【改訂版】Two Moons~砂に咲く花~

るなかふぇ

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第一部 トロイヤード編 第七章 ふたつの月

1 再会(1)

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「んで? シュウちゃん、あいつとどこまで行ったのよ?」

 宿場町の小さな宿の一室でいきなりノインが尋ねた。質問の意味が分からず、シュウはしばらくきょとんとしていた。

「ど、どこまで……って??」

 あのあと、やはりシュウの体調が思わしくないため一晩ここで泊まることになった。他の兵士は捜索結果を報告するため王都に戻らせ、タルカスとノインだけが残った。
 空はすっかり暗くなり、双子の月が輝いている。

 シュウは安宿の木製の簡単な作りのベッドに入り、今は上体だけ起こしている。涙と土埃で汚れてしまった包帯はとっくに取り外していた。ノインはその脇に椅子を引き寄せ、逆向きで馬乗りになって座っている。タルカスは宿の主人と話をすると言い、先ほど席をはずしたばかりだ。

 宿で体を洗わせてもらって包帯を外したとき。タルカスもノインも、やっぱり一瞬凍りついた。特に、わかりにくくはあったけれどもタルカスの衝撃は大きかったようだ。だが今は二人とも普通の態度に戻ってくれている。ノインは昼間助けてくれた時に少しは見ているはずなのだが、それでもかなり驚いた様子だった。

 シュウは今まで包帯の件で嘘をついていたことを、タルカスに誠心誠意謝った。タルカスはただ黙って首を横に振っただけだった。そしてそれ以降も、態度はなにも変えないでいてくれている。そのことが、シュウにとって心からありがたかった。
 ここでようやく、シュウはノインの質問に対してどうにか正解かと思われる答えをひねり出した。

「あの……シンバの森ってとこには、一度──」
「うっわ~」

 ノインがぺちん! と自分の額を平手で叩いた。ほとんど反射のようだった。

「それ、マジよね? とぼけてんじゃないんだよね? 参るわ~、お兄さん」

 あははは、と棒読みのような笑い声を上げている。

「えっと……」
「あ~、いいからいいから」

 言いかけるのを遮るように、ノインは片手をひらひらさせた。

「んじゃ、もちっと具体的に聞きましょーかね?」

 笑いながら言うと、ノインはあらためてこちらを見つめた。もちろん笑いを大いに含んだ目で。

「シュウちゃんは、レドともう『ちゅー』ぐらいはしたのかな~?」
「…………!」


(なっ……?)

 一瞬でシュウの顔が真っ赤になった。ノインはへらへらと満面の笑みだ。
 絶句しているシュウを無視して、銀髪青年の質問は続く。

「ほほ~。んじゃ、『えっち』はどこまで行ったのかな~?」
「…………!!」

 全身の血液が逆流したのではないかと思った。

(い、いきなり何きいてるんだよ、この人は──!!)

「あ~、そうなの。ふーん」

 シュウの百面相を楽しげに観察して、ノインは納得したようだった。

「ノッ、ノノノ、ノインさん……!」シュウが真っ赤になって抗議する。が、
「いいよ~、大体わかったから。それにしてもあんた、死ぬほど分っかりやすいねー?」

 ノインは椅子を跨いだ姿勢のまま、背もたれに肘をついて楽しそうに笑っているばかりだ。

「意外だわ~。あいつ、そんな奥手な奴だっけか?」

 これは独り言のようだった。

「……!!!」

 あまりの恥ずかしさに耐えられず、シュウは掛け布を引き上げてすっぽり顔を隠してしまった。

 タルカスによれば、今回の捜索は飽くまでも「ラギ」を探すためのものだったという。一般の兵士には、「ラギ」がシュウであることは伏せられていたのだそうだ。
 しかし、目の前にいるこの銀髪・黒鎧の青年は、初めからシュウのことを本名で呼んだ。それがずっと不思議だったので、シュウは一度尋ねてみたが。
「ちょっと考えればわかるんじゃね?」の一言で済まされてしまった。
 この青年、言葉遣いや態度はまったく違うが、どこかがレドに似ているようだ。

 と突然、扉の外がにわかに騒がしくなった。ノインがぴくりと反応して鋭くそちらを窺う。まるで野生の獣さながらだ。さらに低いつぶやき。

「……もう来やがったか、あの野郎」

(え? なに……)

 とシュウが思う間もなく。
 バアン! と安宿の扉が開いた。

 ……そこに、魔王が立っていた。

「──!!」
 シュウは、絶句してレドを見つめた。
 瞬間、全身の血が、沸騰から凝固まで一気に急速冷凍されたようだった。
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