虐待されていた天使を息子として迎え入れたらみんなが幸せになりました

波木真帆

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番外編

可愛い義弟

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<side卓>

「今日は結婚式でたくさんの人たちに会うし、私たちが直くんの親になったというのを実感してもらうためにもそろそろ直くんを『直』と呼んでもいいんじゃないかな? ほら、この前卓さん……大学で『直』って呼びかけた時、すごく親らしく見えたよ」

あの時は直くんがいきなり駆け出したからつい出てしまったが、直くんは嬉しそうだった気がする。

「そうだな。それじゃあそうしようか」

絢斗と意見をまとめて、サークルで遊んでいる直くんに声をかけた。

「直、そろそろ出かけようか」

私の呼びかけに一瞬びっくりした表情を見せたけれど、嬉しそうに立ち上がりぴょんぴょんと飛び跳ねる。

「おでかけ、ちゅるー!」

ご機嫌な直を抱き上げると、直は私の首元に顔を擦り寄せた。

「なお、うれちー」

その言葉に私もじわっと喜びが溢れて絢斗を見ると、絢斗は嬉しそうに私たちに抱きついた。
なんだか家族として距離が縮まったような気がして、私たちはいつまでも幸せを噛み締めていた。

家族で車に乗り込み、いつものように後部座席で戯れる天使と女神を愛でる。
楽しい会話のBGMを聴きながらあっという間にイリゼホテルに到着した。

ロビーの前で絢斗が私の腕をクイクイと引っ張る。

「卓さん。私たちのお着替えが終わるまでここで待ってて。準備が整ったら連絡する」

「そうか。わかった。楽しみにしているよ」

本当は二人の着替えを手伝いたいくらいだが、ここはおとなしく待っているとしよう。

「直。お姫さまになっておいで」

「あーい!」

可愛らしい返事をしてくれる直を抱きしめて、絢斗にも声をかける。

「綺麗になりすぎて、私の心臓を止めないでくれよ」

「卓さんったら」

絢斗は冗談だと思っているだろうが、私は本気だ。
絢斗にはいつだってドキドキさせられているんだからな。

エレベーターホールまで一緒に行き、絢斗の唇と直の頬にそっとキスをして見送った。
そうしてロビーに戻ると、父が少し呆れたように私をじっと見ていた。

どうやらすでにいたらしい。
絢斗と直しか見えてなかったから父がいるとは気づいていなかったな。

何事もなかったように父のもとに近づくと

「お前たち、目立ってたぞ」

と声をかけられる。

「仕方ないですよ。絢斗も直も可愛いんですから」

その言葉に父はすぐに気づいたが、「そうだな」と笑って私の分のコーヒーを頼んだ。

「あっ! おじーちゃんだ! すぐるおじちゃんもいるー!」

そんな声が聞こえて振り向くと、昇が満面の笑みを浮かべてこちらに手を振っていた。
なんだかまるで自分が今日の主夜のような表情に思わず笑ってしまう。

駆け寄ってきた昇に、コーヒーの付属でついてきたバタークッキーを一枚渡した。

「わぁ、ありがとう。おじちゃん」

「今日は大役頑張れよ」

「うん! まかせておいて!」

さすが小学生ともなれば大役の意味もわかるらしい。

「昇、お着替えに行くわよ。お義父さん。お義兄さん。また後で」

「ああ、沙都と絢斗くんと直くんももう行っているよ」

父の言葉に昇の目が輝いた。

「おかーさん。早くいこー! なおくんとこいこー!」

大喜びする昇の手を引いて二葉さんはエレベーターに向かった。
そうして、男三人だけのコーヒータイムが始まった。

「絢斗くんや二葉さんのことも気にするのは当然だが、保のこともしっかりと見ておいてくれ」

父からの真剣な声に思わず身が引き締まる。

「大丈夫です。わかってますよ」

そう返したのは、あの試着の際に可愛らしい姿を見せてくれたのを覚えているからだ。

「あの試着の時より数段美しさを増しているからな」

父は重ねてそう言ってきたが、それだけ保のことが可愛くてたまらないんだろう。
内心では絢斗のほうが可愛いと思いながらも、私はその言葉は口にしなかった。

そこに母がやってきた。
ロビーが一瞬にしてざわついたからすぐにわかった。

父は急いで母に駆け寄り甘い言葉を囁いているのか、母がほんのり頬を赤らめた。

本当にいつまで経っても仲がいい夫婦だ。
まぁ両親が仲がいいのは嬉しいことなのだが、あまりにも注目を浴びすぎている。

毅とともに両親に近づき、

「父さんたち、目立ちすぎですよ」

と声をかけたが、父には邪魔するなという目で見られ、母に至っては私たちの存在は気づきもしていなかったようだ。
はぁー。どれだけお互いしか見えていないんだろう……

そんな二人と一緒に支度部屋のある階に移動する。
するとちょうど部屋から出てきた人がいた。
驚くほどの美女の登場に思わず息を呑んだ。
その美女が私たちを見つけると、ふわっとした可愛らしい笑顔を見せる。

「あ、お義父さん。お義母さん。それにお義兄さんも」

その言葉にその美女が保だとわかった。

その場に立ち尽くしてしまっていた私と父、そして毅を横目に母だけは保の元に駆け寄っていく。

「保。すごく可愛いわ。よく似合ってる」

「あ、ありがとうございます。でもお義父さんたちが……」

「いいのよ。気にしないで、保が可愛すぎて見惚れているだけだから。寛さん、卓に毅も。早くこちらにいらっしゃい」

母の言葉ではっと我に返り、私たちは保の元に駆け寄った。

「あの、どうでしょうか?」

ほんのりと頬を赤らめて尋ねてくる、その表情にまた見惚れてしまう。

「保、可愛いよ」

「とてもよく似合ってる」

「姫みたいだな」

そんなありふれた言葉しかかけられないほど保が可愛い。

「ありがとうございます」

笑顔でお礼を言う保を見て、父のいうように本気で守らないといけないと心に誓った。
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