虐待されていた天使を息子として迎え入れたらみんなが幸せになりました

波木真帆

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番外編

恐る恐る

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<side卓>

父と賢将さん、そして私の義弟であり、私の可愛い息子・直の叔父さんとなった保に可愛らしく挨拶をする直くんを見守り、絢斗と近づくとすぐに私に抱っこしてほしいと手を伸ばしてくる。

その時、私はなんとも言えない幸福感に包まれる。

安心し切った様子で私に抱っこされる可愛い直くんを連れて、駐車場からホテルの中に移動すると私たちの様子を見た周りの客の視線が一気に注がれる。直くんはその視線の多さに怯えたのか、私にギュッとしがみついてくる。ああ、可愛い。でも大丈夫。怖い目には絶対に遭わせたりしないよ。

これからみんなで楽しいところに行くと説明すると絢斗も一緒に優しい声をかける。
そのことに安心したのか、直くんの表情が柔らかくなった。

そんな直くんを連れてある部屋の扉を開けると、笑顔で現れたのはこのイリゼホテルホテルのオーナーの浅香くん。私の友人・志良堂とそのパートナーの鳴宮くんの教え子で私たちとは見知った仲だ。特に絢斗とは鳴宮くんを通じてよく一緒にお茶会などをしている友人でもある。

今回の絢斗や母たちのサプライズ計画の一番の協力者と言えるだろう。

「敬介くん! 今日はよろしくね!」

絢斗が彼に声をかけたのを見て、直くんがポツリと呟く。

「ちゅぐぅちゃ、あのひと、けいちゅけくん?」

きっと絢斗から敬介という名前を聞いて新しい友だちになれる子だと思っていたのかもしれない。
想像よりも大人でびっくりしているようだ。それもまた可愛い。

「そうだよ。よく聞いていたね。あーちゃのおともだちだ」

「あーちゃの、おともらち。ちょっかそっかー」

少し困惑している様子だったが絢斗の友だちだと告げれば、すぐに安心した表情になる。
それだけ絢斗に対して信頼があるということなのだろう。

「敬介くん。この子が私と卓さんの可愛い息子の直だよ」

絢斗が浅香くんに直くんを紹介すると、浅香くんが満面の笑みでこちらを見た。

「わぁー! なんだか緑川教授に似てますね。こんにちは、直くん」

優しげな笑顔にホッとしたのか、直くんの身体から緊張の強張りがふっとなくなった。

「けいちゅけくん」

「わっ! 今の、私の名前ですよね? すっごく可愛い!!」

直くんの舌足らずな呼びかけが相当気に入ったようだ。

「直くん、敬介くんにも抱っこしてもらう?」

「けいちゅけくんに、だっこちてもらう」

絢斗の言葉をそっくりそのまま鸚鵡返しするのも可愛い。

浅香くんが嬉しそうに手を伸ばすと、直くんも浅香くんに手を伸ばした。
私は優しく浅香くんに直くんを渡すと、直くんはすっぽりと浅香くんの腕の中におさまった。

「わぁー! 可愛いですね。柔らかいし、優しい匂いがする」

浅香くんにはお兄さんもいるが結婚はされていないし、弟もいない。
おそらく直くんくらいの年の子を抱っこしたことがあまりないのだろう。
それでも抱き方に愛情が感じられる。

直くんもすっかり安心しているようだ。

すると、その時部屋の奥から声が聞こえた。

「敬介、このドレスだが……」

近づいてきたのは浅香くんの恋人の蓮見周平くん。
彼もまた志良堂と鳴宮くんの教え子で、私たちとは周知の仲だ。
このイリゼホテルで扱うドレスのデザイナー兼Clef deクレ ド Coeurクールというアパレルブランドの経営者でもある。

「ふぇ……っ、ふえー-っん」

彼が浅香くんに近づいた途端、直くんが突然泣き始めた。

「あれ? どうしたのかな?」

敬介くんが戸惑う横で、周平くんも焦っているようだが直くんの泣き声は止まらない。
私はさっと手を伸ばし、浅香くんから直くんを受け取った。

「直くん、どうした?」

尋ねてみるが直くんは私の胸に顔を隠し、頭をフリフリと横に揺らすだけ。
少し声が聞こえてきたと思ったら、

「こわーいっ」

と言っているのが聞こえる。

「えっ? 怖い?」

直くんの思わぬ言葉に思わず声をあげると、浅香くんと絢斗が楽しそうに吹き出した。

「直くん大丈夫だよ。このお兄ちゃん、怖い顔だけどすごく優しい人だから」

「そうそう。本当に優しくていい人なんだよ。今日は直くんの可愛いお洋服を作ってもらうために来てくれたんだよ」

私の胸に顔を埋める直くんに浅香くんと絢斗が優しく話しかけると、直くんはようやく顔を上げた。

やちゃちぃやさしい?」

「うん、すっごく優しいよ。ね、直くん。お兄ちゃんにも抱っこしてもらう?」

絢斗の問いかけに、直くんはまだ少し怯えながらも小さく頷いた。
そして周平くんに向かって手を伸ばした。

周平くんは、いいんだろうかとでもいうように少し戸惑い気味に手を伸ばす。
私はそっと直くんを行かせると、直くんは周平くんの大きな腕にすっぽりと包まれた。
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