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番外編
私の可愛い子
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<side卓>
――じゃあ! おっきなはなびらをドレスにしたらどうですか? あ、あと……なおくん。てんしだから、てんしのはねをせなかにつけたいなー!
直くんのドレスを選ぶとなった時、目を輝かせて溌剌とした声でそんな提案をした昇の言葉に我々大人たちは驚愕した。
これが子供ならではの柔軟な発想力とでもいうのだろうか。
その言葉にすぐに反応したのはやはりデザイナーの周平くんだった。
すぐに昇の元に駆け寄り、昇から意見を改めて聞く。
昇は突然周平くんに声をかけられて驚きつつも自分の意見を伝えていた。
その意見にインスピレーションを感じたのだろう。
昇の純粋な意見がデザイナー魂に火をつけたらしい。
あの周平くんが昇にこの上ない笑顔を向けていた。
「昇、いいこと考えるじゃないか。周平くんも征哉くんも驚いてたぞ」
私は昇に近づき頭を撫でる。
昇の意見のおかげで直くんの可愛いドレスができるのは実に嬉しい。
「あのひとって、すぐるおじちゃんのしりあい?」
少し怯えた声で尋ねてくるのは、きっと周平くんの顔が強面だからだろう。
彼はあの顔でいつも怖がられる。さっきも直くんに怖いと言われていたしな。
ふふ、あの時のショックを受けた顔は可哀想ながらもなんだか可愛く思えたな。
浅香くんがきっと慰めてくれるだろうから大丈夫だろう。
とりあえず昇には周平くんが怖い人ではないことを教えておくとしよう。
彼がここにあるドレスを作っている人だと教えるとかなり驚いていたが、さらに安慶名くんの友人だと伝えると一気に昇の表情が変わった。
昇はいつも優しい安慶名くんを気に入っているからな。
彼の名前を出したらあっという間に周平くんへの印象が変わったようだ。
それだけ安慶名くんに対しての昇の信頼感は厚い。
昇が安慶名くんを「伊織兄ちゃん」と呼んでいることを知ると周平くんは声をあげて笑った。
「君は伊織のことを伊織にーちゃんと呼んでるのか。それなら私のことも好きに呼んでくれて構わないよ。直くんからは可愛くちゅーへーちゃと呼ばれているしな」
直くんから可愛く呼びかけられたのがよほど嬉しかったのだろう。
周平くんにも可愛いところがあるものだ。
昇はそれを聞いて「周平兄ちゃん」と呼ぶことにしたようだ。
周平くんにも弟がいるから、その呼び名には懐かしく感じたかもしれないな。
あの涼平くんにもきっと昇のような時代があったことだろう。
「よし、じゃあみんなで可愛い直くんと一花くんのドレスを決めようか」
周平くんの呼びかけに昇はさっと近づいた。
すっかり気に入ったようだな。
さらさらとデザイン画を描いていく周平くんを見ると、あっという間に可愛らしいドレスが描かれていた。
「どうだ? こんな感じかな?」
周平くんが見せたのは、さっき昇が言っていた花びらのようなドレスと背中に天使の羽の絵。
それを見て昇は感嘆の声をあげた。
「色は何色がいい?」
「なおくんは、うすいいろがにあいそう。きいろとかみずいろとか、ピンクとか」
「なるほど」
その言葉にさっと色鉛筆で塗り込んでいく。
絵に魂が入る瞬間というのはこういうことを言うのだろう。
出来上がったデザイン画は実に可愛らしかった。
「じゃあこのイメージで作るとして、ドレスの丈感やバランスを見たいからここにあるドレスをいくつか試着してもらおうかな」
「このなかのどれでもいいのー?」
「ああ、構わない」
「じゃあ、おれ……なおくんにはこれがいいー!」
ぴょんと椅子から飛び降りて昇が指差したのは、淡い水色のレースとフリルが可愛いノースリーブのドレス。
直くんの可愛らしさが引き立ちそうだな。
「じゃあ、それを試着してもらおうか」
昇がドレスを選んでいる間に、征哉くんも一花くんが試着するドレスを決めたようだ。
「それじゃあ一花はこのドレスを」
征哉くんが選んだのは淡いピンク色の、ドレス部分が三重のレースでふんわりとした実に可愛らしいドレス。
なるほど、一花くんのイメージにぴったりだな。
「それじゃああちらの試着室で着替えてください」
浅香くんが案内してくれて、征哉くんと櫻葉さんが一花くんを連れて隣の試着室に入って行った。
私の直くんを連れて試着室に入ろうとすると、
「おれもいくー! なおくんのおきがえてつだうー!」
と昇が私の足にまとわりついてくる。
昇には直くんの着替えを見せたくないと思ってしまったのだが、
「のぼりゅ! いっちょ!」
直くんが嬉しそうに声をあげるから仕方がない。
「わかった、昇にも手伝ってもらうよ」
そう言って昇を連れて試着室に入った。
「昇、このドレスを持っていてくれ」
「わかったー!」
昇にドレスを持たせている間に、直くんの服を脱がせる。
この肌着なら着せておいてもドレスから見えることはないだろう。
昇にドレスのファスナーを開けて準備しておくようにいい、広げたドレスの中に直くんを入れた。
腕を通し、ファスナーを止めてやると大きな鏡に映った自分の姿を見て、直くんが目を丸くしているのが鏡越しに見えた。
「わぁー!」
昇も直くんのドレス姿に目を輝かせている。
私もじっくり正面から直くんを見たが、これほど可愛いと思ったのは絢斗以来だ。
本当に誰にも見せたくないと思ってしまうほど可愛い。
「ちゅぐぅちゃ……」
自分の姿にまだびっくりしている直くんが私の名前を呼ぶ。
「直くん、すごく可愛いよ」
そう声をかけると嬉しそうに私に抱きついてきた。
ああ、本当にこの子は可愛い子だ。
* * *
いつも読んでいただきありがとうございます!
本編も楽しんでいただきつつIFのお話として始まったこのお話も今話でなんと100話!
びっくりですね。
ここまでみなさまに読んでいただけて嬉しいです。
まだまだお話は続いていきますので、これからも楽しんでいただけると嬉しいです♡
――じゃあ! おっきなはなびらをドレスにしたらどうですか? あ、あと……なおくん。てんしだから、てんしのはねをせなかにつけたいなー!
直くんのドレスを選ぶとなった時、目を輝かせて溌剌とした声でそんな提案をした昇の言葉に我々大人たちは驚愕した。
これが子供ならではの柔軟な発想力とでもいうのだろうか。
その言葉にすぐに反応したのはやはりデザイナーの周平くんだった。
すぐに昇の元に駆け寄り、昇から意見を改めて聞く。
昇は突然周平くんに声をかけられて驚きつつも自分の意見を伝えていた。
その意見にインスピレーションを感じたのだろう。
昇の純粋な意見がデザイナー魂に火をつけたらしい。
あの周平くんが昇にこの上ない笑顔を向けていた。
「昇、いいこと考えるじゃないか。周平くんも征哉くんも驚いてたぞ」
私は昇に近づき頭を撫でる。
昇の意見のおかげで直くんの可愛いドレスができるのは実に嬉しい。
「あのひとって、すぐるおじちゃんのしりあい?」
少し怯えた声で尋ねてくるのは、きっと周平くんの顔が強面だからだろう。
彼はあの顔でいつも怖がられる。さっきも直くんに怖いと言われていたしな。
ふふ、あの時のショックを受けた顔は可哀想ながらもなんだか可愛く思えたな。
浅香くんがきっと慰めてくれるだろうから大丈夫だろう。
とりあえず昇には周平くんが怖い人ではないことを教えておくとしよう。
彼がここにあるドレスを作っている人だと教えるとかなり驚いていたが、さらに安慶名くんの友人だと伝えると一気に昇の表情が変わった。
昇はいつも優しい安慶名くんを気に入っているからな。
彼の名前を出したらあっという間に周平くんへの印象が変わったようだ。
それだけ安慶名くんに対しての昇の信頼感は厚い。
昇が安慶名くんを「伊織兄ちゃん」と呼んでいることを知ると周平くんは声をあげて笑った。
「君は伊織のことを伊織にーちゃんと呼んでるのか。それなら私のことも好きに呼んでくれて構わないよ。直くんからは可愛くちゅーへーちゃと呼ばれているしな」
直くんから可愛く呼びかけられたのがよほど嬉しかったのだろう。
周平くんにも可愛いところがあるものだ。
昇はそれを聞いて「周平兄ちゃん」と呼ぶことにしたようだ。
周平くんにも弟がいるから、その呼び名には懐かしく感じたかもしれないな。
あの涼平くんにもきっと昇のような時代があったことだろう。
「よし、じゃあみんなで可愛い直くんと一花くんのドレスを決めようか」
周平くんの呼びかけに昇はさっと近づいた。
すっかり気に入ったようだな。
さらさらとデザイン画を描いていく周平くんを見ると、あっという間に可愛らしいドレスが描かれていた。
「どうだ? こんな感じかな?」
周平くんが見せたのは、さっき昇が言っていた花びらのようなドレスと背中に天使の羽の絵。
それを見て昇は感嘆の声をあげた。
「色は何色がいい?」
「なおくんは、うすいいろがにあいそう。きいろとかみずいろとか、ピンクとか」
「なるほど」
その言葉にさっと色鉛筆で塗り込んでいく。
絵に魂が入る瞬間というのはこういうことを言うのだろう。
出来上がったデザイン画は実に可愛らしかった。
「じゃあこのイメージで作るとして、ドレスの丈感やバランスを見たいからここにあるドレスをいくつか試着してもらおうかな」
「このなかのどれでもいいのー?」
「ああ、構わない」
「じゃあ、おれ……なおくんにはこれがいいー!」
ぴょんと椅子から飛び降りて昇が指差したのは、淡い水色のレースとフリルが可愛いノースリーブのドレス。
直くんの可愛らしさが引き立ちそうだな。
「じゃあ、それを試着してもらおうか」
昇がドレスを選んでいる間に、征哉くんも一花くんが試着するドレスを決めたようだ。
「それじゃあ一花はこのドレスを」
征哉くんが選んだのは淡いピンク色の、ドレス部分が三重のレースでふんわりとした実に可愛らしいドレス。
なるほど、一花くんのイメージにぴったりだな。
「それじゃああちらの試着室で着替えてください」
浅香くんが案内してくれて、征哉くんと櫻葉さんが一花くんを連れて隣の試着室に入って行った。
私の直くんを連れて試着室に入ろうとすると、
「おれもいくー! なおくんのおきがえてつだうー!」
と昇が私の足にまとわりついてくる。
昇には直くんの着替えを見せたくないと思ってしまったのだが、
「のぼりゅ! いっちょ!」
直くんが嬉しそうに声をあげるから仕方がない。
「わかった、昇にも手伝ってもらうよ」
そう言って昇を連れて試着室に入った。
「昇、このドレスを持っていてくれ」
「わかったー!」
昇にドレスを持たせている間に、直くんの服を脱がせる。
この肌着なら着せておいてもドレスから見えることはないだろう。
昇にドレスのファスナーを開けて準備しておくようにいい、広げたドレスの中に直くんを入れた。
腕を通し、ファスナーを止めてやると大きな鏡に映った自分の姿を見て、直くんが目を丸くしているのが鏡越しに見えた。
「わぁー!」
昇も直くんのドレス姿に目を輝かせている。
私もじっくり正面から直くんを見たが、これほど可愛いと思ったのは絢斗以来だ。
本当に誰にも見せたくないと思ってしまうほど可愛い。
「ちゅぐぅちゃ……」
自分の姿にまだびっくりしている直くんが私の名前を呼ぶ。
「直くん、すごく可愛いよ」
そう声をかけると嬉しそうに私に抱きついてきた。
ああ、本当にこの子は可愛い子だ。
* * *
いつも読んでいただきありがとうございます!
本編も楽しんでいただきつつIFのお話として始まったこのお話も今話でなんと100話!
びっくりですね。
ここまでみなさまに読んでいただけて嬉しいです。
まだまだお話は続いていきますので、これからも楽しんでいただけると嬉しいです♡
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