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もうすぐ出発
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駐車場に車を止め、トランクから二人分の荷物が入ったキャリーケースを下ろす。
一週間近くの旅行だが、中身はほぼ着替えだけ。
尚孝さんのために揃えているトイレタリー商品もスキンケアグッズも全て宿泊所に揃っているからこちらから持っていく必要はない。あとは現地調達でもなんとかなるものばかりだ。
尚孝さんに運ばせないで済むように一つのキャリーケースに纏められてよかった。
駐車場から空港に移動する。
会長と一花さんをご自宅に送り届けて空港に到着するのは十時半の予定だったが、尚孝さんとタクシーに乗って帰ってきたため大幅に短縮できたおかげで、まだ十時にもなっていない。
十二時十五分出発の便だったから少し慌ただしくさせてしまうかと心配していたが、のんびりと過ごせそうだ。
出国カウンターで手続きを行い、荷物を預けると身軽になる。
セキュリティチェック、税関審査、そして出国審査を終えれば、もうあとは飛行機に乗るだけだ。
ファーストクラス専用ラウンジの、特別な個室で二人っきりで飲み物を飲みながら機内に入るのを待つ。
隣に座る尚孝さんは、先ほどまでひどく緊張した表情を見せていた。
「尚孝さん、大丈夫でしたか?」
私は会長のお供で海外に行く機会も多かったが、大学を卒業してずっと理学療法士として病院勤めだった尚孝さんはあまり海外に行く機会もなかっただろう。
「はい。海外に行くのは大学の卒業旅行以来なので緊張しましたけど、なんとかできました」
えっ、卒業旅行で海外に……。それは調べてなかったな。
英語が話せる尚孝さんだから語学の心配はしていないが、尚孝さんの出身大学は桜守。
卒業旅行だからといって、海外に行かせるような家庭が多いとは思えない。
とはいえ、保護者同伴で行ったとも思えないが、まさか一人旅行ではないだろうな?
「卒業旅行、誰と行かれたんですか?」
追及していると思われないように、できるだけ優しく尋ねてみる。
「伊月くんです。美味しいものをいっぱい食べたいって計画して、本場のイタリア料理を食べに行こうってことになって」
「イタリア? 二人で?」
思わぬ場所に驚きの声が出た。二人でイタリアなんて行って無事で帰って来られるはずがない。
「最初はそのつもりだったんですけど、二人だとやっぱりちょっと不安で……それで、甲斐さんも一緒についてきてくれたんです」
その言葉にホッとした。
そうだろうな、あの甲斐先輩があれほど溺愛している彼を自分の目の届かない場所にいかせるわけがない。
多分、この卒業旅行のことを私に話さなかったのは、きっと私が嫉妬すると思ったからだろう。
確かに尚孝さんとの旅行を甲斐先輩が先に行っていると思うと嫉妬しないわけではないが、まだ出会う前のことだ。
それに甲斐先輩がついていてくれたから尚孝さんが卒業旅行を楽しめて、無事に帰って来られたのだと思えば感謝しかない。それにあくまでも甲斐先輩は彼に付き添って、保護者としてついて行ったわけで尚孝さんの恋人として旅行したわけでもない。
だから、尚孝さんにとって恋人との旅行は正真正銘私が初めてということに変わりはない。
それなら嫉妬しない器が大きいところを見せておこう。
「イタリア、楽しかったですか?」
「はい。なんだか常に食べていた気がします。ジェラートもすごく美味しくて……それに、伊月くんが食べるたびに美味しい! って感動してくれるのが嬉しくて……その顔が見たくて食べ歩きばかりしてました」
「それは楽しそうですね。それじゃあ今度は私ともイタリアに行ってみましょうか」
卒業旅行の記憶を上書きしたいわけではないが、私ともイタリアの思い出を作っておきたい。
嫉妬しないと言ったばかりだが、やはり少し嫉妬しているようだな。
「わぁ! 唯人さんとイタリア行きたいです!」
「これから毎年、二人で旅行に行きましょう。世界中のありとあらゆる美しい景色を見て、美味しいものを食べて喜ぶ尚孝さんの姿を私に見せてください」
「唯人さん……」
尚孝さんの全ては私のもの。
それは一生変わらない。
一週間近くの旅行だが、中身はほぼ着替えだけ。
尚孝さんのために揃えているトイレタリー商品もスキンケアグッズも全て宿泊所に揃っているからこちらから持っていく必要はない。あとは現地調達でもなんとかなるものばかりだ。
尚孝さんに運ばせないで済むように一つのキャリーケースに纏められてよかった。
駐車場から空港に移動する。
会長と一花さんをご自宅に送り届けて空港に到着するのは十時半の予定だったが、尚孝さんとタクシーに乗って帰ってきたため大幅に短縮できたおかげで、まだ十時にもなっていない。
十二時十五分出発の便だったから少し慌ただしくさせてしまうかと心配していたが、のんびりと過ごせそうだ。
出国カウンターで手続きを行い、荷物を預けると身軽になる。
セキュリティチェック、税関審査、そして出国審査を終えれば、もうあとは飛行機に乗るだけだ。
ファーストクラス専用ラウンジの、特別な個室で二人っきりで飲み物を飲みながら機内に入るのを待つ。
隣に座る尚孝さんは、先ほどまでひどく緊張した表情を見せていた。
「尚孝さん、大丈夫でしたか?」
私は会長のお供で海外に行く機会も多かったが、大学を卒業してずっと理学療法士として病院勤めだった尚孝さんはあまり海外に行く機会もなかっただろう。
「はい。海外に行くのは大学の卒業旅行以来なので緊張しましたけど、なんとかできました」
えっ、卒業旅行で海外に……。それは調べてなかったな。
英語が話せる尚孝さんだから語学の心配はしていないが、尚孝さんの出身大学は桜守。
卒業旅行だからといって、海外に行かせるような家庭が多いとは思えない。
とはいえ、保護者同伴で行ったとも思えないが、まさか一人旅行ではないだろうな?
「卒業旅行、誰と行かれたんですか?」
追及していると思われないように、できるだけ優しく尋ねてみる。
「伊月くんです。美味しいものをいっぱい食べたいって計画して、本場のイタリア料理を食べに行こうってことになって」
「イタリア? 二人で?」
思わぬ場所に驚きの声が出た。二人でイタリアなんて行って無事で帰って来られるはずがない。
「最初はそのつもりだったんですけど、二人だとやっぱりちょっと不安で……それで、甲斐さんも一緒についてきてくれたんです」
その言葉にホッとした。
そうだろうな、あの甲斐先輩があれほど溺愛している彼を自分の目の届かない場所にいかせるわけがない。
多分、この卒業旅行のことを私に話さなかったのは、きっと私が嫉妬すると思ったからだろう。
確かに尚孝さんとの旅行を甲斐先輩が先に行っていると思うと嫉妬しないわけではないが、まだ出会う前のことだ。
それに甲斐先輩がついていてくれたから尚孝さんが卒業旅行を楽しめて、無事に帰って来られたのだと思えば感謝しかない。それにあくまでも甲斐先輩は彼に付き添って、保護者としてついて行ったわけで尚孝さんの恋人として旅行したわけでもない。
だから、尚孝さんにとって恋人との旅行は正真正銘私が初めてということに変わりはない。
それなら嫉妬しない器が大きいところを見せておこう。
「イタリア、楽しかったですか?」
「はい。なんだか常に食べていた気がします。ジェラートもすごく美味しくて……それに、伊月くんが食べるたびに美味しい! って感動してくれるのが嬉しくて……その顔が見たくて食べ歩きばかりしてました」
「それは楽しそうですね。それじゃあ今度は私ともイタリアに行ってみましょうか」
卒業旅行の記憶を上書きしたいわけではないが、私ともイタリアの思い出を作っておきたい。
嫉妬しないと言ったばかりだが、やはり少し嫉妬しているようだな。
「わぁ! 唯人さんとイタリア行きたいです!」
「これから毎年、二人で旅行に行きましょう。世界中のありとあらゆる美しい景色を見て、美味しいものを食べて喜ぶ尚孝さんの姿を私に見せてください」
「唯人さん……」
尚孝さんの全ては私のもの。
それは一生変わらない。
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