【改訂版】Two Moons~砂に咲く花~

るなかふぇ

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第二部 エスペローサ編 第三章 過去

6 医務の間(2)

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 夕刻。
 「医務の間」での仕事が終了し、シュウは一旦自室に戻った。
 こちらの自室は「ラギ」のものとしてあらためて準備されたものだった。後宮ではなく、近いとはいえその外の区画に設けられている。ここで包帯等を解いて「シュウ」に戻ってから、あらためて後宮のシュウの自室に戻るようにとのナリウスからのお達しだった。城内のほかの者に不必要に「ラギ」の正体を知られないための策であるらしい。
 護衛の二人については顔の見えない兜が幸いして、そのままどちらの警護についてもよいことになっている。

 医療班長ドネルからは、「医務の間」から戻ったらすぐに入浴し、よく体を洗うようにと注意されている。シュウは早速入浴の準備をし、「シュウ」に戻ってから湯殿に向かった。
 道々、以前ならまるで幽鬼のように脇をすり抜けていった女官たちがシュウの姿を見て次々と会釈してくれた。相変わらず無言ではあるものの、醸し出す空気は以前よりも格段に温かくなっているのがわかる。

「あ、こんばんは……。こんばんは」そのたびに慌てて、あちこちに向かって挨拶を返す。
「ははっ、シュウ様、人気者だねえ!」背後でホッパーが面白そうに言った。
「いや、そんな──」思わず真っ赤になってしまった。

 実は午前中の勉強の後、アイリスの部屋で竪琴の「演奏会」をするようになってから、日を追うごとに聴きに来る女官たちが増えているようなのだ。そのせいか、シュウもかなり顔が広くなってしまったらしい。今では演奏時に部屋に人が入りきらなくなりつつある。

「いずれは場所を変えて、もっと大きな所で行なうことを考えなければいけませんわね!」と部屋の主であるアイリスもやる気満々なのだったが、シュウは正直困っている。これ以上この城の中で目立つことはやりたくなかった。そもそも、自分はこの城の虜囚なのである。そんな立場の人間が、竪琴を弾いて女官たちの「人気者」になって一体どうしようというのか。
 それに最近、なんとなくナリウスの機嫌が悪い。どうやらこのことをあまり快く思っていないらしいのだ。
 理由はなんとなく、分からないでもないのだが。


 ◇
 

「あのう……ナリウス様?」

 その夜。シュウは部屋を訪れたナリウスに聞いてみた。
 一通りその行為が終わって、今は寝台の中で抱き合ったままである。もちろんお互い一糸纏わぬ姿だ。シュウはナリウスの腕を枕にさせてもらっていた。

「ん?」

 ナリウスの手は、さらさらしたシュウの金色の髪を冷たい指先でもてあそんでいる。

 その後、ナリウスは三日にあげずシュウの部屋を訪れるようになっていた。
 とは言えさすがに毎晩ではシュウも体力的に厳しい。それで一応誠心誠意お願いしてみたところ、意外とすんなりと受け入れられた。結果、少なくとも一日おき位にはして貰えたのだった。
 シュウは心からほっとしている。初日があんな風だったので正直心配したのだが、それは杞憂に終わった。その辺りはやはり、ナリウスの大人の余裕であるらしかった。

(いや別に、陛下が子供っぽいってわけじゃ……ないんだけど)

 誰にともなく言い訳してしまう。
 考えてみれば、この城に連れてこられた当初はどうなることかと危ぶんだけれども、結果的にこの王自身からはそんなに酷い目に遭わされたことはない。幸いにして、基本的にナリウスは嗜虐趣味などのあるタイプではなかったのだ。
 もしも仮にそうだったなら今頃自分はどうなっていたのか。考えるだけでも空恐ろしかった。

「僕が、皆さんの前で竪琴を弾くの……嫌ですか?」
「…………」

 ナリウスの表情は変わらなかったが、その沈黙がすでに答えを出していた。

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