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まさかの事実
「そんなに意外だった?」
僕の反応があまりにも大きかったからだろう。
絢斗さんがクスクス笑いながら問いかけてくる。
「えっ、いえ。あの……教授って、もっと怖そうな人だと思ってたので……」
僕は高校卒業して看護の専門学校に行ったから大学には通っていない。
だから本当にイメージなんだけど、もっと近寄りがたい存在なのかと思っていた。
「私も講義中は怖いと思われてるかもよ」
そう言いつつも笑顔の絢斗さんからは怖いなんて想像もつかない。
「でもずいぶん早く退官なさったんですね。他にやりたいことでもあったんですか?」
「ん? ちゃんと定年まで勤め上げたよ。そのあとは卓さんと旅行に行くことも多くなったけど」
「えっ?」
定年まで?
確か、どこか大学教授に定年は六十五歳だって聞いた気がするけど……。
もしかしてその大学の定年が早いとか?
頭の中でぐるぐると考えていると、直が笑いながら声をかけてきた。
「遥、あやちゃんのこといくつに見えてる?」
「えっ、いくつって……四、五十代かなって……違うの?」
僕が話すと、テーブルについているみんなが笑っているのが見える。
「絢斗。遥くんに教えてあげないか」
「私、今年六十八歳だよ」
「えっ? はっ? えっ? ろく、じゅぅ……ええーーっ?」
今までの人生で初めてくらいの驚きの声が出た気がする。
「ろ、ろくじゅう、はちって……本当なんですか?」
「うん。ほら」
絢斗さんはポケットから財布を取り出し、免許証を見せてくれた。
それには確かに今年、六十八歳に相当する生まれ年が書かれていた。
「ほんと、だ……。あ、じゃあ直のお父さんとそんなに歳が離れていないんですね」
直のお父さんは六十代くらいだなって思ってたし。でも並んでみると絢斗さんの若さがすごいな。
「いや、私と絢斗は十歳離れているよ」
「えっ? じゅっ……えっ??」
うそっ、じゃあ七十八歳?
ええーーっ、全然見えない。
「びっくりするくらいお二人とも若いですね。というか、直のおじいさまも百歳超えてるって伺ってたのに、今日お会いしたら八十代くらいに見えて驚きまし――えっ、ってことはもしかして……絢斗さんのお父さまも……?」
「私はもうすぐ誕生日が来たら九十歳だよ」
「ええーーっ!!」
直のお父さんより少し上の、七十代くらいかなって思ってたのに……まさかの九十歳。
考えてみれば直も若く見えるもんね。
初めて会った時は二十歳そこそこだと思ったっけ。
「すごい……若く見える遺伝、なんですかね?」
「ははっ。そんなに驚いた反応をされるのも久しぶりだから楽しいよ」
絢斗さんのお父さんが楽しそうに返してくれて、場がすごく和んだ気がする。
大勢で食べる楽しい夕食を過ごし、食後には僕が作ってきたマドレーヌと西条さんが選んだ和菓子を直と磯山さんが出してくれた。おじいさまたちはソファーに、僕たちは畳に座ってのんびりモードだ。
「あやちゃん、このマドレーヌ。遥の手作りですよ」
「えー、すごい! 美味しそう!」
絢斗さんがすぐに抹茶味のマドレーヌを手に取った。
「んー、いい香り」
直のお父さんとおじいさまたちは和菓子に手が伸びている。
あのみたらし団子と草餅がすごく美味しそう。
「星彩庵の和菓子はいつ食べても変わらないな。とても美味しい」
満足そうなおじいさまたちの言葉に西条さんは嬉しそう。
直と絢斗さんからもマドレーヌが美味しいと言われて僕も嬉しかった。
「直、ピアノを弾いてくれないか?」
「はい。おじいちゃま」
スッと立ち上がり、ピアノに向かっていく直を見送っていると、絢斗さんが教えてくれる。
「ここにきたら必ず食後に弾いてくれるんだよ」
それだけ直の演奏が家族の癒しになっているってことなのかな。
直がピアノに指を滑らせると
「あーっ! これ、りん。しってるー!!」
琳がさっと立ち上がり、身体を揺らしながら歌を歌い始める。
碧斗くんはそれを嬉しそうに眺めて、おじいちゃまたちは歌に合わせて手拍子までしてくれる。
最後まで歌い終えた琳が笑顔を見せると、みんなが大きな拍手を送ってくれる。
「今度は碧斗くんも知ってる曲ね。何がいいかな?」
直がいくつか曲の初めを弾くと三曲目に弾いた曲に碧斗くんが目を輝かせた。
どうやらこの曲を知っているらしい。
今度は二人で立ち上がって身体を揺らし、歌を歌う。
「子どもたちの声って気持ちが明るくなるね」
二人の歌を聴いていた絢斗さんがそう言ってくれたのが嬉しかった。
そうこうしている間にもう夜の八時。
「子どもたちはそろそろお風呂に入れたほうがいいんじゃない?」
「あ、そうですね」
「じゃあ、私たちがお風呂に入れてくるから。碧斗くん、琳くん。パパと遥ちゃんにバイバイしようね」
絢斗さんが声をかけると碧斗くんも琳も全く寂しがる様子も見せずに、
「ばいばーい! またあしたねー!」
「ぱぱー、はるかちゃん。ばいばーい」
と笑顔で手を振りながら絢斗さんと直くんのお父さんと一緒にリビングから出ていった。
あまりにもあっけなくてちょっと寂しい。
「子どもたちにもこういう経験は大事だよ」
直に言われて確かにな、と思う。
碧斗くんと琳にとってはものすごくいい経験になりそうだ。
「うん、そうだね……」
「遥は、西条さんと二人っきりの夜。楽しんでね」
「えっ、あっ!!」
直からこそっと耳元で教えられた事実に、僕は一気に顔が赤くなってしまった。
僕の反応があまりにも大きかったからだろう。
絢斗さんがクスクス笑いながら問いかけてくる。
「えっ、いえ。あの……教授って、もっと怖そうな人だと思ってたので……」
僕は高校卒業して看護の専門学校に行ったから大学には通っていない。
だから本当にイメージなんだけど、もっと近寄りがたい存在なのかと思っていた。
「私も講義中は怖いと思われてるかもよ」
そう言いつつも笑顔の絢斗さんからは怖いなんて想像もつかない。
「でもずいぶん早く退官なさったんですね。他にやりたいことでもあったんですか?」
「ん? ちゃんと定年まで勤め上げたよ。そのあとは卓さんと旅行に行くことも多くなったけど」
「えっ?」
定年まで?
確か、どこか大学教授に定年は六十五歳だって聞いた気がするけど……。
もしかしてその大学の定年が早いとか?
頭の中でぐるぐると考えていると、直が笑いながら声をかけてきた。
「遥、あやちゃんのこといくつに見えてる?」
「えっ、いくつって……四、五十代かなって……違うの?」
僕が話すと、テーブルについているみんなが笑っているのが見える。
「絢斗。遥くんに教えてあげないか」
「私、今年六十八歳だよ」
「えっ? はっ? えっ? ろく、じゅぅ……ええーーっ?」
今までの人生で初めてくらいの驚きの声が出た気がする。
「ろ、ろくじゅう、はちって……本当なんですか?」
「うん。ほら」
絢斗さんはポケットから財布を取り出し、免許証を見せてくれた。
それには確かに今年、六十八歳に相当する生まれ年が書かれていた。
「ほんと、だ……。あ、じゃあ直のお父さんとそんなに歳が離れていないんですね」
直のお父さんは六十代くらいだなって思ってたし。でも並んでみると絢斗さんの若さがすごいな。
「いや、私と絢斗は十歳離れているよ」
「えっ? じゅっ……えっ??」
うそっ、じゃあ七十八歳?
ええーーっ、全然見えない。
「びっくりするくらいお二人とも若いですね。というか、直のおじいさまも百歳超えてるって伺ってたのに、今日お会いしたら八十代くらいに見えて驚きまし――えっ、ってことはもしかして……絢斗さんのお父さまも……?」
「私はもうすぐ誕生日が来たら九十歳だよ」
「ええーーっ!!」
直のお父さんより少し上の、七十代くらいかなって思ってたのに……まさかの九十歳。
考えてみれば直も若く見えるもんね。
初めて会った時は二十歳そこそこだと思ったっけ。
「すごい……若く見える遺伝、なんですかね?」
「ははっ。そんなに驚いた反応をされるのも久しぶりだから楽しいよ」
絢斗さんのお父さんが楽しそうに返してくれて、場がすごく和んだ気がする。
大勢で食べる楽しい夕食を過ごし、食後には僕が作ってきたマドレーヌと西条さんが選んだ和菓子を直と磯山さんが出してくれた。おじいさまたちはソファーに、僕たちは畳に座ってのんびりモードだ。
「あやちゃん、このマドレーヌ。遥の手作りですよ」
「えー、すごい! 美味しそう!」
絢斗さんがすぐに抹茶味のマドレーヌを手に取った。
「んー、いい香り」
直のお父さんとおじいさまたちは和菓子に手が伸びている。
あのみたらし団子と草餅がすごく美味しそう。
「星彩庵の和菓子はいつ食べても変わらないな。とても美味しい」
満足そうなおじいさまたちの言葉に西条さんは嬉しそう。
直と絢斗さんからもマドレーヌが美味しいと言われて僕も嬉しかった。
「直、ピアノを弾いてくれないか?」
「はい。おじいちゃま」
スッと立ち上がり、ピアノに向かっていく直を見送っていると、絢斗さんが教えてくれる。
「ここにきたら必ず食後に弾いてくれるんだよ」
それだけ直の演奏が家族の癒しになっているってことなのかな。
直がピアノに指を滑らせると
「あーっ! これ、りん。しってるー!!」
琳がさっと立ち上がり、身体を揺らしながら歌を歌い始める。
碧斗くんはそれを嬉しそうに眺めて、おじいちゃまたちは歌に合わせて手拍子までしてくれる。
最後まで歌い終えた琳が笑顔を見せると、みんなが大きな拍手を送ってくれる。
「今度は碧斗くんも知ってる曲ね。何がいいかな?」
直がいくつか曲の初めを弾くと三曲目に弾いた曲に碧斗くんが目を輝かせた。
どうやらこの曲を知っているらしい。
今度は二人で立ち上がって身体を揺らし、歌を歌う。
「子どもたちの声って気持ちが明るくなるね」
二人の歌を聴いていた絢斗さんがそう言ってくれたのが嬉しかった。
そうこうしている間にもう夜の八時。
「子どもたちはそろそろお風呂に入れたほうがいいんじゃない?」
「あ、そうですね」
「じゃあ、私たちがお風呂に入れてくるから。碧斗くん、琳くん。パパと遥ちゃんにバイバイしようね」
絢斗さんが声をかけると碧斗くんも琳も全く寂しがる様子も見せずに、
「ばいばーい! またあしたねー!」
「ぱぱー、はるかちゃん。ばいばーい」
と笑顔で手を振りながら絢斗さんと直くんのお父さんと一緒にリビングから出ていった。
あまりにもあっけなくてちょっと寂しい。
「子どもたちにもこういう経験は大事だよ」
直に言われて確かにな、と思う。
碧斗くんと琳にとってはものすごくいい経験になりそうだ。
「うん、そうだね……」
「遥は、西条さんと二人っきりの夜。楽しんでね」
「えっ、あっ!!」
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