IFの世界 〜桜守学園の可愛い仲間たち〜

波木真帆

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〜可愛い理央のために〜 <前編> side凌也

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<side凌也>

「ふふっ。今日のランチ、楽しみだわ!」

母さんの友人が別荘地にレストランをオープンしたから家族揃って食べにきて欲しいという連絡に、両親はあっという間に旅行の計画を立てた。

ちょうどそのレストランが、父さんが懇意にしている温泉旅館とさほど離れていないこともあって、ランチを食べに行って久しぶりにそこに泊まりに行こうということになった。

中学生の俺としては、両親と旅行なんてのは正直言って面倒臭い気持ちもあるけれど、母さんファーストの我が家としては行きたくないとも言えず、海外に長期間行くよりはマシかと妥協して、俺もついていくことにした。

「凌ちゃん、大人のお子様ランチっていうのもあるわよ。これなら中学生でも食べられるわ!」

「母さん、俺は小学生の時だってお子様ランチは食べてなかっただろう。俺、こっちのステーキにするから」

「ふふっ。わかったわよ。久嗣さんはどうする?」

「私は麗花と同じ大人のお子様ランチにしよう。パスタとハンバーグのソースを変えれば分けて二種類食べられるだろう?」

「わぁー、嬉しい!!」

はいはい。
仲がいいのはいいけど、俺の前ではもう少し遠慮してくれ。
って、するわけないけど。

中学生ともなれば、どこそこの親が不倫しただの、離婚しただの聞くこともあるけれどうちに関してはそんなことは一切あり得ない。
父さんも母さんもお互いに相手を愛しているのがわかるし、いつも幸せそうだ。

親がイチャイチャしているのを見たくないという気持ちもありつつ、二人が仲良くしているとホッとする。
それはきっといつか俺も両親のように愛する人ができたらいいなと思っているからかもしれない。

今のところ、そんな感情は一切感じたことはないけど、父さんも母さんに会うまではそんな感情を誰にも感じたことはなかったというから俺もまだまだ先だろうな。

美味しい食事を食べて、母さんと友人が少し話をしているのをのんびりと待って、俺たちは店を出た。

「あのね、この先に美味しいアイスクリーム屋さんがあるんだって。ちょっと込み入ったところだから、車ではいけないけど穴場だって言ってたから、行ってみない?」

母さんのそんな誘いに、腹ごなしにいいかと思って賛成し、家族三人で別荘地を歩いた。

「あ、ここの細道を過ぎたところじゃないかしら?」

そう言って細道に入っていく母さんと父さんについて行っていると、もう一つの細道の奥から誰かが叫んでいる声が聞こえる。

なんだ?
立ち止まって聞いていると、幼い子どもの泣き声もする。
これは何かあったんじゃないか?

「父さん! 何かおかしいよ。ちょっと俺、みてくる!」

父さんもその怒鳴り声と泣き声はうっすらと聞こえていたようで、

「凌也、私たちもいく!」

と言いながら、二人ともついてきた。

すると、声がだんだん大きく聞こえてきて、その方向に走っていくと、

「おい、チビ! そこで待ってろって言ってんだよ! わかんねぇーのか? 本当、お前バカだな!」

と罵る声が聞こえた。

そのただごとでない様子に咄嗟にスマホで録画をしながら駆け寄ると、汚れたTシャツとおむつだけを穿かされた裸足の子が中年の男におぼつかない足取りで泣きながら駆け寄るのが見えた。

「やぁぁーーっ!!」

「ついてくんなっ!!」

「ぎゃあぁーーっ!!」

中年男は足にしがみつこうとしていたその子を蹴って突き飛ばし、小さなその身体は地面に叩きつけられた。

「やめろっ!!」

俺は大声で叫び、地面に横たわった子どもに駆け寄ると落ちていた石に当たったのか、頭から血を流していた。

「――っ!!!」

俺はその子を抱きかかえて、持っていたハンカチで頭を抑え止血していると、

「なんだ、お前、余計なことすんな!」

と中年男が怒鳴りつけながら近づいてきたが、俺の後ろから駆け寄ってきた父さんが男の鳩尾に一発殴るとそのまま倒れて動かなくなった。

「父さん、この子が……」

「わかってる。すぐ近くに診療所があるから麗花と一緒に向かってくれ。私は警察を呼んだからこいつを引き渡してから診療所に行く」

「わかった」

ハンカチで頭を抑えながら急いで母さんの元に駆け寄るけれど、腕の中の子どもは泣き声もあげずにぐったりとしている。
まさか……

いや、そんなことは考えないようにしよう。

母さんの案内で診療所に辿り着いた俺たちはすぐにそこの医師にこの子を見てもらった。

「大丈夫、軽い傷ですから跡も残りませんよ」

「はぁー、よかった。あんなに血が出ていたから……」

「頭は血管が多いのでほんの少しの傷でも大量に出るんですよ、それよりも気になるのはこの子の栄養状態と衛生状態です」

「えっ、それって……」

「おそらく食事も満足に与えられていないでしょう。おむつもおそらく一日に一度くらいしか替えて貰っていないようですね。皮膚がかぶれてひどい炎症を起こしています。ほら」

そう言って見せられたその子のお尻は赤く爛れてしまっていた。

「ひどいな……」

「本当に、なんてことっ!! すぐに替えてあげましょう」

母さんはその子の状態に本気で怒っていて、こんなに感情を露わにした母さんを見るのは初めてだったと思う。
すぐに診療所にある着替えとおむつを借り、母さんがまだ眠ったままのその子を風呂に入れて清潔にし着替えを済ませ抱っこしてあげていた。

それからしばらくして父さんが診療所にやってきて、あの男とこの子の関係を聞いた

「あの男はこの先にある『日華園』という児童養護施設の職員らしい。この子をあそこに置き去りにして言うことを聞くように躾けようとしていたらしい」

「ふざけんな、何が躾だよ!」

「ああ、れっきとした保護責任者遺棄だからな。警察に捕まったよ。施設にも調査が入ることになったから、この子はこのままうちで預かることにした」

「えっ? うちで?」

「ああ、これも何かの縁だからな。麗花、いいか?」

「ええ、もちろんよ」

こう言う時の両親の行動は早くて驚くが、それ以上に人として尊敬する。

こうして行動力のある両親といろんな人の力により諸々の手続きを終え、あっという間に理央は我が家の一員となった。
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