ベビーシッター先でラブラブな家族生活はじまりました

波木真帆

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当たり前のこと

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「遥くん、それは本当に?」

「えっ、あの……」

カールさんが僕を名前で呼びたいからってことだったけど……でも、直さんもカールさんも磯山さんと村山さんに名前で呼ばれているし、西条さんから呼び捨てにされるのは安心する。
ここは本当だって言っておいたほうがいいのかもしれない。

「あの、そうです……呼び捨てに、してもらえますか?」

断られたら辛いな……と思いつつ、頼んでみた。

すると、茫然とした顔で僕をじっとみている。
やっぱりダメだったかなと一瞬思ったけど、さっきの直さんの言葉を思い出す。

――嬉しすぎて動けない……。

そうだったら嬉しい。

「あの、だめですか?」

もう一度尋ねると、西条さんが突然身体を揺らした。
どうしたんだろう?

「だ、だめじゃない! ずっと名前で呼びたいと思っていたんだ。は、遥……」

真っ赤な顔で名前を呼び捨てにしてくれる西条さんがなんだか可愛く思える。

「嬉しいです。悠臣さん」

笑顔で返すと、西条さんも笑顔を見せてくれる。
なんだかものすごく近い存在になった気がする。

「じゃあ、これで僕も遥って呼んでもいいよね。遥もカールって呼んでいいからね」

「い、いいんですか?」

「もちろん! もう友だちだし」

友だち……。
この歳になって名前で呼び合える友だちができるなんて思いもしなかった。

「僕のことも直って呼んで。僕も遥って呼ばせてもらうね」

「うん。カール、直。これからよろしく!」

差し出した手を二人が重ねて握ってくれる。
その温もりがたまらなく嬉しかった。

ちょうどそのタイミングでさっき注文したスイーツが運ばれてきた。

「遥、プリンきたよ!」

カールに誘われて僕は急いで席にもどった。目の前には美味しそうな黒蜜ときなこのプリン。

「美味しそう!」

カールの抹茶モンブランも、直のマスカットのタルトも美味しそうだ。

カフェオレを一口飲んで、プリンを食べる。
スプーンで掬うとほどよく固めで僕の好きなタイプだ。

「んー! すっごく美味しい! 黒蜜ときなこのバランスが最高だね」

これは、家でぜひ真似したい。
プリンをじっくりと味わいながら、レシピを頭の中で考えていると、ポンと肩を優しく叩かれた。

「すごく真剣な顔してる。どうかした?」

「えっ? ああ、ごめん。ついいつもの癖が出ちゃって……」

「癖?」

心配そうな表情をしていた直とカールが、不思議そうな表情を向ける。

「僕、料理が好きだから外で美味しいものを食べたら家でも同じものが作れないかなって考えちゃうんだ」

「ええー、すごいー!! じゃあ、このタルトも作れる?」

「うん。タルトなら何度も作ったことがあるから美味しいマスカットがあればいつでも作れるよ」

タルトは土台は変わらないから、美味しい果物を載せればいつでも楽しめる。

「今度一緒に作ってみたい!」

「喜んで教えるよ! 料理だけじゃなくて洗濯や掃除のこともなんでも聞いて! 僕、家事代行の仕事しているからなんでも教えられるよ」

自分の知識をひけらかすわけじゃないけど、直もカールも大好きな人と暮らしているなら僕の知識は知っていて損はないはずだ。

けれど直とカールは急に静かになって僕を見つめた。

「あれ? どうかした?」

「遥はそれを仕事にしているならタダで教えたらだめなんじゃない? 自分の能力はちゃんと大切にしないと!」

「えっ……」

まさかそんなことを言われるなんて思いもしなかった。
いつも聞かれるままに教えていてそれが当たり前だと思っていたから。

「僕たちも遥に何か教えられることがあったらお互いにwin-winでいいんだけどね」

「人に教えられるような特技あったかなー」

「直はピアノも編み物も上手だから十分特技だよ。僕のほうが何もないよー」

カールと直がそう話しているのをみながら、僕はふと思った。
僕には何もわからないあの・・話。それをぜひ教えて欲しい。

ちらっと西条さんを見ると、すぐに僕の視線に気づいて笑顔を見せてくれる。
それだけでドキドキしてしまいながら、僕はカールと直に向かって顔を近づけた。

「二人にぜひ教えて欲しいことがあるんだ」

西条さんたちに聞こえないように小声で尋ねた。

「なになに?」

カールはちょっと楽しそうに近づいてくる。
直は自分にわかるかなーと言いながら、カールと一緒に顔を近づけてきた。

「あの……男同士で、恋人っていうか……その、結婚するって……違和感、とかなかった?」

西条さんに惹かれていると言われて、戸惑ったのはそこだった。
今まで僕の周りで同性のカップルに出会ったことがなかったから、恋人になれたとしても、そこから先のイメージが全く進まなかった。

でも、奇跡的に西条さんのお友だち二人がそれぞれに男性のパートナーがいてすごく幸せそうな姿を見て、僕と西条さんもこの二組のカップルみたいになれるのかなって思ったらなんだかドキドキした。

直もカールも普通に受け入れているというか、馴染んでいるけど最初からそんな感じだったのか知りたい。

そう思って尋ねてみたけれど、二人は僕の質問に笑顔で応えた。

「全然違和感なんてなかったよ。だって、同性同士のカップルで幸せそうな人たちをたくさんみてきたから。ね、カール」

「うん。好きになったら同性とか異性とかそもそも関係ないんじゃないのかな。好きだから一緒にいたいし、好きだからキスしたい。好きだから触れ合っていたいって当たり前の気持ちだと思う」

好きだから触れ合っていたい……。
そうか、それでいいんだ。
深く考えなくていいんだ。

当然とでもいうような二人の言葉が心に響く。

「ここじゃ子どもたちもいるし、西条たちもいるから深く話せないけど聞きたいことはなんでも答えるから、連絡先交換しようよ」

「ああ、それいいね!」

カールの言葉にすぐに直が賛成してくれて、さっとスマホを出してくれる。
そうして僕のメッセージアプリに、友人二人の名前が刻まれた。
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