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大役を終えて
「さぁ、ではみなさん。食事を用意していますので建物の方にご移動ください」
店主である天沢さんの呼びかけで参列者の皆さんが建物に移動する。
私たちはブーケのお礼も兼ねて会長と一花さんの元に向かった。
会長は私の顔を見るや否や、先ほどの一花さんのサプライズを知っていたのかと尋ねてきたが、もちろん私は何も知らない。
「今日この場で征哉さんを驚かせるのは尚孝さんと二人だけの秘密にしてたんです。ねぇ、尚孝さん」
いたずらっ子のような笑顔で一花さんが尚孝さんに声をかける。
尚孝さんは一仕事終えたような満足げな顔で頷いた。
「だから、ここしばらく気づかれるかもしれないと思って貴船さんに会うたびにドキドキしてました」
やっぱりな。
あの時身体を震わせていたのは、それを隠すためだったのだ。
会長もあの時のことを思い出したようで納得の表情を浮かべている。
会長のことだ、きっと尚孝さんからまだ怖がられていると密かに思っていたに違いない。
この事実を知ってホッとしていることだろう。
「尚孝さんは隠し事は苦手ですからね」
私の言葉に尚孝さんは大きく頷いた。隠し事の苦手な尚孝さんが今日まで必死に守り通したのも一花さんを思うが故のこと。尚孝さんと一花さんの絆の深さに少し嫉妬してしまうが、そこには恋愛の情など全くないのだから気にしないでいくとしよう。
尚孝さんはプロの理学療法士として全力を尽くし、一花さんは尚孝さんを信じてリハビリを続けた。
その結果が今日のサプライズになったのだから。
幸せそうな尚孝さんと一花さんの笑顔に私も幸せな気分になった。
「さぁ、じゃあ志摩くんと谷垣くんも食事に行ってくれ。私たちは後でそちらに向かうから」
「はい。それではお先に失礼致します」
私たちが向かう建物とは反対側へ一花さんを抱きかかえて歩いていく会長の姿を見送って、私たちは参列者の皆さんたちの方に向かう。
「一花くんたちは来ないんですか?」
「いえ、お色直しですよ」
「ああ! 白無垢の後は色打掛ですね。楽しみだな」
一花さんが着る色打掛はイリゼホテルの婚礼衣装の中でも最上級のものから、浅香さん自ら一花さんのために選ばれたもの。きっと一花さんにお似合いの素晴らしい衣装だろう。
尚孝さんも和服がとてもよく似合っているが、二人だけの挙式ではウェディングドレスを着てもらおう。
尚孝さんが白無垢と色打掛が着たいと言えば、それはまた日本で二人だけの挙式をするのもいい。
いや、日本なら今日のようにみんなに祝福されるのもいいな。
可愛らしい尚孝さんを独占したいが、同時に見せびらかしたいという気持ちもある。
私がこんなことを思うようになるなんて、尚孝さんと出会う前なら信じられないな。
食事が用意される部屋に向かうと、もうすでにいくつかの席が埋まって食事が始まっていた。
「尚孝さん、あちらに座りましょうか」
座敷だが掘り炬燵になっているから和服姿の尚孝さんでも楽に座れるだろう。
私たちが席に着くとすぐに食事が運ばれてくる。
「わぁー、すごく豪華ですね!」
先日こちらでいただいた時以上に豪華な蕎麦懐石に尚孝さんは目を輝かせている。
「蕎麦がきもありますね」
「私の分も食べていいですよ。尚孝さん、蕎麦がき好きでしょう?」
「嬉しいですけど、唯人さんと一緒に食べたいです」
ああ、もうそんな可愛いことを言ってくれる。
これが計算じゃないのだから困ったものだ。
「それじゃあ私の分を尚孝さんに食べてもらうので尚孝さんの分をください」
「ふふ、いいですよ。唯人さん、あーんしてください」
きっと今の尚孝さんには周りが見えていないのだろう。
いや、見えていたとしてもここにいる人たちはみんな伴侶や恋人たちとの食事を楽しんでいるから私たちがどうやって食べていても気にしたりしない。
尚孝さんに食べさせてもらった蕎麦がきは今まで食べた中で最高に美味しかった。
大満足のうちに食事を終えた頃、
「お待たせしました」
と言う会長の声が聞こえた。
尚孝さんとの食事に夢中になって、お色直しに行った会長と一花さんのことをすっかり忘れていたな。
会長の声に尚孝さんと二人で視線を向けるとそこには、桜の妖精と見紛うほど美しい桜色の色打掛を見に纏った一花さんの姿があった。
「わぁーっ!! 綺麗っ!!」
「とっても似合ってる!!」
「一花ちゃん、桜の妖精みたい!!」
「可愛い!!」
絢斗さんたちは隣に立つ会長には誰も目もくれず、一花さんを囲むように集まっていた。
「唯人さん、僕も行ってきますね!」
そう言うが早いが、尚孝さんも一花さんの方に駆け出して行った。
私はその後を追うように尚孝さんについて行った。
店主である天沢さんの呼びかけで参列者の皆さんが建物に移動する。
私たちはブーケのお礼も兼ねて会長と一花さんの元に向かった。
会長は私の顔を見るや否や、先ほどの一花さんのサプライズを知っていたのかと尋ねてきたが、もちろん私は何も知らない。
「今日この場で征哉さんを驚かせるのは尚孝さんと二人だけの秘密にしてたんです。ねぇ、尚孝さん」
いたずらっ子のような笑顔で一花さんが尚孝さんに声をかける。
尚孝さんは一仕事終えたような満足げな顔で頷いた。
「だから、ここしばらく気づかれるかもしれないと思って貴船さんに会うたびにドキドキしてました」
やっぱりな。
あの時身体を震わせていたのは、それを隠すためだったのだ。
会長もあの時のことを思い出したようで納得の表情を浮かべている。
会長のことだ、きっと尚孝さんからまだ怖がられていると密かに思っていたに違いない。
この事実を知ってホッとしていることだろう。
「尚孝さんは隠し事は苦手ですからね」
私の言葉に尚孝さんは大きく頷いた。隠し事の苦手な尚孝さんが今日まで必死に守り通したのも一花さんを思うが故のこと。尚孝さんと一花さんの絆の深さに少し嫉妬してしまうが、そこには恋愛の情など全くないのだから気にしないでいくとしよう。
尚孝さんはプロの理学療法士として全力を尽くし、一花さんは尚孝さんを信じてリハビリを続けた。
その結果が今日のサプライズになったのだから。
幸せそうな尚孝さんと一花さんの笑顔に私も幸せな気分になった。
「さぁ、じゃあ志摩くんと谷垣くんも食事に行ってくれ。私たちは後でそちらに向かうから」
「はい。それではお先に失礼致します」
私たちが向かう建物とは反対側へ一花さんを抱きかかえて歩いていく会長の姿を見送って、私たちは参列者の皆さんたちの方に向かう。
「一花くんたちは来ないんですか?」
「いえ、お色直しですよ」
「ああ! 白無垢の後は色打掛ですね。楽しみだな」
一花さんが着る色打掛はイリゼホテルの婚礼衣装の中でも最上級のものから、浅香さん自ら一花さんのために選ばれたもの。きっと一花さんにお似合いの素晴らしい衣装だろう。
尚孝さんも和服がとてもよく似合っているが、二人だけの挙式ではウェディングドレスを着てもらおう。
尚孝さんが白無垢と色打掛が着たいと言えば、それはまた日本で二人だけの挙式をするのもいい。
いや、日本なら今日のようにみんなに祝福されるのもいいな。
可愛らしい尚孝さんを独占したいが、同時に見せびらかしたいという気持ちもある。
私がこんなことを思うようになるなんて、尚孝さんと出会う前なら信じられないな。
食事が用意される部屋に向かうと、もうすでにいくつかの席が埋まって食事が始まっていた。
「尚孝さん、あちらに座りましょうか」
座敷だが掘り炬燵になっているから和服姿の尚孝さんでも楽に座れるだろう。
私たちが席に着くとすぐに食事が運ばれてくる。
「わぁー、すごく豪華ですね!」
先日こちらでいただいた時以上に豪華な蕎麦懐石に尚孝さんは目を輝かせている。
「蕎麦がきもありますね」
「私の分も食べていいですよ。尚孝さん、蕎麦がき好きでしょう?」
「嬉しいですけど、唯人さんと一緒に食べたいです」
ああ、もうそんな可愛いことを言ってくれる。
これが計算じゃないのだから困ったものだ。
「それじゃあ私の分を尚孝さんに食べてもらうので尚孝さんの分をください」
「ふふ、いいですよ。唯人さん、あーんしてください」
きっと今の尚孝さんには周りが見えていないのだろう。
いや、見えていたとしてもここにいる人たちはみんな伴侶や恋人たちとの食事を楽しんでいるから私たちがどうやって食べていても気にしたりしない。
尚孝さんに食べさせてもらった蕎麦がきは今まで食べた中で最高に美味しかった。
大満足のうちに食事を終えた頃、
「お待たせしました」
と言う会長の声が聞こえた。
尚孝さんとの食事に夢中になって、お色直しに行った会長と一花さんのことをすっかり忘れていたな。
会長の声に尚孝さんと二人で視線を向けるとそこには、桜の妖精と見紛うほど美しい桜色の色打掛を見に纏った一花さんの姿があった。
「わぁーっ!! 綺麗っ!!」
「とっても似合ってる!!」
「一花ちゃん、桜の妖精みたい!!」
「可愛い!!」
絢斗さんたちは隣に立つ会長には誰も目もくれず、一花さんを囲むように集まっていた。
「唯人さん、僕も行ってきますね!」
そう言うが早いが、尚孝さんも一花さんの方に駆け出して行った。
私はその後を追うように尚孝さんについて行った。
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