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第一部 トロイヤード編 第六章 失踪
10 ノイン(2)
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「まっ、兄貴っつっても血はつながってねえんだけどな。あいつが三歳ぐらいの時からずーっと一緒に育ってんのよ。昔は可愛かったんだけどね~、あいつも。一体なんだって、あんなクソかわいくねー野郎に育っちまいやがったもんだか──」
(……ん?)
なんだか、どこかで聞いたような話だ。
レドには幼い頃から兄弟同然に育ってきた青年がいるとか、いないとか。
(あれは、どこで聞いたんだっけ……?)
確か、千騎長をやっていて──
「あっ……!」とうとうシュウは思い出した。「もしかして、あのっ……。ゴ、ゴルザス将軍閣下の──?」
「あれ、知ってたんだ?」
ノインはさして嬉しくもなさそうに言った。
「そうそう、俺がその『ゴルザス大将軍閣下』サマの不肖の息子、ノインティウス=デュメントス=ゴルザスでございますよ~、シュウちゃん」
言って呆気にとられているシュウに向かい、おどけた簡易の礼をする。
「一応、千騎長もやっておりま~す。以後、よろしくお見知りおきのほどを、ねっ?」
◇
それからまもなく。
「ラギ様! ご無事でなによりです」
二人の騎馬兵を連れて現れたタルカスは、不自由な足で大儀そうに馬を降りると、瞳の奥に僅かな安堵の色を滲ませつつ、シュウに兵士の礼をした。簡易な軽鎧姿である。
タルカスの姿を認めて、シュウはもう立ち上がっている。
「タルカスさんっ……!」
「あ、いえ。『シュウ様』とお呼びすべきでしょうか」タルカスが、声を低めてそう尋ねた。
「いえっ……、そんなの、どっち……でも」
言いながら、シュウはもう、溢れてくる涙を止められなくなっていた。
タルカスの顔を見て、急に緊張の糸が切れてしまったようだ。巨躯の男も微かに喜びの色を見せたようだった。
「す、すみません……。みなさんに、こんな──」
あとの言葉は、涙に紛れてもう分からない。
(迷惑、かけちゃったんだ……)
そう思うと、余計に涙は止まらなくなった。
「そうだぜ~? シュウちゃん。このおっさんの指揮の下、今回は非番兵が二百騎ばかし駆り出されてんだ。とりあえず逃げるとかはやめといて、一旦『おうち』に帰らねえ? できればおっさんの顔、立ててやって欲しいんだけどなあ?」
軽い乗りだが、ノインはしっかり隣で釘を刺している。
「…………」
しかし、シュウもすぐに頷くことはできなかった。それだけ、覚悟をもって逃げてきたつもりだったから。
「ノイン。今、そのようなこと」
タルカスがシュウを気遣って口を挟んだ。ノインは気にせず続ける。
「俺の不肖の舎弟に困ってんなら、お兄さんがいくらでも相談のるぜ?」
しっかりウインクも飛んできた。
「だれが『舎弟』か。口を慎め、ノイン」見かねてタルカスがたしなめた。「それから、前から言おうと思っていたが」
「ほ?」
ノインがきょとんとタルカスを見た。
「自分は貴様と、五歳と年は離れていない」
「そうだっけ? こりゃまた失礼、『タルカス千騎長』どの」
ノインがおどけて敬礼し、随伴してきた兵士達も含め、その場の空気が笑声でほかりと和んだ。
(……ん?)
なんだか、どこかで聞いたような話だ。
レドには幼い頃から兄弟同然に育ってきた青年がいるとか、いないとか。
(あれは、どこで聞いたんだっけ……?)
確か、千騎長をやっていて──
「あっ……!」とうとうシュウは思い出した。「もしかして、あのっ……。ゴ、ゴルザス将軍閣下の──?」
「あれ、知ってたんだ?」
ノインはさして嬉しくもなさそうに言った。
「そうそう、俺がその『ゴルザス大将軍閣下』サマの不肖の息子、ノインティウス=デュメントス=ゴルザスでございますよ~、シュウちゃん」
言って呆気にとられているシュウに向かい、おどけた簡易の礼をする。
「一応、千騎長もやっておりま~す。以後、よろしくお見知りおきのほどを、ねっ?」
◇
それからまもなく。
「ラギ様! ご無事でなによりです」
二人の騎馬兵を連れて現れたタルカスは、不自由な足で大儀そうに馬を降りると、瞳の奥に僅かな安堵の色を滲ませつつ、シュウに兵士の礼をした。簡易な軽鎧姿である。
タルカスの姿を認めて、シュウはもう立ち上がっている。
「タルカスさんっ……!」
「あ、いえ。『シュウ様』とお呼びすべきでしょうか」タルカスが、声を低めてそう尋ねた。
「いえっ……、そんなの、どっち……でも」
言いながら、シュウはもう、溢れてくる涙を止められなくなっていた。
タルカスの顔を見て、急に緊張の糸が切れてしまったようだ。巨躯の男も微かに喜びの色を見せたようだった。
「す、すみません……。みなさんに、こんな──」
あとの言葉は、涙に紛れてもう分からない。
(迷惑、かけちゃったんだ……)
そう思うと、余計に涙は止まらなくなった。
「そうだぜ~? シュウちゃん。このおっさんの指揮の下、今回は非番兵が二百騎ばかし駆り出されてんだ。とりあえず逃げるとかはやめといて、一旦『おうち』に帰らねえ? できればおっさんの顔、立ててやって欲しいんだけどなあ?」
軽い乗りだが、ノインはしっかり隣で釘を刺している。
「…………」
しかし、シュウもすぐに頷くことはできなかった。それだけ、覚悟をもって逃げてきたつもりだったから。
「ノイン。今、そのようなこと」
タルカスがシュウを気遣って口を挟んだ。ノインは気にせず続ける。
「俺の不肖の舎弟に困ってんなら、お兄さんがいくらでも相談のるぜ?」
しっかりウインクも飛んできた。
「だれが『舎弟』か。口を慎め、ノイン」見かねてタルカスがたしなめた。「それから、前から言おうと思っていたが」
「ほ?」
ノインがきょとんとタルカスを見た。
「自分は貴様と、五歳と年は離れていない」
「そうだっけ? こりゃまた失礼、『タルカス千騎長』どの」
ノインがおどけて敬礼し、随伴してきた兵士達も含め、その場の空気が笑声でほかりと和んだ。
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