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クズ上司への制裁
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彼が話してくれた内容を元に告発状を作成し、これからの流れを頭に叩き込む。
そして、独自の情報網を駆使して、彼を苦しめていた安田の情報をかき集めた。
情報を集めていくうちに、安田がどうしてそんなにも社内で暴挙に及ぶことができたのかその理由がわかった。
実は安田は社長の姻族だったのだ。
娘婿の弟で社長との血縁関係にはないが、娘を溺愛している社長は娘夫婦に頼まれて安田を入社させていた。
安田は無理やり身体を奪った相手が会社に全てを話すと訴えた時も、自分は社長の身内だから訴えてもクビになるのはお前だと言って無理やり関係を持ち続けたようだ。
誰も社長の身内である安田の暴挙を会社に訴えることができず、社長がそのことを一切知らずにいたために被害が大きくなったと思われる。
誰かが勇気を出してくれさえいれば、彼が被害に遭うこともなかっただろうに……。
そう思うと腹立たしくて仕方がないが、弁護士である私がたらればの話をするわけにはいかない。
彼に手を出した罰として、そしてこれまでの被害者のためにもこの男を社会的に抹殺しなければな。
彼に、今までの安田とのやりとりを送ってもらい、それも全て証拠として告発状に添付した。
寝食も忘れて作業に没頭していると、思っていたよりも随分と早くユウさんから安田の結婚相手についての情報が届いた。
結婚話にも裏があるとは思っていたが、ここまでとは思っていなかった。
思わず目を背けたくなるほどの鬼畜の所業。
まさか結婚相手まで同じレイプ被害者だったとは……。
<このターゲットの男。近年稀に見る最悪の屑でしたよ。結婚相手以外の被害者の情報もたっぷりと集めておきましたので徹底的に懲らしめてやってください>
ユウさんからの短いメッセージには安田への怒りが感じられた。
私が初めて殺意を感じたように、ユウさんもまた安田に同じような思いを抱いたに違いない。
私の暁を傷つけた罰はしっかり受けてもらおうか。
ユウさんからの情報が届いたと先輩に送るとすぐに返事が返ってきた。
<ちょうど今、笹川コーポレーションの社長と一緒にいるんだが、小田切もこっちに来られないか?>
社長と直接話せるなんてこれ以上ない機会だ。
<すぐに行きます! 全ての資料も全部揃ってますから>
慌てて返事を送ると、先輩から店のURLと一緒に
<焦らなくていいから、気をつけてくるんだぞ>
とこちらを心配したようなメッセージが返ってきた。
先輩が味方で良かったと思いながら、私は急いで支度を済ませ車でその店に向かった。
先輩たちがいるという店は、ぱっと見どこが入り口だかもわからない細い路地の中ほどにあった。
案内がなければ絶対に見逃すだろう。
その店の入り口にある暗証番号式の鍵に送られてきたURLに書かれていた8桁の番号を入力すると、ようやく扉が開いた。
名前を告げることもなく全て個室になっているその店の奥へ案内され、部屋の中に入ると
「ああ、すぐにわかったか?」
と先輩から声をかけられた。
「はい。お店の情報をいただいていたので迷わずに済みました」
「それなら良かった。笹川社長、彼が今回極秘で情報を提供してくれる小田切弁護士です」
「初めまして。笹川社長。小田切と申します。この度はお時間を頂戴してありがとうございます」
名刺を差し出すと、彼は恐縮した様子で
「いえ、弊社の者が不始末を犯しまして申し訳ございません」
と頭を下げた。
だが、頭を下げるのはまだ早い。
もっと現実を知ってもらおうか。
「小田切、さっきの情報をすぐに出せるか?」
「はい。こちらです」
先輩は渡した資料をじっくりと読み込んでから、
「社長、これは本当に由々しき事態ですよ」
と険しい表情で社長を見た。
「このような事件を出してしまった以上、会社の存続はもうないと考えた方がいいでしょう。元々ベルンシュトルフ ホールディングスからも是正勧告を受けていましたよね? その最中にこのような不祥事。庇いきれませんよ」
「――っ、そ、んなに酷い内容なのですか?」
「酷いなんてものではありませんよ。安田清徳が婚約者だと言っている女性は、笹川コーポレーションにとって重要な取引先のお嬢さんです。その彼女を性暴力で無理やりに婚約者に仕立て上げてるんですよ。しかも、それ以外にも笹川の社内に安田が性暴力で脅している男性社員たちが数名いるんです。社長が動く前に彼女や彼らが被害届を出したらどうなるでしょうね? 会社が潰れるだけでなく、社長ももう表を歩くことはできなくなりますよ。たとえ、会社は無くなってもまだ真っ当に外を歩ける方がマシではないですか?」
「くっ――! わ、かりました。安慶名先生の仰る通りに致します」
笹川社長はそれからは平身低頭で私たちの話を聞きながら対策を立てた。
婚約者だとされている彼女の父親に重要な話があるから内々にあって欲しいと約束を取り付け、翌日早速笹川社長と安慶名先輩と共に彼女の自宅に向かった
彼女の父親は笹川社長だけでなく我々も一緒に訪問したことに驚いていたが、話を聞いてさらに驚愕の表情と共に怒りに震えていた。
部屋にいた娘を呼んでもらい話を聞くと最初こそ口を閉ざしていたが、先輩が、
「脅されて結婚などしてはあなたが不幸になるだけです。私たちはあなたがもう二度と安田に会わないで済むようにします。そして、罰も受けてもらいますから安心して全てを我々に話してください。このことはあなたのお兄さんも望んでいることなんですよ」
というと、彼女は身体を震わせ涙を流しながら安田とのやりとりを全て教えてくれた。
それを元に告訴状を作成し、彼女の望みを全て記載した。
こんなことで彼女の心と身体の傷が癒えるとは思わないが、それでも少し前進してもらえたらいい。
そう願うだけだ。
ユウさんの資料をもとに被害を受けていた社員の全てから告訴状を受け取ることができ、そこに彼の告発状も加えておいた。
これで彼が被害者というのは知られないはずだ。
彼女の分も含めた全ての告訴状を警察に提出し、尾行をお願いしていたユウさんに連絡をすると安田は今、自宅にいると教えてくれた。
隙をついて逃亡する恐れがあったため警察にも連絡を入れ、安慶名先輩と笹川社長と共に自宅に乗り込んだ。
我々だと扉を開けない恐れがあったため、笹川社長にインターフォンに出させると扉は簡単に開いた。
「社長、どうしたんですか? 突然尋ねてくるなんて珍しいですねー」
ニヤニヤとした表情で出てきたところを扉を大きく開き、三人で玄関に入り込んだ。
「安田清徳さんですね。笹川コーポーレーション顧問弁護士の安慶名と申します。こちらは同じく弁護士の小田切です。早速ですが、6名の被害者の方々からあなたに告訴状が出て、先ほど受理されました。証拠も十分に揃っていますので、あなたはすぐに逮捕されることになります」
「は、はぁ? いきなり、告訴とか逮捕とかなんだよ。ふざけんなっ! 一体何の話だよ!」
「詳しく説明しなくとも、あなたが全てお分かりでしょう? あなたが今までやってきたことが全て明るみになったんですよ」
「す、べて明るみに、って……何も、知らないぞ。何言ってるんだ? ってか、お前ら一弁護士とか、嘘ばっかりつきやがって! 今どきよくある詐欺だろう! 俺は騙されないからな!」
「この弁護士バッジが見えませんか?」
「ふん! そんなのどうせ偽物だろうが!」
先輩がジャケットの胸元につけているバッジを見せたが全く信じる気配がない。
というより、自分がやったことがバレてないと本当に信じているのだろう。
「今回の告訴状の中にはあなたが婚約者だと思っている杉山千鶴さんもいらっしゃいますよ」
「な、なんで、千鶴が……っ」
「あなたに睡眠薬を飲まされて無理やり身体を奪われ、結婚に承諾させられたと訴えていらっしゃいます」
「そんなのあいつが構って欲しくて嘘ついてるんだよ!」
「会社の男性陣にもかなり脅迫めいたものをなさっているようですね。田辺さんが仰ってましたよ。ホテルに誘われて無理やり襲われたと」
「田辺が? ははっ。綻びが出たな。田辺なんてあんな大男。俺が誘うわけないだろう!」
「そんなことはないでしょう? あなたのがあまりにも小さいから田辺さんの大きなモノで後ろを掘られるのがお好きなんだってはっきりと教えていただきましたから」
「なんだとっ! ふざけるな!! 俺のはお前らなんかも目じゃないくらいデカいんだよ! それでどれだけ喘がせてきたか知らないだろう? 井上も掛橋も森田も津山も、それに北原も俺が可愛がってやったんだ! みんな俺のでよがらせてやったんだよ!」
「そんな証拠どこにもないでしょう? こちらにはあるんですよ、あなたの小さなモノもはっきり映ってますよ」
「ふざけんな!! 俺のはデカいんだよ!! ほら、これ見てみろ!!」
そう言って、安田は激昂しながらポケットから自分のスマホを取り出し、中にある動画を流してみせた。
こいつは本当にバカだな。
「はい。証拠物件いただきますね」
「はっ?」
安田が茫然としている間に、奴のスマホはちょうどタイミングよくやってきた警察の手に渡った。
「ちょ――っ、待てよ! そんなの、俺のスマホ! 勝手に奪ったりしていいと思ってんのか?」
「証拠として提出いただいただけですから」
「お前、ふざけんなよ!」
怒りで興奮した安田が私に殴りかかってきたところを警察官に取り押さえられ、抵抗してそのまま公務執行妨害で逮捕された。
そのあとしばらくして、家宅捜索の令状を持ってきた警官と共に中に入り、安田が集めていた全ての動画、写真が押収された。
これで彼の動画も写真も世に出回ることはないだろう。
あれだけしっかりした証拠と数人の告訴状があるのだから、実刑は免れない。
安田が彼ともう二度と接触できないようにしておかないとな。
「安慶名先輩。今回は本当にありがとうございます」
トボトボと帰る笹川社長を見送りながら、私は先輩にお礼を言った。
「いや、実は小田切から話をもらう前に千鶴さんの件はもう動いていたんだ」
「えっ? どうしてですか?」
「話せば長くなるんだが……」
そう言って、先輩が教えてくれた話はあまりにも驚く内容だった。
暁の同期で今、L.Aに短期出張に行っている田辺さんが、お付き合いされている方がベルンシュトルフ ホールディングスのL.A支社の支社長で、千鶴さんの双子の兄なんだそうだ。
彼女は安田にレイプされ、無理やり結婚を迫られていることを兄に相談。
その兄から相談を受けた田辺さんが笹川コーポレーションの顧問弁護士である安慶名先輩に相談を持ちかけていて、すでに動いていたところ、私からも先輩に協力依頼があり、加害者が同じだということが判明したようだ。
「だから先輩がこんなにも尽力してくださったんですか?」
「ああ、君の方もそして彼女もすぐに助けてやりたかったからな」
「ありがとうございます」
「いや、頑張ったのは勇気を出して助けを求めた彼と彼女だよ」
「はい、本当にそうですね。近いうちにその田辺さんにもお礼を言いに行こうと思います」
「ああ、それがいい。その前に彼との仲を深めてからだな」
「はい。頑張ります」
暁は田辺さんが裏で動いていたことを知らないだろう。
自分が被害者なのを知られたくないと話していたから、どう言って話を進めるべきか……田辺さんと先に話をしてみるのもいいかもしれない。
「あの、安慶名先生。もしよかったら、私の連絡先を田辺さんに教えておいていただけませんか?」
「ああ、わかった。そうしよう」
これできっと彼から連絡が来るはずだ。
その日の夜、スマホにメッセージが届いた。
<田辺です。安慶名先生から連絡先を伺いました。もしよければ連絡をください>
簡潔ではあったが、わかりやすく書かれていたメッセージには電話番号が書かれていた。
すぐにその番号にかけると、彼はすぐに電話をとった。
ーもしもし。田辺です。
ー小田切と申します。この度はご連絡いただきありがとうございます。
ーいえ、こちらこそこの度は北原と千鶴さんの件でご尽力いただいたようでありがとうございます。
ーああ、安慶名先生からお聞きになりましたか?
ーはい。まさか、北原まで被害者だとは思っていなかったので愕然としましたが、あなたが北原に寄り添ってくださっていると聞いて安心しました。
ーあなたがずっと彼を守ってくださっていたのでしょう?
ーそのつもりでしたが、結局北原を傷つけてしまって……申し訳ないです。
ーいえ、あなたも一緒に奴の逮捕に動いてくださったおかげでこんなにも早く解決できました。本当にお礼を言いたくてご連絡したのですよ。
ーそれならよかったです。あの……今回の件で笹川コーポレーションはベルンシュトルフ ホールディングスに吸収合併されることになりました。
ーえっ? もう決まったんですか?
ーはい。それで、北原にはベルンシュトルフの本社で働いてもらおうと思っています。
ーあの、どうして田辺さんがそこまでご存知なんですか?
ーふふっ。あなたの調査には私のことまでは入ってませんでしたか?
ーと言いますと?
ー私、本当は日下部透也と言いまして、ベルンシュトルフ ホールディングスの次期社長なんです。笹川には内部調査のために正体を隠して入社していました。
ーああ、なるほど。そういうことだったんですね。
ー北原の働きぶりはずっと見てきていますので、問題はないです。それで、よければ、本社に行かせる前にいずれ一緒に働くであろう社員さんたちに顔合わせをしておきたいのですが、構いませんか?
ーえっ? ええ。それは暁のためなら構いませんよ。
ー私、次の三連休で一度L.Aに戻るんですよ。その時に北原を連れて行って顔合わせさせたいんですけど、それでもいいですか?
ーああ、そういうことですね。いいですよ、私もついていきますから。
ーふふっ。そういうと思いました。北原の方には明日伝えますから、その後小田切さんも一緒だと話をしてあげてください。喜びますよ。
ーあの、田辺さん、いえ、日下部さんはどこまでご存知なんですか?
ーああ、田辺で結構ですよ。あと、どこまで知っているか、でしたよね。いえ、全然知りませんけど、北原にここまでやってくださるのは弁護士の業務だけではないんじゃないかと思っただけです。そうなんですよね?
ーふふっ。やはり次期社長になる方は洞察力が違いますね。ええ、その通りです。私は暁を一生大切にします。
ーふふっ。それは本人に言ってやってください。きっと喜ぶと思いますよ。ずっとゲイだってことに苦しんでたみたいですから。
そういうと、田辺さんの電話は切れた。
暁がずっと苦しんできたなら、これから一生私が守ってやる。
私はそう心に誓った。
そして、独自の情報網を駆使して、彼を苦しめていた安田の情報をかき集めた。
情報を集めていくうちに、安田がどうしてそんなにも社内で暴挙に及ぶことができたのかその理由がわかった。
実は安田は社長の姻族だったのだ。
娘婿の弟で社長との血縁関係にはないが、娘を溺愛している社長は娘夫婦に頼まれて安田を入社させていた。
安田は無理やり身体を奪った相手が会社に全てを話すと訴えた時も、自分は社長の身内だから訴えてもクビになるのはお前だと言って無理やり関係を持ち続けたようだ。
誰も社長の身内である安田の暴挙を会社に訴えることができず、社長がそのことを一切知らずにいたために被害が大きくなったと思われる。
誰かが勇気を出してくれさえいれば、彼が被害に遭うこともなかっただろうに……。
そう思うと腹立たしくて仕方がないが、弁護士である私がたらればの話をするわけにはいかない。
彼に手を出した罰として、そしてこれまでの被害者のためにもこの男を社会的に抹殺しなければな。
彼に、今までの安田とのやりとりを送ってもらい、それも全て証拠として告発状に添付した。
寝食も忘れて作業に没頭していると、思っていたよりも随分と早くユウさんから安田の結婚相手についての情報が届いた。
結婚話にも裏があるとは思っていたが、ここまでとは思っていなかった。
思わず目を背けたくなるほどの鬼畜の所業。
まさか結婚相手まで同じレイプ被害者だったとは……。
<このターゲットの男。近年稀に見る最悪の屑でしたよ。結婚相手以外の被害者の情報もたっぷりと集めておきましたので徹底的に懲らしめてやってください>
ユウさんからの短いメッセージには安田への怒りが感じられた。
私が初めて殺意を感じたように、ユウさんもまた安田に同じような思いを抱いたに違いない。
私の暁を傷つけた罰はしっかり受けてもらおうか。
ユウさんからの情報が届いたと先輩に送るとすぐに返事が返ってきた。
<ちょうど今、笹川コーポレーションの社長と一緒にいるんだが、小田切もこっちに来られないか?>
社長と直接話せるなんてこれ以上ない機会だ。
<すぐに行きます! 全ての資料も全部揃ってますから>
慌てて返事を送ると、先輩から店のURLと一緒に
<焦らなくていいから、気をつけてくるんだぞ>
とこちらを心配したようなメッセージが返ってきた。
先輩が味方で良かったと思いながら、私は急いで支度を済ませ車でその店に向かった。
先輩たちがいるという店は、ぱっと見どこが入り口だかもわからない細い路地の中ほどにあった。
案内がなければ絶対に見逃すだろう。
その店の入り口にある暗証番号式の鍵に送られてきたURLに書かれていた8桁の番号を入力すると、ようやく扉が開いた。
名前を告げることもなく全て個室になっているその店の奥へ案内され、部屋の中に入ると
「ああ、すぐにわかったか?」
と先輩から声をかけられた。
「はい。お店の情報をいただいていたので迷わずに済みました」
「それなら良かった。笹川社長、彼が今回極秘で情報を提供してくれる小田切弁護士です」
「初めまして。笹川社長。小田切と申します。この度はお時間を頂戴してありがとうございます」
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「いえ、弊社の者が不始末を犯しまして申し訳ございません」
と頭を下げた。
だが、頭を下げるのはまだ早い。
もっと現実を知ってもらおうか。
「小田切、さっきの情報をすぐに出せるか?」
「はい。こちらです」
先輩は渡した資料をじっくりと読み込んでから、
「社長、これは本当に由々しき事態ですよ」
と険しい表情で社長を見た。
「このような事件を出してしまった以上、会社の存続はもうないと考えた方がいいでしょう。元々ベルンシュトルフ ホールディングスからも是正勧告を受けていましたよね? その最中にこのような不祥事。庇いきれませんよ」
「――っ、そ、んなに酷い内容なのですか?」
「酷いなんてものではありませんよ。安田清徳が婚約者だと言っている女性は、笹川コーポレーションにとって重要な取引先のお嬢さんです。その彼女を性暴力で無理やりに婚約者に仕立て上げてるんですよ。しかも、それ以外にも笹川の社内に安田が性暴力で脅している男性社員たちが数名いるんです。社長が動く前に彼女や彼らが被害届を出したらどうなるでしょうね? 会社が潰れるだけでなく、社長ももう表を歩くことはできなくなりますよ。たとえ、会社は無くなってもまだ真っ当に外を歩ける方がマシではないですか?」
「くっ――! わ、かりました。安慶名先生の仰る通りに致します」
笹川社長はそれからは平身低頭で私たちの話を聞きながら対策を立てた。
婚約者だとされている彼女の父親に重要な話があるから内々にあって欲しいと約束を取り付け、翌日早速笹川社長と安慶名先輩と共に彼女の自宅に向かった
彼女の父親は笹川社長だけでなく我々も一緒に訪問したことに驚いていたが、話を聞いてさらに驚愕の表情と共に怒りに震えていた。
部屋にいた娘を呼んでもらい話を聞くと最初こそ口を閉ざしていたが、先輩が、
「脅されて結婚などしてはあなたが不幸になるだけです。私たちはあなたがもう二度と安田に会わないで済むようにします。そして、罰も受けてもらいますから安心して全てを我々に話してください。このことはあなたのお兄さんも望んでいることなんですよ」
というと、彼女は身体を震わせ涙を流しながら安田とのやりとりを全て教えてくれた。
それを元に告訴状を作成し、彼女の望みを全て記載した。
こんなことで彼女の心と身体の傷が癒えるとは思わないが、それでも少し前進してもらえたらいい。
そう願うだけだ。
ユウさんの資料をもとに被害を受けていた社員の全てから告訴状を受け取ることができ、そこに彼の告発状も加えておいた。
これで彼が被害者というのは知られないはずだ。
彼女の分も含めた全ての告訴状を警察に提出し、尾行をお願いしていたユウさんに連絡をすると安田は今、自宅にいると教えてくれた。
隙をついて逃亡する恐れがあったため警察にも連絡を入れ、安慶名先輩と笹川社長と共に自宅に乗り込んだ。
我々だと扉を開けない恐れがあったため、笹川社長にインターフォンに出させると扉は簡単に開いた。
「社長、どうしたんですか? 突然尋ねてくるなんて珍しいですねー」
ニヤニヤとした表情で出てきたところを扉を大きく開き、三人で玄関に入り込んだ。
「安田清徳さんですね。笹川コーポーレーション顧問弁護士の安慶名と申します。こちらは同じく弁護士の小田切です。早速ですが、6名の被害者の方々からあなたに告訴状が出て、先ほど受理されました。証拠も十分に揃っていますので、あなたはすぐに逮捕されることになります」
「は、はぁ? いきなり、告訴とか逮捕とかなんだよ。ふざけんなっ! 一体何の話だよ!」
「詳しく説明しなくとも、あなたが全てお分かりでしょう? あなたが今までやってきたことが全て明るみになったんですよ」
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「この弁護士バッジが見えませんか?」
「ふん! そんなのどうせ偽物だろうが!」
先輩がジャケットの胸元につけているバッジを見せたが全く信じる気配がない。
というより、自分がやったことがバレてないと本当に信じているのだろう。
「今回の告訴状の中にはあなたが婚約者だと思っている杉山千鶴さんもいらっしゃいますよ」
「な、なんで、千鶴が……っ」
「あなたに睡眠薬を飲まされて無理やり身体を奪われ、結婚に承諾させられたと訴えていらっしゃいます」
「そんなのあいつが構って欲しくて嘘ついてるんだよ!」
「会社の男性陣にもかなり脅迫めいたものをなさっているようですね。田辺さんが仰ってましたよ。ホテルに誘われて無理やり襲われたと」
「田辺が? ははっ。綻びが出たな。田辺なんてあんな大男。俺が誘うわけないだろう!」
「そんなことはないでしょう? あなたのがあまりにも小さいから田辺さんの大きなモノで後ろを掘られるのがお好きなんだってはっきりと教えていただきましたから」
「なんだとっ! ふざけるな!! 俺のはお前らなんかも目じゃないくらいデカいんだよ! それでどれだけ喘がせてきたか知らないだろう? 井上も掛橋も森田も津山も、それに北原も俺が可愛がってやったんだ! みんな俺のでよがらせてやったんだよ!」
「そんな証拠どこにもないでしょう? こちらにはあるんですよ、あなたの小さなモノもはっきり映ってますよ」
「ふざけんな!! 俺のはデカいんだよ!! ほら、これ見てみろ!!」
そう言って、安田は激昂しながらポケットから自分のスマホを取り出し、中にある動画を流してみせた。
こいつは本当にバカだな。
「はい。証拠物件いただきますね」
「はっ?」
安田が茫然としている間に、奴のスマホはちょうどタイミングよくやってきた警察の手に渡った。
「ちょ――っ、待てよ! そんなの、俺のスマホ! 勝手に奪ったりしていいと思ってんのか?」
「証拠として提出いただいただけですから」
「お前、ふざけんなよ!」
怒りで興奮した安田が私に殴りかかってきたところを警察官に取り押さえられ、抵抗してそのまま公務執行妨害で逮捕された。
そのあとしばらくして、家宅捜索の令状を持ってきた警官と共に中に入り、安田が集めていた全ての動画、写真が押収された。
これで彼の動画も写真も世に出回ることはないだろう。
あれだけしっかりした証拠と数人の告訴状があるのだから、実刑は免れない。
安田が彼ともう二度と接触できないようにしておかないとな。
「安慶名先輩。今回は本当にありがとうございます」
トボトボと帰る笹川社長を見送りながら、私は先輩にお礼を言った。
「いや、実は小田切から話をもらう前に千鶴さんの件はもう動いていたんだ」
「えっ? どうしてですか?」
「話せば長くなるんだが……」
そう言って、先輩が教えてくれた話はあまりにも驚く内容だった。
暁の同期で今、L.Aに短期出張に行っている田辺さんが、お付き合いされている方がベルンシュトルフ ホールディングスのL.A支社の支社長で、千鶴さんの双子の兄なんだそうだ。
彼女は安田にレイプされ、無理やり結婚を迫られていることを兄に相談。
その兄から相談を受けた田辺さんが笹川コーポレーションの顧問弁護士である安慶名先輩に相談を持ちかけていて、すでに動いていたところ、私からも先輩に協力依頼があり、加害者が同じだということが判明したようだ。
「だから先輩がこんなにも尽力してくださったんですか?」
「ああ、君の方もそして彼女もすぐに助けてやりたかったからな」
「ありがとうございます」
「いや、頑張ったのは勇気を出して助けを求めた彼と彼女だよ」
「はい、本当にそうですね。近いうちにその田辺さんにもお礼を言いに行こうと思います」
「ああ、それがいい。その前に彼との仲を深めてからだな」
「はい。頑張ります」
暁は田辺さんが裏で動いていたことを知らないだろう。
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ーもしもし。田辺です。
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ーいえ、こちらこそこの度は北原と千鶴さんの件でご尽力いただいたようでありがとうございます。
ーああ、安慶名先生からお聞きになりましたか?
ーはい。まさか、北原まで被害者だとは思っていなかったので愕然としましたが、あなたが北原に寄り添ってくださっていると聞いて安心しました。
ーあなたがずっと彼を守ってくださっていたのでしょう?
ーそのつもりでしたが、結局北原を傷つけてしまって……申し訳ないです。
ーいえ、あなたも一緒に奴の逮捕に動いてくださったおかげでこんなにも早く解決できました。本当にお礼を言いたくてご連絡したのですよ。
ーそれならよかったです。あの……今回の件で笹川コーポレーションはベルンシュトルフ ホールディングスに吸収合併されることになりました。
ーえっ? もう決まったんですか?
ーはい。それで、北原にはベルンシュトルフの本社で働いてもらおうと思っています。
ーあの、どうして田辺さんがそこまでご存知なんですか?
ーふふっ。あなたの調査には私のことまでは入ってませんでしたか?
ーと言いますと?
ー私、本当は日下部透也と言いまして、ベルンシュトルフ ホールディングスの次期社長なんです。笹川には内部調査のために正体を隠して入社していました。
ーああ、なるほど。そういうことだったんですね。
ー北原の働きぶりはずっと見てきていますので、問題はないです。それで、よければ、本社に行かせる前にいずれ一緒に働くであろう社員さんたちに顔合わせをしておきたいのですが、構いませんか?
ーえっ? ええ。それは暁のためなら構いませんよ。
ー私、次の三連休で一度L.Aに戻るんですよ。その時に北原を連れて行って顔合わせさせたいんですけど、それでもいいですか?
ーああ、そういうことですね。いいですよ、私もついていきますから。
ーふふっ。そういうと思いました。北原の方には明日伝えますから、その後小田切さんも一緒だと話をしてあげてください。喜びますよ。
ーあの、田辺さん、いえ、日下部さんはどこまでご存知なんですか?
ーああ、田辺で結構ですよ。あと、どこまで知っているか、でしたよね。いえ、全然知りませんけど、北原にここまでやってくださるのは弁護士の業務だけではないんじゃないかと思っただけです。そうなんですよね?
ーふふっ。やはり次期社長になる方は洞察力が違いますね。ええ、その通りです。私は暁を一生大切にします。
ーふふっ。それは本人に言ってやってください。きっと喜ぶと思いますよ。ずっとゲイだってことに苦しんでたみたいですから。
そういうと、田辺さんの電話は切れた。
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私はそう心に誓った。
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国境に壁を築きモンスターの侵入を防ぎ、結界を張り国内にいるモンスターは弱体化させ、雨を降らせ大地を潤し、土地を豊かにし豊作をもたらし、人間の体を強化し、生活が便利になるように魔法の力を授けた、竜神ウィルペアトが消えた。
人々は三カ月前に冤罪を着せ、|罵詈雑言《ばりぞうごん》を浴びせ、石を投げつけ投獄した少女が、本物の【竜の愛し子】だと分かり|戦慄《せんりつ》した。
「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」
アルファポリスに先行投稿しています。
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
2021/12/13、HOTランキング3位、12/14総合ランキング4位、恋愛3位に入りました! ありがとうございます!
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。
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