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どちらが大人かわからない
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<side卓>
昇が直くんを見て可愛いと言っていたと聞いて、なんとなくモヤモヤとした感情を抱いた。
毅たちが来るおおよその時間をきき、その時間を成瀬くんと安慶名くんに任せて病院に向かった。
「ちゅぐぅちゃ!」
直くんは昼間私が尋ねてきたことに大喜びをして迎えてくれた。
ああ、本当に可愛い天使だ。
私が直くんを抱っこする様子を父も母も穏やかに見守ってくれていたが、そこに毅からの連絡が入った。
「私が毅たちを迎えに行ってきます」
直くんと離れるのは寂しかったし、直くんも私がこのまま帰ってしまうのではないかという不安な表情を見せていたが、すぐに戻ってくるから、待っているんだよと声をかけると、素直に母に抱っこされていた。
後ろ髪引かれる思いで病室を後にし、急いで毅たちがいる駐車場に向かった。
私の姿を見て一様に驚きの表情をいせていた毅たちだったが、
「ちょうど直くんに会いに来ていたところだったからな。じゃあ、行こうか」
と努めて冷静を装って声をかけると納得したように見えた。
毅たちを先導するように歩いていると、タタっと昇が駆け寄ってきた。
身長に見合わない大きなリュックをしているのが気になるが、それより先に昇から直くんが起きているかどうかを尋ねられる。
私がついた頃は昼食を終えて少し経っていたからウトウトしていたが今ははっきり目覚めていた。そう教えると一気に表情が明るくなって嬉しそうにしていた。
その表情を見るとなんだかモヤモヤとしてしまう。
さらにリュックの中身を聞けば自分の宝物だといい、それを直くんにあげるのだと聞けばモヤモヤが増していくのを感じたが、
「おれ、なおくんのおにいちゃんになるんだ!」
という言葉が出てきてホッとした。
そうか、直くんのお兄ちゃんか。
なら気にすることはないか。
一気にモヤモヤとした感情が晴れていく。
調子がいいと言われればそうだが、気分が晴れるのは嬉しいことだ。
昇たちと共に直くんの病室を開け、先に中に入る。
直くんは私の姿を見つけてすぐに嬉しそうな声をあげて名前を呼んでくれた。
ああ、やっぱり可愛い。
直くんは天使だ。
その可愛さに癒されていると、昇が可愛いと叫びながら私の隣を駆け抜けていく。
突然直くんに駆け寄ったことで昇は母に窘められていたが、すぐに立ち止まり静かに直くんのベッドに近づいた。
私はそれをただじっと見守っていた。
お兄ちゃんになるんだと言っていた昇の気持ちを見守ろうとしたんだ。
自己紹介を終えた昇は、背負っていたリュックを下ろし、中からくまのぬいぐるみを取り出した。
あれには見覚えがある。
昇が直くんくらいの年のころ、サンタさんからもらったと嬉しそうにいつも連れ歩いていた子だ。
ずっと大切にすると言っていたあのくまを直くんに惜しげもなくあげると言っている。
その昇の気持ちが嬉しかった。
「お義兄さん、あのぬいぐるみ。昇がちゃんと消毒してましたから安心してくださいね」
「ああ、ありがとう」
二葉さんが年季の入ったぬいぐるみにフォローを入れてくれたが、昇には以前に賢将さんが消毒の大切さを教えていたからそこの心配はしていなかった。昇も賢い子だからな。
ぬいぐるみを喜んでもらった昇が次なるものをリュックから取り出そうとした瞬間、さっと二葉さんが昇のそばに近寄った。
「昇、まだたっぷり時間はあるから、おもちゃは後にして先にお土産を渡しましょう。直くんもきっと食べたいはずよ」
「あ、そっか。わかったー!!」
お土産。昇が大事そうに持ってきていたあれか。
二葉さんがベッドのテーブルにのせ箱を開け始めたのを見て、父と毅が皿とフォークの準備を始めたから私も飲み物の支度を始めた。
小さい子がいる場所ではホットの飲み物は厳禁。火傷の恐れがあるものは絶対に近づけない。
それがわかっているから、人数分のアイスコーヒーと昇にはリンゴジュースを用意していた。
すると、
「だいじょうぶ! おれ、ちからつよいもん!」
という昇の声が聞こえて、そっと視線を向けると、昇が母から直くんを受け取って抱っこしているのが見える。
お兄ちゃんになると言っていたのだからそれもありか。
と思って見守っていたが、昇は直くんをギュッと抱きしめると、首の辺りに顔を埋めて匂いを嗅いでいるように見える。
その姿に血が昇ってしまった私は、
「昇! 何をしているんだ!」
つい声を張り上げて二人に駆け寄ってしまった。
昇は私のその声と表情に驚きすぐに謝罪したが、昇の腕の中にいた直くんが私を不安そうな表情で見上げた。
「ちゅぐぅちゃ、こわい……」
「――っ!!」
直くんに怖いと言われてしまった……。
ああ、私はなんてことをしてしまったんだろう……。
「ごめん、直くんを怒ったんじゃないんだよ」
「やぁ――っ、こわい……っ」
急いで直くんに謝ったが、私の顔も見てくれない。
直くんからの信頼は奈落の底まで落ちてしまったらしい。
どうしたらいいのだろう……。
そんな状況の中、助け舟を出してくれたのは昇だった。
「なおくん、おじちゃんはこわくないよ。おれがわるかったからしかっただけ。おじちゃんはやさしいよ」
「ちゅぐぅちゃ、こわい、ない?」
「うん、こわくないよ。やさしいよ」
そのやり取りで直くんは安心したのか、私にいつもと変わらぬ笑顔を向けてくれた。
そればかりか、
「ちゅぐぅちゃ、だっこ……っ」
いつもと同じように抱っこを強請ってくれて、私はこの上なく幸せな気持ちで直くんを抱きしめた。
ああ、良かった……。
直くんを抱きしめながら昇に視線を向けると、昇は笑顔で私たちを見ていた。
なんだかどちらが大人なのかわからない。
私はもっと成長しないといけないな。
小学一年生の甥にそう教えられた気がした。
昇が直くんを見て可愛いと言っていたと聞いて、なんとなくモヤモヤとした感情を抱いた。
毅たちが来るおおよその時間をきき、その時間を成瀬くんと安慶名くんに任せて病院に向かった。
「ちゅぐぅちゃ!」
直くんは昼間私が尋ねてきたことに大喜びをして迎えてくれた。
ああ、本当に可愛い天使だ。
私が直くんを抱っこする様子を父も母も穏やかに見守ってくれていたが、そこに毅からの連絡が入った。
「私が毅たちを迎えに行ってきます」
直くんと離れるのは寂しかったし、直くんも私がこのまま帰ってしまうのではないかという不安な表情を見せていたが、すぐに戻ってくるから、待っているんだよと声をかけると、素直に母に抱っこされていた。
後ろ髪引かれる思いで病室を後にし、急いで毅たちがいる駐車場に向かった。
私の姿を見て一様に驚きの表情をいせていた毅たちだったが、
「ちょうど直くんに会いに来ていたところだったからな。じゃあ、行こうか」
と努めて冷静を装って声をかけると納得したように見えた。
毅たちを先導するように歩いていると、タタっと昇が駆け寄ってきた。
身長に見合わない大きなリュックをしているのが気になるが、それより先に昇から直くんが起きているかどうかを尋ねられる。
私がついた頃は昼食を終えて少し経っていたからウトウトしていたが今ははっきり目覚めていた。そう教えると一気に表情が明るくなって嬉しそうにしていた。
その表情を見るとなんだかモヤモヤとしてしまう。
さらにリュックの中身を聞けば自分の宝物だといい、それを直くんにあげるのだと聞けばモヤモヤが増していくのを感じたが、
「おれ、なおくんのおにいちゃんになるんだ!」
という言葉が出てきてホッとした。
そうか、直くんのお兄ちゃんか。
なら気にすることはないか。
一気にモヤモヤとした感情が晴れていく。
調子がいいと言われればそうだが、気分が晴れるのは嬉しいことだ。
昇たちと共に直くんの病室を開け、先に中に入る。
直くんは私の姿を見つけてすぐに嬉しそうな声をあげて名前を呼んでくれた。
ああ、やっぱり可愛い。
直くんは天使だ。
その可愛さに癒されていると、昇が可愛いと叫びながら私の隣を駆け抜けていく。
突然直くんに駆け寄ったことで昇は母に窘められていたが、すぐに立ち止まり静かに直くんのベッドに近づいた。
私はそれをただじっと見守っていた。
お兄ちゃんになるんだと言っていた昇の気持ちを見守ろうとしたんだ。
自己紹介を終えた昇は、背負っていたリュックを下ろし、中からくまのぬいぐるみを取り出した。
あれには見覚えがある。
昇が直くんくらいの年のころ、サンタさんからもらったと嬉しそうにいつも連れ歩いていた子だ。
ずっと大切にすると言っていたあのくまを直くんに惜しげもなくあげると言っている。
その昇の気持ちが嬉しかった。
「お義兄さん、あのぬいぐるみ。昇がちゃんと消毒してましたから安心してくださいね」
「ああ、ありがとう」
二葉さんが年季の入ったぬいぐるみにフォローを入れてくれたが、昇には以前に賢将さんが消毒の大切さを教えていたからそこの心配はしていなかった。昇も賢い子だからな。
ぬいぐるみを喜んでもらった昇が次なるものをリュックから取り出そうとした瞬間、さっと二葉さんが昇のそばに近寄った。
「昇、まだたっぷり時間はあるから、おもちゃは後にして先にお土産を渡しましょう。直くんもきっと食べたいはずよ」
「あ、そっか。わかったー!!」
お土産。昇が大事そうに持ってきていたあれか。
二葉さんがベッドのテーブルにのせ箱を開け始めたのを見て、父と毅が皿とフォークの準備を始めたから私も飲み物の支度を始めた。
小さい子がいる場所ではホットの飲み物は厳禁。火傷の恐れがあるものは絶対に近づけない。
それがわかっているから、人数分のアイスコーヒーと昇にはリンゴジュースを用意していた。
すると、
「だいじょうぶ! おれ、ちからつよいもん!」
という昇の声が聞こえて、そっと視線を向けると、昇が母から直くんを受け取って抱っこしているのが見える。
お兄ちゃんになると言っていたのだからそれもありか。
と思って見守っていたが、昇は直くんをギュッと抱きしめると、首の辺りに顔を埋めて匂いを嗅いでいるように見える。
その姿に血が昇ってしまった私は、
「昇! 何をしているんだ!」
つい声を張り上げて二人に駆け寄ってしまった。
昇は私のその声と表情に驚きすぐに謝罪したが、昇の腕の中にいた直くんが私を不安そうな表情で見上げた。
「ちゅぐぅちゃ、こわい……」
「――っ!!」
直くんに怖いと言われてしまった……。
ああ、私はなんてことをしてしまったんだろう……。
「ごめん、直くんを怒ったんじゃないんだよ」
「やぁ――っ、こわい……っ」
急いで直くんに謝ったが、私の顔も見てくれない。
直くんからの信頼は奈落の底まで落ちてしまったらしい。
どうしたらいいのだろう……。
そんな状況の中、助け舟を出してくれたのは昇だった。
「なおくん、おじちゃんはこわくないよ。おれがわるかったからしかっただけ。おじちゃんはやさしいよ」
「ちゅぐぅちゃ、こわい、ない?」
「うん、こわくないよ。やさしいよ」
そのやり取りで直くんは安心したのか、私にいつもと変わらぬ笑顔を向けてくれた。
そればかりか、
「ちゅぐぅちゃ、だっこ……っ」
いつもと同じように抱っこを強請ってくれて、私はこの上なく幸せな気持ちで直くんを抱きしめた。
ああ、良かった……。
直くんを抱きしめながら昇に視線を向けると、昇は笑顔で私たちを見ていた。
なんだかどちらが大人なのかわからない。
私はもっと成長しないといけないな。
小学一年生の甥にそう教えられた気がした。
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