ベビーシッター先でラブラブな家族生活はじまりました

波木真帆

文字の大きさ
154 / 211

お泊まりしたい!

「えっ? お泊まり?」

「うん! このおうち、おっきなおふろがあるんだよー!」

「おもちゃもいっぱいあって、あそんでいいってー! ひよこさんもいっぱいいたんだよー!」

平家でこれだけの広さがある家だ。
マンションのお風呂も僕と琳が住んでいたアパートよりずっと広いけれど、ここのは別格なのかもしれない。

「でも、今日はお着替えも何も持ってきてないから今度にしよう」

おむつもミルクもいらない年齢だけど、手ぶらで、しかも初対面のおうちに泊まらせてもらうわけにはいかない。

「ああ、着替えなら気にしないでいいよ」

「えっ?」

突然絢斗さんにそんな言葉をかけられて驚いてしまう。
気にしないでいいってどういうこと?

「直くんから西条くんたちが子どもたちを連れて遊びに来てくれるって聞いて、何かあった時のためにと思って着替えやそのほかはぜーんぶ用意してるから。だから手ぶらで泊まってもらって構わないよ」

「えっ、でもそんな……っ、明日は悠臣さんもお仕事だし」

「それなら碧斗くんと琳くんだけお泊まりさせたらいいよ。ここは大人がいっぱいいるから危険なことにはならないよ」

「子どもたちだけって……でも……」

もちろん直のおじいさまのおうちだし、直のお父さんたちが見てくれるなら危ないことにはならないだろうけど。でも……いいのかな?

「ねぇ、はるかちゃん。おねがーい! りん、このおうちにおとまりしたーい!」

「あおともー! ねぇ、いいでしょー?」

二人が僕の足にしがみついて、うるうるとした目で見上げてくる。
僕がこの目に弱いとわかっててやってるんだ。

「悠臣さん、どうしますか?」

西条さんならうまく子どもたちを説得してお泊まり回避できるかも……なんてちょっと期待していたけれど、反応は全く違った。

「緑川教授がそこまで仰ってくれるなら大丈夫だろう。碧斗、琳。騒がずにお利口さんにお泊まりできるか?」

「うん! りん、おりこーさん!」

「あおともー! おりこーさん!」

「よし! じゃあ、泊まらせてもらおうか」

西条さんのその言葉に二人が「わーい!」と大声をあげて喜ぶ。

「ははっ。子どもたちの元気な声を聞いていると、私も元気になってくるよ」

直のおじいさまが目を細めて子どもたちをみる。

「碧斗くん。琳くん。明日、起きたらじじと散歩に行こうか。焼きたてのパンを買いに行こう」

「わぁー! やきたてのぱん。りん、だいすきー! はるかちゃんがやいてくれるのー! ねっ」

琳が屈託のない笑顔で僕を見てくれる。
初めてパンを焼いたのは、妹が亡くなってすぐの頃。
焼き上がりのパンを見て、久しぶりに笑顔を見せてくれた。
あれ以来、週に一度はパンを焼くようになったんだっけ。

「そうか。遥ちゃんのパンには負けるかもしれんが、そこのパンも美味しいぞ」

「おじーちゃんもぱんすきー?」

「ああ。一緒に選びに行こう!」

「うん! やくそくー!!」

琳がおじいさまに駆け寄ると、碧斗くんも一緒に駆け寄って三人で小指を重ねて約束をしている。

「遥くんも西条くんもいい子に育てたね。子どもたちは親を見て育つっていうから、いい教育をしているんだと思うよ」

「絢斗さん……ありがとうございます」

妹が亡くなって無我夢中で育ててきたから、こうして褒められるとたまらなく嬉しくなる。

そっと近づいてきた西条さんが僕の肩を抱き、優しく頭を撫でてくれる。
その温もりと優しさに涙が出そうになっていた。

「ご飯できたよー」

直の声にハッと我にかえる。
西条さんを見上げると、「行こうか」と笑顔を向けられる。

優しく立たせてくれてテーブルにいくけれど、ここには子ども用の椅子がない。
大人用の椅子に座らせるわけにもいかないから、僕と西条さんの膝に乗せるしかないか。

そう思っていると、

「琳くん。おいで」

と直が琳を膝に乗せてくれる。
隣では磯山さんが碧斗くんを膝に乗せてくれていた。

「直、ありがとう。でもそれだとゆっくりご飯食べられないよ。代わるから」

「いいよ。遥はいつも大変だろうから人手がある時くらい頼って。それに僕も琳くんたちと一緒にご飯食べるの楽しみにしてたんだから。ねぇ、昇さん」

「ああ。直が西条と友利さんのために一生懸命作ってたから味わって食べて。子どもたちのことは気にしなくていいよ」

子どもたちの前には子ども用のプレートに食事が載せられていて、今日のために準備してくれていたのがよくわかる。

「遥、今日は磯山たちに甘えよう」

「は、はい。そうですね」

目の前には手の込んだ料理がたくさん並んでいる。
時間と手間をかけて作ってくれたのがよくわかる。

「料理のプロに食べてもらうのはちょっと緊張しちゃうな」

「プロだなんてそんなことっ」

一応お金もらって作ってるからプロといえばそうなんだろうけど改めて言われると照れる。

「いただきます」

美味しそうな匂いを漂わせていたビーフシチューをいただく。
お肉がほろほろでどれだけ煮込んでいたんだろうとびっくりする。

「ん! 美味しい!!」

普段人が作ったものを食べる機会があまりないから、余計に美味しく感じられる。

「わぁ、遥に褒められると嬉しい!」

喜んでくれる直に、琳も「これ、おいしー!」と笑顔を向けていた。

食事の最中、気になったことを思い出して西条さんに尋ねてみた。

「あの、さっき緑川教授って……誰のことですか?」

「ああ、絢斗さんのことだよ。私や磯山、それに直くんが通っていた大学の教授だったんだ。今はもう退官しているけどね」

「えっ! 大学、教授?」

僕のイメージする教授と絢斗さんとのイメージがあまりにも違いすぎて、思わず大きな声を上げてしまった。
感想 548

あなたにおすすめの小説

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。