虐待されていた天使を息子として迎え入れたらみんなが幸せになりました

波木真帆

文字の大きさ
100 / 117
番外編

私の可愛い子

しおりを挟む
<side卓>

――じゃあ! おっきなはなびらをドレスにしたらどうですか? あ、あと……なおくん。てんしだから、てんしのはねをせなかにつけたいなー!

直くんのドレスを選ぶとなった時、目を輝かせて溌剌とした声でそんな提案をした昇の言葉に我々大人たちは驚愕した。
これが子供ならではの柔軟な発想力とでもいうのだろうか。

その言葉にすぐに反応したのはやはりデザイナーの周平くんだった。

すぐに昇の元に駆け寄り、昇から意見を改めて聞く。
昇は突然周平くんに声をかけられて驚きつつも自分の意見を伝えていた。

その意見にインスピレーションを感じたのだろう。
昇の純粋な意見がデザイナー魂に火をつけたらしい。
あの周平くんが昇にこの上ない笑顔を向けていた。

「昇、いいこと考えるじゃないか。周平くんも征哉くんも驚いてたぞ」

私は昇に近づき頭を撫でる。
昇の意見のおかげで直くんの可愛いドレスができるのは実に嬉しい。

「あのひとって、すぐるおじちゃんのしりあい?」

少し怯えた声で尋ねてくるのは、きっと周平くんの顔が強面だからだろう。
彼はあの顔でいつも怖がられる。さっきも直くんに怖いと言われていたしな。

ふふ、あの時のショックを受けた顔は可哀想ながらもなんだか可愛く思えたな。
浅香くんがきっと慰めてくれるだろうから大丈夫だろう。

とりあえず昇には周平くんが怖い人ではないことを教えておくとしよう。

彼がここにあるドレスを作っている人だと教えるとかなり驚いていたが、さらに安慶名くんの友人だと伝えると一気に昇の表情が変わった。

昇はいつも優しい安慶名くんを気に入っているからな。
彼の名前を出したらあっという間に周平くんへの印象が変わったようだ。
それだけ安慶名くんに対しての昇の信頼感は厚い。

昇が安慶名くんを「伊織兄ちゃん」と呼んでいることを知ると周平くんは声をあげて笑った。

「君は伊織のことを伊織にーちゃんと呼んでるのか。それなら私のことも好きに呼んでくれて構わないよ。直くんからは可愛くちゅーへーちゃと呼ばれているしな」

直くんから可愛く呼びかけられたのがよほど嬉しかったのだろう。
周平くんにも可愛いところがあるものだ。

昇はそれを聞いて「周平兄ちゃん」と呼ぶことにしたようだ。

周平くんにも弟がいるから、その呼び名には懐かしく感じたかもしれないな。
あの涼平くんにもきっと昇のような時代があったことだろう。

「よし、じゃあみんなで可愛い直くんと一花くんのドレスを決めようか」

周平くんの呼びかけに昇はさっと近づいた。
すっかり気に入ったようだな。

さらさらとデザイン画を描いていく周平くんを見ると、あっという間に可愛らしいドレスが描かれていた。

「どうだ? こんな感じかな?」

周平くんが見せたのは、さっき昇が言っていた花びらのようなドレスと背中に天使の羽の絵。

それを見て昇は感嘆の声をあげた。

「色は何色がいい?」

「なおくんは、うすいいろがにあいそう。きいろとかみずいろとか、ピンクとか」

「なるほど」

その言葉にさっと色鉛筆で塗り込んでいく。
絵に魂が入る瞬間というのはこういうことを言うのだろう。

出来上がったデザイン画は実に可愛らしかった。

「じゃあこのイメージで作るとして、ドレスの丈感やバランスを見たいからここにあるドレスをいくつか試着してもらおうかな」

「このなかのどれでもいいのー?」

「ああ、構わない」

「じゃあ、おれ……なおくんにはこれがいいー!」

ぴょんと椅子から飛び降りて昇が指差したのは、淡い水色のレースとフリルが可愛いノースリーブのドレス。
直くんの可愛らしさが引き立ちそうだな。

「じゃあ、それを試着してもらおうか」

昇がドレスを選んでいる間に、征哉くんも一花くんが試着するドレスを決めたようだ。

「それじゃあ一花はこのドレスを」

征哉くんが選んだのは淡いピンク色の、ドレス部分が三重のレースでふんわりとした実に可愛らしいドレス。
なるほど、一花くんのイメージにぴったりだな。

「それじゃああちらの試着室で着替えてください」

浅香くんが案内してくれて、征哉くんと櫻葉さんが一花くんを連れて隣の試着室に入って行った。
私の直くんを連れて試着室に入ろうとすると、

「おれもいくー! なおくんのおきがえてつだうー!」

と昇が私の足にまとわりついてくる。
昇には直くんの着替えを見せたくないと思ってしまったのだが、

「のぼりゅ! いっちょ!」

直くんが嬉しそうに声をあげるから仕方がない。

「わかった、昇にも手伝ってもらうよ」

そう言って昇を連れて試着室に入った。

「昇、このドレスを持っていてくれ」

「わかったー!」

昇にドレスを持たせている間に、直くんの服を脱がせる。
この肌着なら着せておいてもドレスから見えることはないだろう。

昇にドレスのファスナーを開けて準備しておくようにいい、広げたドレスの中に直くんを入れた。

腕を通し、ファスナーを止めてやると大きな鏡に映った自分の姿を見て、直くんが目を丸くしているのが鏡越しに見えた。

「わぁー!」

昇も直くんのドレス姿に目を輝かせている。

私もじっくり正面から直くんを見たが、これほど可愛いと思ったのは絢斗以来だ。
本当に誰にも見せたくないと思ってしまうほど可愛い。

「ちゅぐぅちゃ……」

自分の姿にまだびっくりしている直くんが私の名前を呼ぶ。

「直くん、すごく可愛いよ」

そう声をかけると嬉しそうに私に抱きついてきた。
ああ、本当にこの子は可愛い子だ。


  *   *   *

いつも読んでいただきありがとうございます!
本編も楽しんでいただきつつIFのお話として始まったこのお話も今話でなんと100話!
びっくりですね。
ここまでみなさまに読んでいただけて嬉しいです。
まだまだお話は続いていきますので、これからも楽しんでいただけると嬉しいです♡
しおりを挟む
感想 237

あなたにおすすめの小説

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

恋人は配信者ですが一緒に居られる時間がないです!!

海野(サブ)
BL
一吾には大人気配信者グループの1人鈴と付き合っている。しかし恋人が人気配信者ゆえ忙しくて一緒に居る時間がなくて…

ヴァレンツィア家だけ、形勢が逆転している

狼蝶
BL
美醜逆転世界で”悪食伯爵”と呼ばれる男の話。

隣国のΩに婚約破棄をされたので、お望み通り侵略して差し上げよう。

下井理佐
BL
救いなし。序盤で受けが死にます。 大国の第一王子・αのジスランは、小国の第二王子・Ωのルシエルと幼い頃から許嫁の関係だった。 ただの政略結婚の相手であるとルシエルに興味を持たないジスランであったが、婚約発表の社交界前夜、ルシエルから婚約破棄するから受け入れてほしいと言われる。 理由を聞くジスランであったが、ルシエルはただ、 「必ず僕の国を滅ぼして」 それだけ言い、去っていった。 社交界当日、ルシエルは約束通り婚約破棄を皆の前で宣言する。

【完結】私の結婚支度金で借金を支払うそうですけど…?

まりぃべる
ファンタジー
私の両親は典型的貴族。見栄っ張り。 うちは伯爵領を賜っているけれど、借金がたまりにたまって…。その日暮らしていけるのが不思議な位。 私、マーガレットは、今年16歳。 この度、結婚の申し込みが舞い込みました。 私の結婚支度金でたまった借金を返すってウキウキしながら言うけれど…。 支度、はしなくてよろしいのでしょうか。 ☆世界観は、小説の中での世界観となっています。現実とは違う所もありますので、よろしくお願いします。

【完結済】「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

お前を愛することはないと言われたので、姑をハニトラに引っ掛けて婚家を内側から崩壊させます

碧井 汐桜香
ファンタジー
「お前を愛することはない」 そんな夫と 「そうよ! あなたなんか息子にふさわしくない!」 そんな義母のいる伯爵家に嫁いだケリナ。 嫁を大切にしない?ならば、内部から崩壊させて見せましょう

一日だけの魔法

うりぼう
BL
一日だけの魔法をかけた。 彼が自分を好きになってくれる魔法。 禁忌とされている、たった一日しか持たない魔法。 彼は魔法にかかり、自分に夢中になってくれた。 俺の名を呼び、俺に微笑みかけ、俺だけを好きだと言ってくれる。 嬉しいはずなのに、これを望んでいたはずなのに…… ※いきなり始まりいきなり終わる ※エセファンタジー ※エセ魔法 ※二重人格もどき ※細かいツッコミはなしで

処理中です...