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凌也&理央編
Ωかβか 5
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<side久嗣(凌也の父)>
冷静な表情の中に途轍もないほどの怒りを秘めた息子の姿を見送り、私は大きなため息をついた。
すぐ近くに運命のつがいがいるのに会うこともできない息子の心情を思えば、同じαとして同情してしまう。
それにしてもまさかバス停で保護したあの子が凌也の運命のつがいだったとは……。
だが、襲われる前に見つけられたのは幸いだったといえるだろう。
このまま病院に入院させてもいいが、夜が心配だ。
通常なら入院患者専門の看護師たちに任せるが、彼の世話は麗花に任せた方が凌也も安心だろう。
私はすぐに麗花に連絡を入れた。
ー久嗣さん。そろそろ帰ってくるのかしら?
私が元春と昼食を摂っている間、麗花は我が家で友人を呼びお茶会を開いていた。
帰る前には連絡をすると言っておいたからきっとその連絡と思ったのだろう。
ーいや、悪いんだが、これから患者を連れていく。うちの客間で面倒を見ることにするから、寝かせられるように準備をしておいてほしい。そして、その子の世話は麗花に頼みたい。
ー私が、お世話を?
Ω患者専門の看護師の資格を持つ麗花だが、資格を取ってすぐに私と結婚したため実際に働かせたことはない。
麗花には常に家にいてもらいたいという私の要望だった。
麗花はそのことに文句を言ったこともないし、家事も育児もしっかりとこなしてくれていた。
もちろん、生まれながらの希少αの息子の世話は私も率先して行っていたが、麗花の存在のおかげで凌也はあれほど健やかに成長してくれたと思っている。
麗花には一生患者の世話はさせないつもりだったが、凌也の夫、そして私たちの可愛い息子になる子の一大事とあれば、ここは麗花に頼みたい。
ー実はな、凌也の運命のつがいが見つかったんだ。
ーえっ、りょ、凌也の、つがいが……?
麗花のことだから大声を出して驚いて喜ぶと思っていた。
けれど、電話口からは茫然とした声の後、泣き声が聞こえてくるだけ。
ー麗花? 大丈夫か? 麗花?
もしかしたら愛しい息子を取られたとでも思っているのかもしれない。
麗花にしてみれば自分の分身ともいえる子が自分よりも大事な相手を見つけてしまったのだからショックだったのかも……もう少し配慮していうべきだったな。
自分の愚かさを感じながら必死に名前を呼び続けているとようやく麗花の声が聞こえた。
ーごめんなさい。凌也がやっと愛せる人に出会えたんだって思ったら嬉しくて声が出なかったの。
ーなんだ、そうだったのか。よかった。てっきり凌也に相手ができてショックを受けたのかと思ったよ。
ーそんなことあるはずないわ。今日だって茜音さんたちと早く可愛い息子とお買い物したいわって話してたの。
やっぱり麗花だな。でもあの子なら麗花の望むような可愛い子だ。きっと気にいるだろう。
そのためにも麗花の力が必要だ。
ー凌也の相手は麗花が喜ぶ可愛い子なんだが、まだ凌也に会わせられる状態じゃないんだ。
ーそれってどういうこと?
ー詳しいことは家に帰ってから話すが、しばらく療養が必要なんだ。その間のその子の世話を麗花に頼みたい。
ー療養……わかったわ。すぐに準備をしておくわね。あ、その子の着替えとかはどうしたらいいかしら?
ーそうだな。とりあえずは凌也の子どもの時の服で構わないだろう。そのあとは麗花が好きに選べばいい。
ーわぁー! 嬉しい! 可愛い息子の服が買えるなんて最高だわ!!
すっかりはしゃいだ様子の麗花にホッとしつつ電話を切った。
さて、そろそろあの子も目覚める頃だろう。
私はゆっくりと彼が眠る特別室に向かった。
<side理央>
今まで嗅いだことのない良い匂いと共に現れたあの人と目が合った瞬間、熱くて息苦しくて身体の奥のわからない場所が疼いて、でもなぜかたまらなく幸せでおかしくなりそうだった。
自分で自分がどうなっているのかわからなくて先生に助けを求めてから記憶がない。
「んっ、あれ……? ぼく、どうしたんだっけ?」
さっきまでの息苦しさが嘘のように落ち着いている。
だけど身体の奥の疼きはまだじんわりと残っているのがわかる。
「目が覚めたかな?」
その声にピクッと身体が震えたけれど、ぼくはその声の主を知っている。
「せんせぃ……あの、ぼく……」
「大丈夫。これからちゃんと説明するからね」
先生の優しい笑顔にホッとする。
やっぱりこの先生、いい人だな。
「さっき、この部屋に来た私の息子だが……どうやら、君の運命のつがいだったようだ」
「えっ……それって……」
――αとΩには運命のつがいという存在がいて、お互いその人だけを一生愛し続けるんだよ。
あのお姉ちゃんの言葉が甦る。
「ぼくを、あいしてくれるひと、ってこと?」
「そうだよ。運命のつがいと出会ったら、もうその人以外愛せなくなるんだ」
「ぼくが、せんせいのむすこさんの、うんめいの、つがい?」
僕みたいなのが優しい先生の息子さんの運命のつがいなんて……そんなのいいのかな?
弁護士さんなんてすごい人のつがいになって大丈夫?
不安になってしまった僕を見ながら先生はずっと笑顔のまま声をかけてくれた。
「私の息子と出会ってくれてありがとう。君のような可愛い息子ができて嬉しいよ」
「――っ!! ぼくが、むすこ……」
生まれた時から両親がいない僕に、初めて親ができたんだ……。
どうしよう……すごく嬉しい……。
冷静な表情の中に途轍もないほどの怒りを秘めた息子の姿を見送り、私は大きなため息をついた。
すぐ近くに運命のつがいがいるのに会うこともできない息子の心情を思えば、同じαとして同情してしまう。
それにしてもまさかバス停で保護したあの子が凌也の運命のつがいだったとは……。
だが、襲われる前に見つけられたのは幸いだったといえるだろう。
このまま病院に入院させてもいいが、夜が心配だ。
通常なら入院患者専門の看護師たちに任せるが、彼の世話は麗花に任せた方が凌也も安心だろう。
私はすぐに麗花に連絡を入れた。
ー久嗣さん。そろそろ帰ってくるのかしら?
私が元春と昼食を摂っている間、麗花は我が家で友人を呼びお茶会を開いていた。
帰る前には連絡をすると言っておいたからきっとその連絡と思ったのだろう。
ーいや、悪いんだが、これから患者を連れていく。うちの客間で面倒を見ることにするから、寝かせられるように準備をしておいてほしい。そして、その子の世話は麗花に頼みたい。
ー私が、お世話を?
Ω患者専門の看護師の資格を持つ麗花だが、資格を取ってすぐに私と結婚したため実際に働かせたことはない。
麗花には常に家にいてもらいたいという私の要望だった。
麗花はそのことに文句を言ったこともないし、家事も育児もしっかりとこなしてくれていた。
もちろん、生まれながらの希少αの息子の世話は私も率先して行っていたが、麗花の存在のおかげで凌也はあれほど健やかに成長してくれたと思っている。
麗花には一生患者の世話はさせないつもりだったが、凌也の夫、そして私たちの可愛い息子になる子の一大事とあれば、ここは麗花に頼みたい。
ー実はな、凌也の運命のつがいが見つかったんだ。
ーえっ、りょ、凌也の、つがいが……?
麗花のことだから大声を出して驚いて喜ぶと思っていた。
けれど、電話口からは茫然とした声の後、泣き声が聞こえてくるだけ。
ー麗花? 大丈夫か? 麗花?
もしかしたら愛しい息子を取られたとでも思っているのかもしれない。
麗花にしてみれば自分の分身ともいえる子が自分よりも大事な相手を見つけてしまったのだからショックだったのかも……もう少し配慮していうべきだったな。
自分の愚かさを感じながら必死に名前を呼び続けているとようやく麗花の声が聞こえた。
ーごめんなさい。凌也がやっと愛せる人に出会えたんだって思ったら嬉しくて声が出なかったの。
ーなんだ、そうだったのか。よかった。てっきり凌也に相手ができてショックを受けたのかと思ったよ。
ーそんなことあるはずないわ。今日だって茜音さんたちと早く可愛い息子とお買い物したいわって話してたの。
やっぱり麗花だな。でもあの子なら麗花の望むような可愛い子だ。きっと気にいるだろう。
そのためにも麗花の力が必要だ。
ー凌也の相手は麗花が喜ぶ可愛い子なんだが、まだ凌也に会わせられる状態じゃないんだ。
ーそれってどういうこと?
ー詳しいことは家に帰ってから話すが、しばらく療養が必要なんだ。その間のその子の世話を麗花に頼みたい。
ー療養……わかったわ。すぐに準備をしておくわね。あ、その子の着替えとかはどうしたらいいかしら?
ーそうだな。とりあえずは凌也の子どもの時の服で構わないだろう。そのあとは麗花が好きに選べばいい。
ーわぁー! 嬉しい! 可愛い息子の服が買えるなんて最高だわ!!
すっかりはしゃいだ様子の麗花にホッとしつつ電話を切った。
さて、そろそろあの子も目覚める頃だろう。
私はゆっくりと彼が眠る特別室に向かった。
<side理央>
今まで嗅いだことのない良い匂いと共に現れたあの人と目が合った瞬間、熱くて息苦しくて身体の奥のわからない場所が疼いて、でもなぜかたまらなく幸せでおかしくなりそうだった。
自分で自分がどうなっているのかわからなくて先生に助けを求めてから記憶がない。
「んっ、あれ……? ぼく、どうしたんだっけ?」
さっきまでの息苦しさが嘘のように落ち着いている。
だけど身体の奥の疼きはまだじんわりと残っているのがわかる。
「目が覚めたかな?」
その声にピクッと身体が震えたけれど、ぼくはその声の主を知っている。
「せんせぃ……あの、ぼく……」
「大丈夫。これからちゃんと説明するからね」
先生の優しい笑顔にホッとする。
やっぱりこの先生、いい人だな。
「さっき、この部屋に来た私の息子だが……どうやら、君の運命のつがいだったようだ」
「えっ……それって……」
――αとΩには運命のつがいという存在がいて、お互いその人だけを一生愛し続けるんだよ。
あのお姉ちゃんの言葉が甦る。
「ぼくを、あいしてくれるひと、ってこと?」
「そうだよ。運命のつがいと出会ったら、もうその人以外愛せなくなるんだ」
「ぼくが、せんせいのむすこさんの、うんめいの、つがい?」
僕みたいなのが優しい先生の息子さんの運命のつがいなんて……そんなのいいのかな?
弁護士さんなんてすごい人のつがいになって大丈夫?
不安になってしまった僕を見ながら先生はずっと笑顔のまま声をかけてくれた。
「私の息子と出会ってくれてありがとう。君のような可愛い息子ができて嬉しいよ」
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