虐待されていた天使を息子として迎え入れたらみんなが幸せになりました

波木真帆

文字の大きさ
65 / 122
番外編

天使のお出迎え

番外編第一弾はあの時撮っていた動画を伊織と優一が見たらどんな反応をするかというお話。
誰にしようかと思いましたがここは中谷くん視点で書いてみました。
楽しんでいただけると嬉しいです♡


  *   *   *

<side中谷>

「今日の仕事はこれで終わりだな」

元々仕事の早い先生だったけれど、直くんが来てからはさらに早くなった。
可愛い直くんと絢斗先生のところに帰るのが待ち遠しくてたまらないんだろう。
それがわかっているから、安慶名先生と成瀬先生が事務所の鍵締めを担当してくれている。

「先生、お疲れさまでした」

「今日もありがとう。明日もよろしく」

陽太くんと一緒に声をかけると、磯山先生は笑顔で階段を上がっていった。

「今日は昨日より五分早いよ」

「毎日可愛さを更新していくって溢していたから、いつか事務所を閉める時間も早くなりそう」

「それ、あるかもね」

そんな話をしながら作っておいた明日の資料を先生たちに届けにいった。

「安慶名先生、成瀬先生。明日の朝イチで使う資料です」

「ありがとう。相変わらず仕事が早くて助かるよ」
「今日も完璧だな。ありがとう」

安慶名先生は資料を渡すと笑顔で返してくれる。
成瀬先生はサッと資料に目を通してから、笑顔こそないけれどお礼を言ってくれる。

全然違うタイプの先生だけど、私たちを信頼してくれているのはわかる。
ただ成瀬先生の方が少し感情を出すのが苦手なのかなという印象だ。

笑顔を見せることもそうだけど、驚いたりといった表情も見ることはほとんどない。
たまに絢斗先生にサプライズを仕掛けられて表情が少し崩れることはあるけれど、基本的にいつも同じ。
優秀であるが故に、感情を表に出せないということないのかもしれない。
それでも磯山先生と安慶名先生、そして成瀬先生の三人のバランスはいい感じで保たれているから事務所の雰囲気はすこぶるいい。

でも一度くらいは成瀬先生が大声を出すほど驚いているところを見てみたい。
そんな願望を持っていることは、私だけの秘密だ。

作った資料を褒められて浮かれていると、ポケットに入れていたスマホが振動を伝えた。
仕事の時間にスマホを確認することはあまりしないけれど、もうすでに業務時間は終わっているし、夏央からの連絡かもしれないと思ってスマホを取り出した。

画面表示には絢斗先生の名前。
しかも送られてきたのは、メッセージではなく動画。

一体なんだろう?
気になって仕方がない。

私はこっそり給湯室に向かい、その動画を再生してみた。


ーあーちゃ、ちゅぐぅちゃ、もうかえっちぇくる?

「――っ!!」

可愛い直くんの顔がアップで映っている。
これだけでとんでもなく可愛い。

ーうん。もうすぐだよ。あ、帰ってきたかな?

絢斗先生の声が聞こえると同時に私にも鍵を開ける音が聞こえてきた。
するとその音に目を輝かせた直くんが絢斗先生に背を向けてトタトタっと可愛い足音を響かせながら駆け出していく。
その姿がもう天使!!

ーちゅぐぅちゃーっ!!

その声を追いかけるようにカメラがついていく。
するとトタトタと走っていく小さな天使の身体越しに笑顔の先生が両手を広げて屈んでいるのが見える。
みたことのない笑顔に私でもドキッとしてしまう。

ーおかーりー! おちごと、おちゅかれちゃま。

可愛い言葉で出迎えられて先生、嬉しそう!
幸せな表情をしたまま直くんを抱き上げると直くんの方から先生のほっぺに唇を当てている姿が見える。
くぅーっ!! 可愛いっ!!

ー直くん、ただいま。いい子で遊んでいたかな?

絢斗先生に声をかけるときのような甘い声に幼い子に対する優しさがもっとプラスされている気がする。

ーあーちゃとあちょんだー。

ーそうか、それはよかった。

先生のご満悦な表情を見ているだけで私もにやけてしまう。
きっと今頃、先生の頭の中では女神の絢斗先生と天使な直くんが戯れている姿が浮かんでいるんだろう。

ーちゅぐぅちゃ、いおいとゆーちーとあちょんだ?

ふふっ。直くんは先生が事務所で遊んでいると思っているんだ。
しかもあの成瀬先生と安慶名先生と……。想像するだけで笑ってしまう。

ーははっ。そうだな、頑張ったよ。

ーちょれは、よかっちゃ。

先生の真似をした直くんの言葉がなんとも可愛らしい。
動画はそこで締められていた。

あーっ!!!! なんて可愛いものを見たんだろう。
うちの櫻子もあんなふうに大きくなって出迎えてくれると思うとそれだけで笑顔になってしまうくらいたまらない。

「あれ? 一星くん、こんなところで何しているの?」

給湯室が片付けられているか最後のチェックに来てくれたんだろう。
陽太くんに声をかけられて、私はすぐにこの動画を見せた。

「うっわぁー!!! 可愛い!! 先生も素敵!! こんな出迎えが待っているならそりゃああんなに急いで帰っちゃうよね!」

「うんうん! 本当、天使だよ」

「ねぇ、この動画。先生たちにも見せようよ! 絶対に驚くよ!」

「えっ、いいのかな?」

「だって絢斗先生が送ってくれているんだから見せてもいいものだよ。というか寧ろ先生たちに見せてほしくて送ったんじゃないかな?」

絢斗先生なら確実にそうかもしれない。
私たちは急いで先生たちのもとに向かった。

「安慶名先生! 成瀬先生! これ、見てください!」

全部の鍵をチェックして戻ってきた二人の先生にスマホを見せると、何事かと近づいてきてくれた。

そして私はさっきの動画を再生した。

ーちゅぐぅちゃーっ!!

「えーっ!! こ、これ……先生? 嘘だろっ!!」

成瀬先生の口からいつもなら聞けないような声が出ていてこれだけでニヤけてしまう。

その後も画面の天使ちゃんが声をあげ、磯山先生の顔が映るたびに二人の先生の顔が驚きの表情に変わっていく。

数分の動画を見終わった後も目を丸くしたまま、声も出せない様子で二人で立ち尽くしていた。
普段見られない二人の先生の様子が私たちには新鮮でたまらない。

しかもその様子を陽太くんがばっちりと撮影してくれていた。

後日、二人がどんどん驚愕していく様子を絢斗先生と皐月先生に見せると

「やったー! これが見たかったんだ!」

と大喜びしてくれた。

なるほど、あの動画を私に送ってくれたのはそれが目当てだったか。

でも私も可愛い天使動画と、驚く先生たちの姿を見られて最高に楽しかった。

けれど、成瀬先生のさらに上をいく驚きを目の当たりにするまであと少し。
感想 250

あなたにおすすめの小説

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

それは、最低の求婚だった。

あんど もあ
ファンタジー
三十歳年上の男の後妻として結婚させられた姉は、夜会で再会した妹に哀れな女とあざ笑われる。 そう、それは最低な縁談のはずだったから……。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…