【改訂版】Two Moons~砂に咲く花~

るなかふぇ

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第一部 トロイヤード編 第七章 ふたつの月

2 再会(2)

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 鬼の形相とは、こういう顔を言うのだろうか。
 両眼はかっと見開かれ、その眼光たるや凄まじい圧力。見た者をそれだけで焼き殺さんばかりだ。その視線が、ぴたりとシュウに当てられている。
 全速力で馬を飛ばしてたった今ついたらしい。長めの黒髪は風に乱れ、紅いマントは土埃に塗れて、肩で荒く息をしている。

「へ……、陛、下……」

 シュウは、それだけ言うのがもうやっとだ。
 今まで、レドの本気の殺気をまともに浴びたことなど一度もない。全身が総毛立っている。震えが止まらない。今なら、蛇の目に射すくめられた鼠の気持ちが完璧に理解できる気がした。
 シュウにはもはや、掛け布を目の辺りまで引き上げて半分顔を隠し、がたがたと震える以外できることなど何もなかった。
 レドは無言のまま、一歩シュウに近づいた。
 二歩、三歩と次第にその歩度が早まってくる。

「……!」

 シュウが身の危険を感じた刹那、ノインが素早くレドの背後に回り込んだ。

「はーいはいはい。ちょ~っと一旦落ち着こうかあ? レドくーん?」

 言いながらレドの両腕に下から腕を回し、羽交い絞めの体勢になる。
 がっちりと押さえ込まれて、鬼神の如き形相のレドさえも動きが止まった。さすがは大剣使いの腕力である。
 その時、レドを後から追って来たらしいタルカスが、二人を迂回してシュウを守るかのように寝台の前に立ちはだかった。レドの憤怒の圧力をまともに受けてもものともしない。さすが百戦錬磨のもと千騎長というところか。
 タルカスが静かな声でレドに語りかけた。

「陛下。落ち着いてくださいませ」
「…………」
「シュウ様は、ご病人です。……どうか、手荒な真似だけは」

 だが、レドの握りしめた拳は動かない。よく見れば、びりびりと小刻みに震えている。タルカスは、いつもよりもさらに声を低めて言葉を続けた。

「ヴォダリウス閣下から重々言いつかっております。陛下が来られたら、こうお伝えせよと」

『シュウ殿のお話を、よくよく聞いて差し上げなされませ』──。

「陛下。……どうか」

 タルカスが頭を下げた。
 しばしの沈黙があった。
 そしてようやく、レドの拳が力を緩め、静かに下へおろされた。


 ◇


 半刻後。
 ノインとタルカスはシュウの部屋の扉の前で、二人の話が終わるのを待っていた。
 ノインは扉の左側に、頭の後ろで両手を組んで壁にもたれている。対するタルカスは扉の右側で、杖を突いての仁王立ちであった。

「なあ、おっさん」ノインが口を開く。
「その呼び方はやめろと言っている」

 が、銀髪の青年は人の話など柳に風だ。

「俺さあ。今日、初めて見たわ~。レドがだれか他人のことで、あそこまで本気で怒ったのをよ。……あんたもそうだろ?」
「『陛下』だ、ノイン」

 タルカスが律儀にたしなめた。
 ノインは背後の扉をちらりと見やった。

「実際、会ってみるまでは『どんなぺらっぺらのがレドをたぶらかしやがったんだ』な~んて思ってたけど──」

 じろりとタルカスがノインを睨んだ。「事と次第によっては許さんぞ」とその眼光が言っている。

「なかなかやるじゃん? シュウちゃんてば」

 にかっと笑って、ノインが言った。
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