ベビーシッター先でラブラブな家族生活はじまりました

波木真帆

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新しいベビーシッター <前編>

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<side西条悠臣>

これまで頼んできた家事代行とベビーシッターのさまざまな愚行に呆れ果てていた私に『ルラシオン』を勧めてきたのは、新たに私の秘書になった久瀬くぜくんだった。

久瀬くんの育休が終わり、双子育児で大変な奥さんのために、家の近所にあったその家事代行サービスを頼んだのがきっかけだそうだが、小さい会社ながらスタッフはかなり優秀で家事代行だけでなくベビーシッターもできるスタッフも多いとのことで重宝したようだ。

その中でも特にSSランクを持つ男性スタッフが驚くほど優秀だと教えてくれた。
時給が高く頻繁には頼めないが、家事については非の打ちどころがなく、子どもの世話もそつなくこなし、奥さんのケアまで完璧で正直時給五千円では安すぎる仕事っぷりだそうだ。
聞けば看護師資格と保育士の資格まで保有しているらしい。

そんなスタッフがいるのかと半ば疑いつつも、彼は本当に素晴らしいですよという久瀬くんの言葉を信じてみることにした。

いや、正直なところを言うと家事代行については期待していない。
洗濯はクリーニングで事足りるし、掃除も特に問題はない。
ただ、息子の碧斗の世話だけを熱心にしてくれたらいい。

これまでのベビーシッターが碧斗をほったらかしでいたせいか、大人、その中でも女性を嫌がるようになった。
大人の女性が家にいると、サークルから出ようともせず静かに一人で過ごすようになってしまったのだ。

このままじゃ碧斗の成長が損なわれる。
今度こそいいスタッフに出会いたい、その希望にかけて私は『ルラシオン』に依頼の電話をかけた。

十時間という拘束時間の提示に最初こそ難色を示されたが、専属契約の話を出し、給料も時給換算でかなりの高待遇を伝えると、彼の上司だという男は好感触だった。それでも即答はせず本人の意思を確認すると言うことで一旦電話は切れた。

今までのところならこれほどの好条件なら本人に聞くまでもなく了承していたことを考えれば、ここはスタッフを大切に扱っていることが窺える。

翌日、了承の連絡が来てホッとしたのをよく覚えている。
そうして、あっという間に初日を迎えた。

前日のうちにコンシェルジュには家事代行スタッフが来ることを伝えておいた。
さて、時間通りにやってくるか。
それも確認だ。


  ◇◇◇

約束の時間ぴったりにやってきたスタッフは友利遥という男性スタッフだが、なんとも守ってあげたくなるような華奢な身体つきをしていた。家事や育児は意外と重労働だと言われるが、こんな身体でできるのだろうかと心配になってしまうほどだ。

だが、彼は私が託児メインで家事はできなくても構わないという契約書を見て、訂正を求めてきた。
そればかりか、洗濯も掃除も料理もしたいと私に許可まで求めてくるその勢いに私が押されてしまっていた。
こんなスタッフは初めてだ。

しかし、託児だけでなく家事までやってくれるというその提案に乗らないという選択肢は私にはもうなかった。
彼の希望に沿う契約書を作り直すことになったが、その前に息子を紹介してくれと言い出した。

それもこれまでのスタッフとは全く違う。

――あの人は本当に優秀なんですよ。

そう教えてくれた久瀬くんの言葉が頭に甦る。

彼は信用できるかもしれない。
そう思っていた時、彼から不意に名前を尋ねられて何故かドキッとした。

すぐに私の名を伝えると、彼は満面の笑みでかっこいい名前だと言ってくれた。
そのことは嬉しかったが、彼の言葉で私は自分が間違いを犯していることに気がついた。

何故なら、彼が悠臣くん・・・・と呼んだからだ。

単純に考えれば、息子を紹介すると言って向かっているのだ。
名前を尋ねられたら息子の名前に決まっている。

それなのに、彼に名前を尋ねられて何も考えずに自分の名前を告げてしまった。
こんな間違いなど犯す人間ではないはずなのに、彼といるとなんとも調子が狂う。

息子の碧斗の元に向かい、彼を紹介したが自分から挨拶もしない。
彼がくる前にきちんと挨拶をするように言っておいたのに。

大きなため息が出そうになった時、彼が自分から碧斗に挨拶をしたいと言ってくれた。
彼の子どもに対する態度が早速見られると思い了承すると、彼はサッと碧斗のいるサークルの中に入った。
そして敷いてあるラグに座り込んだ彼は笑顔で碧斗に語りかけた。

その優しく穏やかな表情を見て碧斗が彼に誘われるように笑顔を見せ、そのまま彼に抱きついた。

初めてみる碧斗の子どもらしい行動にただただ驚きしかなかった。

驚く私をよそに彼は契約書を作り直すように私に声をかけた。
この間、碧斗を見てくれるようだ。

二人の様子が気になりつつも、私は書斎に行き契約書を作り直した。
全ての家事を彼に任せるようにと文言を変え、さっさと印刷をして書斎を出ると心に訴えかけてくるような声が耳に入ってきた。

どうやら彼が碧斗のために本を読んでいるようだ。
しかもその本は私の好きなあの本。

昔、父から読み聞かせしてもらった思い出の本だ。
あの時のワクワクした気分を思い出させてくれる彼の声に気付けば私も夢中になっていた。

二人の邪魔をしないようにそっと二人の元に戻り、近くの床に腰を下ろした。
私が床に直接座るなど、今までなかったことだがこの時はそんなことなど考えていられない。
ただただ彼の読み聞かせを私も楽しみたかった。

久瀬くんがあれほど彼をベタ褒めだった理由がこれだけでもわかる気がした。
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