虐待されていた天使を息子として迎え入れたらみんなが幸せになりました

波木真帆

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なんと呼んでもらおうか

今日は直くんの部屋に泊まる日だ。
ボストンバッグに二人分の荷物を詰め込み、もう一つのバッグには沙都が選んだ直くんの服や絵本、おもちゃなどが入っている。
こんなに使うことはないだろうが、直くんを思うとついつい荷物が増えてしまうから仕方がない。

いつもより早めに朝食を済ませて直くんのいる病院に車を走らせる。

「二葉さんに、美味しいお菓子を買ってきてくれるように頼んでくれたか?」

「ええ、もちろん。昇が今日は半日授業だから昇を迎えてからお菓子を買って向かうって言ってたわ」

「そうか、それならよかった」

お昼までは私たちだけで直くんの世話ができるということだな。
それもまた楽しみだ。

スタッフステーションで、直くんたちが朝食を済ませたというのを確認して病室に向かうとすぐに賢将さんが出迎えてくれた。

「おはようございます、いい時間ですね」

「おはよう、朝食がおわったと聞いたよ」

「ええ。残さずに食べられたのでご機嫌ですよ。顔色もいいし、昨夜もよく眠れたようです。体調には何の問題もありませんよ」

さすが現役医師だな。

「直くん、おはよう」

沙都が声をかけて部屋に入る後ろからついていくと、直くんは一瞬キョトンとした顔で沙都をみてすぐに笑顔を見せた。

「ちゃーちゃ」

「直くん、覚えててくれてたのね。嬉しいわ!!」

沙都は直くんに名前を呼ばれて嬉しそうにベッドへ駆け寄っていく。
秋穂さんに声をかけて、沙都がそっと直くんを抱っこする。

「会いたかったわー」

「あいちゃかっちゃー」

きっと沙都の真似をしているのだろうが、沙都にしてみれば直くんから会いたかったと言われて嬉しくないわけがない。
感極まった表情で嬉しそうに抱きしめていた。

その時直くんと目があった。

「ちゅぐぅちゃ?」

私のことは覚えているようだが、卓と混乱しているようだ。
まぁ無理もない。年齢はともかく私と卓は似ている方だろう。

直くんも似ているけどなんか違うとでも言いたげな表情で困惑しているのがわかる。
こんな小さな子もこんな表情を浮かべるのだと思うと少し笑ってしまう。

それにしても、前回来た時は沙都と絢斗くんが直くんと遊んでいるのを撮るのに必死になってしまって、自己紹介をするのを忘れていたな。私としたことが、なんたる不覚……。

「沙都、なんて呼んでもらったらいいだろうな?」

「そうね。ちなみに賢将さんは直くんになんて呼ばれているの?」

「『じいちゃ』よ。おじいちゃんって呼ばせたかったみたい」

沙都から尋ねられて秋穂さんが教えてくれた。

目の前の賢将さんは少し戸惑い気味に口を開いた。

「孫におじいちゃんと呼ばれたくて、寛さんにも相談せず直くんに呼んでもらいました。すみません」

「いやいや、謝ることなどない。私はもうすでに昇にじいちゃんと呼ばれているからな。だが、そうだな。なんて呼んでもらおうか」

悩むが一つしか答えはない。
私はゆっくりと直くんに近づいた。

「直くん、じいじだよ」

「じぃじ?」

舌ったらずな言葉で小首を傾げるのが可愛くてたまらない。

「ああ、じいじだよ。おいで」

そっと両手を差し出してみた。怖がるかと思ったが、沙都の腕に抱かれた直くんは私の方に腕を伸ばしてくる。
その小さな手をとって優しく抱きしめると、私を見つめるその目が嬉しそうに微笑む。

「じぃじ」

可愛く呼びかけられ、私の心はもうすっかり掴まれてしまっていた。

賢将さんはこれから自分の病院に行かなければいけないということで、直くんを私たちに任せて秋穂さんと共に帰って行った。

「そういえば保さんのことは話したか?」

「ええ。賢将さんの仕事が終わったら一緒に病院に行くって言っていたわ。夕食の時間には間に合いそうよ」

「そうか、それならよかった」

ホッとしたところで部屋をノックする音が聞こえた。
沙都に直くんを任せて扉を開けに行くと、そこには卓と絢斗くんの姿があった。

「なんだ、卓たちか。直くんに会いに来たのか?」

「ええ。仕事に行く前に顔を出しておこうと思いまして」

「そうか、絢斗くん。ご両親もさっきまでいたんだがちょうど行き違いだったな」

「いえ、さっき駐車場で会いましたよ。お義父さん、『じいじ』になったんですね。すごくお似合いですよ」

笑顔の絢斗くんに「じいじ」と呼ばれるのは照れるが、褒められて悪い気はしない。

「直くん、おはよう!

「あーちゃ! ちゅぐぅちゃ!」

卓と絢斗くんが直くんに顔を見せると、私たちを見た時以上の反応の良さにすっかり親になっているのだなと感じた。
特に卓の眼差しが柔らかい。
あんな表情は絢斗くんだけに向けられるものだと思っていたが、直くんにもあんな表情ができるのか……。
親としてこんなに嬉しいことはないな。
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