35 / 75
二人の対面
しおりを挟む
いつもは尚孝さんと一緒に一花さんの部屋まで上がるけれど、今日は駐車場で待っていると会長がやってきた。尚孝さんと一緒でない朝はこういうものだ。
「おはようございます。会長」
「おはよう。今日は午後から頼む」
「はい。お任せください。一花さんのご様子はどうですか?」
「少し緊張しているようだが、母がついているから大丈夫だろう。朝食はちゃんと摂れていたよ」
「そうですか。それなら安心ですね」
そんな話をしながらも、会長も少し緊張している様子が窺える。まぁ、無理もない。
できるだけ重苦しい雰囲気にならないようにたわいもない話と、午前中に終わらせておかなければいけない仕事の話を織り交ぜながら、会社に向かった。
仕事が始まってからは忙しさに忙殺されて、あっという間に午後を迎えた。
会長室で軽く昼食を摂り、明日の仕事をまとめてから会長と共に一花さんの待つ貴船邸に戻った。
「会長、私は車の準備をしておきますので、一花さんをお連れください」
「わかった」
久しぶりのこの車の登場だが、一花さんを乗せる車だから会長が手入れを欠かさない。いつだって安心して乗せることができる。
すぐにでも出発できる状態にして、車を降りて待っていると会長が一花さんを抱きかかえてやってきた。一花さんが軽いとはいえ、片手で抱きかかえてもう片方の手にグリのお出かけ用のバッグを持つのはすごい。
すぐに会長からキャリーバッグを受け取り、会長が一花さんを後部座席のベッドに座らせた後で、すぐ近くにグリのキャリーバッグを固定して載せた。
一花さんと会長、そしてグリを乗せて私は磯山邸に向かって車を走らせた。
この時間はあまり混雑している様子もなく順調に到着し、磯山先生から伺っていた場所に車を止めると会長は一人で車を降りて行った。
普段は運転席にいる私が後部座席の様子を窺い知ることはできないことになっているが、今日の直純くんとの対面に限って運転席にあるモニターに後部座席の様子が映るように会長が整えていた。音声もボタンひとつで聞くことはできると会長からは伺っているけれど、それは何か特別なことが起こったときにしようと思っている。できるだけ二人だけの空間のままにしておいてあげたいというのが私の素直な気持ちだ。
そう思えるのは、尚孝さんが一花さんと直純くんの対面が絶対に成功すると言ってくれたからだろう。
直純くんが一人で車の中に入るのに、あまり大人が顔を出さないほうがいいだろうと思い、私は運転席の中で様子を見守った。モニターに後部座席の扉が開き直純くんが乗り込む様子が見えている。
無音だけれど、直純くんの緊張が私にも伝わってくるような気がした。
ほんの数段の階段をゆっくりと一歩ずつ上がっていくのを応援しながら見守っていると、上段まで上がり、奥に一歩足を進めた直純くんと一花さんが目を合わせたのが見えた。一花さんが笑顔で直純くんを見た瞬間、直純くんの姿が急に見えなくなった。
えっ?
一瞬驚いたものの、モニターの下の方に直純くんの頭だけが見える。
それが土下座だということに私は気づいた。どうしたらいいだろうか、ここは大人として私が声をかけるべきか……。
迷いながらもモニターを見続けていると、一花さんのすぐ近くから何かが直純くんに飛び込んでいくのが見えた。
これは……グリ?
モニターカメラのアングルを変えると、下方に映っていた直純くんが正面に大きく見える。顔中を涙に濡らしながらもその表情は笑顔だ。
そうか、一花さんがグリを連れてきたのはこのためか。一花さんは最初から直純くんを許す気持ちしかなかったわけだな。本当に尚孝さんの言った通りだ。もう心配はいらないかな。
一応モニターはつけたままだけれど、私は自分のタブレットを取り出し尚孝さんの様子を見ることにした。
部屋中にカメラを取り付けているから、尚孝さんがどの部屋にいてもその様子を確認することができる。
さて、どこにいるだろう。けれど、探す間もなく尚孝さんの姿はすぐに見つかった。
寝室だ。
私が脱いでいった寝巻きを嬉しそうに抱きしめながら眠っているのが見える。
寂しいのに笑顔で私を送り出してくれた尚孝さん。ああ、もう本当にこの人には勝てないな。
「おはようございます。会長」
「おはよう。今日は午後から頼む」
「はい。お任せください。一花さんのご様子はどうですか?」
「少し緊張しているようだが、母がついているから大丈夫だろう。朝食はちゃんと摂れていたよ」
「そうですか。それなら安心ですね」
そんな話をしながらも、会長も少し緊張している様子が窺える。まぁ、無理もない。
できるだけ重苦しい雰囲気にならないようにたわいもない話と、午前中に終わらせておかなければいけない仕事の話を織り交ぜながら、会社に向かった。
仕事が始まってからは忙しさに忙殺されて、あっという間に午後を迎えた。
会長室で軽く昼食を摂り、明日の仕事をまとめてから会長と共に一花さんの待つ貴船邸に戻った。
「会長、私は車の準備をしておきますので、一花さんをお連れください」
「わかった」
久しぶりのこの車の登場だが、一花さんを乗せる車だから会長が手入れを欠かさない。いつだって安心して乗せることができる。
すぐにでも出発できる状態にして、車を降りて待っていると会長が一花さんを抱きかかえてやってきた。一花さんが軽いとはいえ、片手で抱きかかえてもう片方の手にグリのお出かけ用のバッグを持つのはすごい。
すぐに会長からキャリーバッグを受け取り、会長が一花さんを後部座席のベッドに座らせた後で、すぐ近くにグリのキャリーバッグを固定して載せた。
一花さんと会長、そしてグリを乗せて私は磯山邸に向かって車を走らせた。
この時間はあまり混雑している様子もなく順調に到着し、磯山先生から伺っていた場所に車を止めると会長は一人で車を降りて行った。
普段は運転席にいる私が後部座席の様子を窺い知ることはできないことになっているが、今日の直純くんとの対面に限って運転席にあるモニターに後部座席の様子が映るように会長が整えていた。音声もボタンひとつで聞くことはできると会長からは伺っているけれど、それは何か特別なことが起こったときにしようと思っている。できるだけ二人だけの空間のままにしておいてあげたいというのが私の素直な気持ちだ。
そう思えるのは、尚孝さんが一花さんと直純くんの対面が絶対に成功すると言ってくれたからだろう。
直純くんが一人で車の中に入るのに、あまり大人が顔を出さないほうがいいだろうと思い、私は運転席の中で様子を見守った。モニターに後部座席の扉が開き直純くんが乗り込む様子が見えている。
無音だけれど、直純くんの緊張が私にも伝わってくるような気がした。
ほんの数段の階段をゆっくりと一歩ずつ上がっていくのを応援しながら見守っていると、上段まで上がり、奥に一歩足を進めた直純くんと一花さんが目を合わせたのが見えた。一花さんが笑顔で直純くんを見た瞬間、直純くんの姿が急に見えなくなった。
えっ?
一瞬驚いたものの、モニターの下の方に直純くんの頭だけが見える。
それが土下座だということに私は気づいた。どうしたらいいだろうか、ここは大人として私が声をかけるべきか……。
迷いながらもモニターを見続けていると、一花さんのすぐ近くから何かが直純くんに飛び込んでいくのが見えた。
これは……グリ?
モニターカメラのアングルを変えると、下方に映っていた直純くんが正面に大きく見える。顔中を涙に濡らしながらもその表情は笑顔だ。
そうか、一花さんがグリを連れてきたのはこのためか。一花さんは最初から直純くんを許す気持ちしかなかったわけだな。本当に尚孝さんの言った通りだ。もう心配はいらないかな。
一応モニターはつけたままだけれど、私は自分のタブレットを取り出し尚孝さんの様子を見ることにした。
部屋中にカメラを取り付けているから、尚孝さんがどの部屋にいてもその様子を確認することができる。
さて、どこにいるだろう。けれど、探す間もなく尚孝さんの姿はすぐに見つかった。
寝室だ。
私が脱いでいった寝巻きを嬉しそうに抱きしめながら眠っているのが見える。
寂しいのに笑顔で私を送り出してくれた尚孝さん。ああ、もう本当にこの人には勝てないな。
984
あなたにおすすめの小説
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。
しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。
友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。
『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。
取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。
彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
姉の代わりに舞踏会に行ったら呪われた第三王子の初恋を奪ってしまった
近井とお
BL
幼少期、ユーリは姉によく似ていることから彼女の代わりに社交の場に出席することが多々あった。ある舞踏会の夜、中庭に姿を眩ませたユーリに誰かがぶつかってくる。その正体は呪われていると噂の第三王子であったが、ぶつかられたことに腹を立てたユーリは強気に接し、ダンスを踊った後、彼を捜している気配を感じてからかいながら立ち去る。
それから数年後、第三王子は初恋の令嬢を探し始めたが、それはユーリに違いなく……。
初恋の相手を捜す第三王子×軽口令息
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる