イケメンスパダリシリーズ オメガバース <凌也&理央編>

波木真帆

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凌也&理央編

Ωかβか  3

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<side理央>

「病院……じゃあ、あ、あの僕は……」

頭が全然回らない。あのままどうなってしまったのかわからない。
でもあの時感じた体調の悪さは今はどこにもない。

「大丈夫。落ち着いて。君がバス停で襲われそうになっていたのを私と友人の警察官が見かけて君を保護したんだ。そのまま私の病院に連れてきて、身元確認のために持ち物を確認したら私の病院への紹介状を見つけたというわけだ。だから、安心していいよ」

「そ、そうだ。僕……再検査が……」

僕はそのためにここまできたんだった。

「検査も大丈夫。君が寝ている間に済ませておいたよ。君は不確定βではない。Ωだよ」

「えっ……」

――君は、Ωだよ

その言葉が耳に届いた瞬間、目の前が真っ暗になった。
微かな希望が打ち砕かれた。
それじゃあ僕もあの子たちと同じようにαのおじさんの慰み者になるために連れて行かれるんだ……。
それだけは絶対に嫌だと思っていたのに……。
息ができないほど苦しい。

「これからΩとしてどうやって生活を――君っ!!」
「はぁっ、はぁっ」

大丈夫だと言いたいけれど、息ができない。苦しい。
どうしたらいいんだろう。
すると先生はさっと僕のベッドにやってきて僕を包み込みながら、背中を優しくさすってくれる。

「大丈夫だよ。ゆっくり息を吐くんだ。そして、ゆっくり息を吸ってごらん。焦らなくていいよ。ゆーっくり、ふーってしてごらん」

先生の穏やかな声に心が落ち着いていくのがわかる。
言われた通りにゆっくりと呼吸をしていると、だんだん息苦しさが消えていくのがわかった。

「落ち着いたね。良かった。でももう少しだけこのままでいようか」

「ごめん、なさい……」

「何も謝ることはないよ。私が不安にさせてしまったんだね。申し訳ない」

「うっ……うっ、ぐすっ……」

こんなにも大人に優しくされたことがないから、涙が止まらない。
すると先生はポケットからハンカチを取り出して、僕に渡してくれた。

「Ωと聞いて不安になったんだね。よければその不安を私に話してくれないか? 私は医者だから君の不安も全部無くしてあげられるよ」

不安が、なくなる?
先生に話したら、本当に?

でも、この先生は嘘はつかない気がする。

「あの、僕……『日華園』っていう施設で暮らしているんですけど、バース検査を受けてβだったらそのままそこで働くことになってるんです」

「そうなのか、それでΩだったら?」

「……お金持ちのαのおじさんに連れて行かれることになってます。だから僕……ううっ、ぐすっ……」

先生から渡されたハンカチで顔を押さえて涙を拭うけれど、次から次に溢れ出てきて、もうびしょびしょだ。

「――っ、なんてことだ。大丈夫、私がそんなことはさせないよ」

「えっ……」

そんなことはさせない?
どういうこと?

びっくりして先生の顔を見上げると、優しい笑顔が降ってくる。

「私の息子は優秀な弁護士なんだ。君をそこから救い出すと約束しよう」

「――っ!!」

そんなことが、できる?
でも、本当にできるなら……

「あ、あの僕以外にも子どもたちがいっぱいいるんです……それに今までの子たちも……」

『日華園』にはもうすぐバース検査を受ける子達もいっぱいいる。
それに今まで連れていかれたあの子たちも……

「そうか、ならその子たちも全員助け出すとしよう」

「ほ、本当に?」

「大丈夫、安心していいよ。もうすぐ私の息子もここにくるから……あっ、来たようだな。息子にも話を聞かせたいから入れてもいいかな? αだが、抑制剤は打っているから」

「は、はい」

先生が話している間にも部屋の外から急ぎ足の足音が聞こえてくる。
弁護士さんってどんな人だろう。
でも先生の息子さんなら優しい人に決まっている。

部屋の扉がノックされて先生がどうぞと声をかける。
少し扉が開いた瞬間、漂ってくる優しい匂いに思わず顔が綻んでしまう。

「あ、なんだかいい匂いがします」

「えっ?」

先生の驚く声が聞こえたと同時に、部屋の中に入ってきた人と目が合った。
その瞬間、さっきとは比べようもないほど一気に身体中の熱が上がり、身体の奥の僕も知らない場所がキュンと疼く。

「はぁっ、はぁっ、あつぃ、はぁっ」

なにこれ? 一体どうなっているの?

「凌也っ! 急いで扉を閉めろ!! 早くっ!!」

先生の大声に扉がさっと閉まったけれど、身体の熱は一向に冷める気配がない。

「くるしっ、はぁっ、はぁっ」

助けを求めるように先生に縋り付くと、ちくっとした痛みと共に僕は再び意識を失っていた。
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