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番外編
おちゅかれちゃま
「ちゅぐぅちゃ、あーちゃ、どこー?」
建物の中に入るとすぐに絢斗に会えると思ったのだろう。
辺りをキョロキョロとする姿も可愛らしい。
それにしても静かだな。
さっと時計に目を落とすと、まだ講義中だった。
と言ってもあと五分ほどで終わる。
五分前には終わる教授もいるようだが、絢斗は時間を残すことはしない。
というか、学生たちもギリギリまで講義を聞いていたいと望むものばかりだから早めに終わることがあれば暴動でも起こりそうだ。それくらい絢斗の講義は人気がある。
この時間は法学の基礎の授業だ。
専門的な講義の多い絢斗が、唯一任されている一年生のための講義だ。
毎年、ここで優秀な人材を見抜き、将来的に自分のゼミに誘う学生を探すのが楽しいと話している。
さて、今年は絢斗のお眼鏡に適う学生はいただろうか。
「もうすぐ会えるよ」
「あーちゃ、びっくりちゅるかなー?」
「そうだな。楽しみだな」
そんな話をしていると、学内に終了ベルが鳴り響いた。
「わっ、こわいー」
さっきまで楽しそうにしていたが、大きな音に反応して身体を震わせている。
小さな身体をさらに小さく丸めて私の胸に顔を擦り寄せる。
「大丈夫、怖くないよ。もうすぐあーちゃんが出てくる合図だからね」
「こわい、ない?」
「ああ、怖くないよ」
それでもしばらく鳴っている間、直くんは私にぎゅっとしがみついていた。
小さな手で抱きついてくるその姿も愛おしい。
ここにいれば、教室を出てきた絢斗が出てくる。
それがわかっていて直くんを抱っこしたまま待っていると、ちらほら学生たちが教室から出てきた、
出てくるのは絢斗の講義の学生だけではない。
さて、絢斗はいつ頃出てくるだろう。
「わぁー、可愛い子がいるー」
私と直くんの姿を見つけた学生が、遠巻きに直くんに手を振る。
それを見た直くんが小さな手を振ると、
「きゃー! 可愛いっ!!」
と黄色い声が飛んでくる。
その声に他の学生たちも集まってきて、直くんに手を振り始めた
私と直くんはまるで動物園のパンダのように遠巻きにされながら見つめられていた。
その時、
「あーちゃ! いたー!」
と直くんが声をあげる。
「絢斗? どこだ?」
私も探してみるが、私の目にはまだ見えない。
「あーちゃ! あーちゃ!」
直くんはバタバタと私の腕の中で騒ぎ始めた。
「わかった。じゃあ下りて、探しに行こう」
声をかけて、そっと下ろすと私の一瞬の隙をついて直くんは走って行ってしまった。
「直っ!」
慌てて追いかけると、高身長の学生の後ろで絢斗が直くんを抱っこしているのが見えた。
<side絢斗>
この講義が終わったら、今日はもう終わり。
卓さん、迎えにきてくれてるかな。
ウキウキしながら講義を終え、片付けを済ませて教室を出ようとすると
「緑川教授、少し質問いいですか?」
と声をかけてきた学生がいた。
「いいよ、観月くん。何かな?」
「えっ、私の名前覚えてくださっているんですか?」
「もちろん。私の講義に出る子はみんな覚えているよ。特に観月くんみたいな優秀な学生は一番に覚えるから」
昔から顔と名前を覚えるのは得意だった。
その中でも特に講義を真剣に聞いてくれて、毎回講義の最後に出す問題にも他の学生よりも一歩も二歩も先をいく解答を出してくる。
「前回の解答は良かったよ。いいところに目をつけてたね」
「あ、ありがとうございます」
「それで、質問って?」
「あの、これなんですけど……」
「あ、これ」
誰かが気づいてくれないか、そんな期待を持っていたけれどまさかこんなに早く気づくとは。
この子、本当に優秀な学生だな。
「ゆっくり話がしたいから、これから少し時間ある?」
「は、はい」
「じゃあ私の研究室に行こうか、いい話が聞けると思うよ」
そう言って彼を連れ出し、教室を出て歩いていると、人ごみの中から突然小さなものが駆け寄ってきた。
「あーちゃ! みちゅけたー!」
「えっ? 直くん? 一人?」
びっくりして抱き上げた時、すぐ近くで卓さんの焦った声が聞こえた。
「卓さん、ここだよ!」
急いで声をかけると、観月くんの後ろから卓さんが現れた。
その表情はいつもの穏やかな表情と違って、余裕がなさそうだ。
「どうしたの?」
「絢斗を見つけたと言って騒ぐから、一緒に歩いて探そうと思ったら学生たちの隙間を潜り抜けて走って行ったんだ。どうなることかと思ったよ」
「そうなんだ。卓さん、お疲れさま」
ほんのわずかな時間でも直くんを見失ったと思って、心配だったんだろうな。
直くんには、お外でおてて離したらダメだよって言っておかないとな。
そう思ったのに、
「ちゅぐぅちゃ、おちゅかれちゃま」
と私の真似をして笑顔を見せる直くんに私も、卓さんもおかしくなって笑ってしまった。
可愛い子どもには勝てないって本当だな。
建物の中に入るとすぐに絢斗に会えると思ったのだろう。
辺りをキョロキョロとする姿も可愛らしい。
それにしても静かだな。
さっと時計に目を落とすと、まだ講義中だった。
と言ってもあと五分ほどで終わる。
五分前には終わる教授もいるようだが、絢斗は時間を残すことはしない。
というか、学生たちもギリギリまで講義を聞いていたいと望むものばかりだから早めに終わることがあれば暴動でも起こりそうだ。それくらい絢斗の講義は人気がある。
この時間は法学の基礎の授業だ。
専門的な講義の多い絢斗が、唯一任されている一年生のための講義だ。
毎年、ここで優秀な人材を見抜き、将来的に自分のゼミに誘う学生を探すのが楽しいと話している。
さて、今年は絢斗のお眼鏡に適う学生はいただろうか。
「もうすぐ会えるよ」
「あーちゃ、びっくりちゅるかなー?」
「そうだな。楽しみだな」
そんな話をしていると、学内に終了ベルが鳴り響いた。
「わっ、こわいー」
さっきまで楽しそうにしていたが、大きな音に反応して身体を震わせている。
小さな身体をさらに小さく丸めて私の胸に顔を擦り寄せる。
「大丈夫、怖くないよ。もうすぐあーちゃんが出てくる合図だからね」
「こわい、ない?」
「ああ、怖くないよ」
それでもしばらく鳴っている間、直くんは私にぎゅっとしがみついていた。
小さな手で抱きついてくるその姿も愛おしい。
ここにいれば、教室を出てきた絢斗が出てくる。
それがわかっていて直くんを抱っこしたまま待っていると、ちらほら学生たちが教室から出てきた、
出てくるのは絢斗の講義の学生だけではない。
さて、絢斗はいつ頃出てくるだろう。
「わぁー、可愛い子がいるー」
私と直くんの姿を見つけた学生が、遠巻きに直くんに手を振る。
それを見た直くんが小さな手を振ると、
「きゃー! 可愛いっ!!」
と黄色い声が飛んでくる。
その声に他の学生たちも集まってきて、直くんに手を振り始めた
私と直くんはまるで動物園のパンダのように遠巻きにされながら見つめられていた。
その時、
「あーちゃ! いたー!」
と直くんが声をあげる。
「絢斗? どこだ?」
私も探してみるが、私の目にはまだ見えない。
「あーちゃ! あーちゃ!」
直くんはバタバタと私の腕の中で騒ぎ始めた。
「わかった。じゃあ下りて、探しに行こう」
声をかけて、そっと下ろすと私の一瞬の隙をついて直くんは走って行ってしまった。
「直っ!」
慌てて追いかけると、高身長の学生の後ろで絢斗が直くんを抱っこしているのが見えた。
<side絢斗>
この講義が終わったら、今日はもう終わり。
卓さん、迎えにきてくれてるかな。
ウキウキしながら講義を終え、片付けを済ませて教室を出ようとすると
「緑川教授、少し質問いいですか?」
と声をかけてきた学生がいた。
「いいよ、観月くん。何かな?」
「えっ、私の名前覚えてくださっているんですか?」
「もちろん。私の講義に出る子はみんな覚えているよ。特に観月くんみたいな優秀な学生は一番に覚えるから」
昔から顔と名前を覚えるのは得意だった。
その中でも特に講義を真剣に聞いてくれて、毎回講義の最後に出す問題にも他の学生よりも一歩も二歩も先をいく解答を出してくる。
「前回の解答は良かったよ。いいところに目をつけてたね」
「あ、ありがとうございます」
「それで、質問って?」
「あの、これなんですけど……」
「あ、これ」
誰かが気づいてくれないか、そんな期待を持っていたけれどまさかこんなに早く気づくとは。
この子、本当に優秀な学生だな。
「ゆっくり話がしたいから、これから少し時間ある?」
「は、はい」
「じゃあ私の研究室に行こうか、いい話が聞けると思うよ」
そう言って彼を連れ出し、教室を出て歩いていると、人ごみの中から突然小さなものが駆け寄ってきた。
「あーちゃ! みちゅけたー!」
「えっ? 直くん? 一人?」
びっくりして抱き上げた時、すぐ近くで卓さんの焦った声が聞こえた。
「卓さん、ここだよ!」
急いで声をかけると、観月くんの後ろから卓さんが現れた。
その表情はいつもの穏やかな表情と違って、余裕がなさそうだ。
「どうしたの?」
「絢斗を見つけたと言って騒ぐから、一緒に歩いて探そうと思ったら学生たちの隙間を潜り抜けて走って行ったんだ。どうなることかと思ったよ」
「そうなんだ。卓さん、お疲れさま」
ほんのわずかな時間でも直くんを見失ったと思って、心配だったんだろうな。
直くんには、お外でおてて離したらダメだよって言っておかないとな。
そう思ったのに、
「ちゅぐぅちゃ、おちゅかれちゃま」
と私の真似をして笑顔を見せる直くんに私も、卓さんもおかしくなって笑ってしまった。
可愛い子どもには勝てないって本当だな。
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