傾斜した広大な牧草地の彼方に、遥かに海らしき碧い広がりと、その手前の市街地、それを囲むように建てられた防壁が見えはじめたとき。
「そろそろ王都だ。これでも着ておけ」
馬上から、レドはシュウに、兵士の兜とマントを放って寄越した。部下の誰かから借りたものらしい。シュウは不安定な馬の上で、あやうく受け取りそこねるところだった。
「街の中では、少し俺から離れてついてくるといい。目立たずに済む」
シュウははっとした。自分の「なるべく目立ちたくない」という願いは、決してレドに伝わっていなかったわけではなかったのだ。確かに、三百騎もの隊列に囲まれてこの兜とマントを羽織っていれば、シュウのみすぼらしい姿も人目に立つことはあるまい。
もちろん、シュウが何より心配していた、この《癒しの手》の件についても、レドはきちんと沈黙を守ってくれているようだった。
「あ、ありがとうございます……」
「気にするな。堂々とさえしていれば、だれも見咎める者はない」
にこやかにそう言うと、レドは少し馬の足を速めて、もとのようにゴルザス将軍の隣に並んだ。
いかにも親しげに言葉を交わしながら、肩を並べて馬を進めてゆく二人の背中を見つめて、シュウはまた妙な気持ちに捉われていた。
自分でも、いまだにこの気持ちの正体はよくわからない。ただ分かるのは、いつもそれが何かしらレドに関わっているということだ。
そんなもやもやした気持ちを振り払うように、シュウは二、三度頭を振って、渡された兜を被ると、マントを体に巻きつけた。
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