ベビーシッター先でラブラブな家族生活はじまりました

波木真帆

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初日終了!

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おやつを食べた後は、絵を描きたいという碧斗くんのために、サークルに置かれていた画用紙を数枚貼り合わせて床に置いた。喜んで描いて遊んでいる間に、乾いた洗濯物を取り込んで碧斗くんを見ながらアイロンをかけておく。

そして絵を描くのに飽きた頃に夕食のカレーの味見をしてもらい、美味しいという言葉をもらった。

そのタイミングでインターフォンが鳴り、碧斗くんが駆け寄るとモニターに西条さんの姿が見える。

「ぱぱだー!!」

今日はいろいろと報告がある。
碧斗くんは待ちきれない様子で玄関で待っていた。

ガチャリと扉が開き、西条さんの姿が見えた途端、碧斗くんが駆け寄った。

「ぱぱー、おかえりなさーい!!」

「えっ、あ、碧斗。た、ただいま。どうした?」

こんな出迎えは初めてだったんだろうか?
西条さんが少し混乱しているのがわかる。

「あのね、あおと。いーっぱいおてつだいしたのー!! それでね、それでね……」

話したいことが多すぎて言葉が出てこない様子の碧斗くんと、玄関から動けずにいる西条さんの戸惑いがなんとも可愛く見える。

「碧斗くん、さっきお絵描きしてたのを見せてみようか」

「うん!! ぱぱ、はやくはいってきてー! あおと、よういしてるからー!」

この状況をなんとかしようと声をかけると、碧斗くんはうれしそうにリビングに駆けて行った。
その姿を西条さんと二人で見送りながら、顔を見合わせた。

「西条さん。お仕事お疲れ様です」

手を差し出すと、ジャケットを脱いで渡してくれる。

「碧斗くん、とても良い子でしたよ。なんでも挑戦して頑張ってくれました」

「写真で見た。とても嬉しそうだったな」

「今の時期はなんでも大人の真似をしたがる時期ですから」

「そうか……」

西条さんは静かに答えるとリビングに足を進めた。

「ぱぱー、みてー!! ぼくが、かいたのー!!」

僕が洗濯物を片付けている間、碧斗くんが一生懸命書いていたのはパパの絵。隣には碧斗くんの姿もある。

「上手に描けてるな」

表情も感情もなかなか外に出ないようだけど、碧斗くんにはパパが喜んでくれているのがわかるんだろう。
褒められて嬉しそうだ。

「んっ? これはなんだ?」

一緒に描かれていた釣鐘型のものが何なのかわからないみたいだ。でも僕にはわかる。

あれだ。

「あおとがつくったの、ぱぱにみせるー!」

「今持ってくるね。碧斗くん、パパに目を瞑っててってお願いして」

僕の言葉に碧斗くんが西条さんに伝えると、彼は戸惑いつつも、言われた通りに目を瞑ってくれた。

僕はその間に急いで冷蔵庫からプリンをそっと取り出し、お皿に逆さまに置いて碧斗くんたちのもとに持って行った。

「あおとくんがやってみようか」

「うん! ぱぱー、めぇあけていいよー!!」

碧斗くんの声に西条さんが目を開けると、見ててー! と碧斗くんがプリンカップをゆっくりとあげた。
プリンは綺麗な形のままするんとお皿の上にのり、カラメルがプリンを綺麗に彩っていく。

「これは、プリン、か?」

「そう! あおと、はるかちゃんといっしょにつくったのー!! すごいでしょー!」

「これは……すごいな。美味しそうだ」

「ちがうよ、ぱぱ! おいしーの!!」

少し拗ねた様子で言い返している碧斗くんが可愛い。

「ねぇ、ぱぱー! たべてー!!」

碧斗くんはスプーンで上手に掬うと、西条さんに向かって差し出した。

「あ、ああ」

西条さんが驚きつつも口を開けると、プリンは西条さんの口に入った。

「ぱぱ、どう?」

「ああ、本当に美味しいな」

「やったー!! はるかちゃん! ぱぱがおいしいって!」

碧斗くんはよほど嬉しかったんだろう。
その場でぴょんぴょんと飛び跳ね喜びを表していた。

「いや、驚いたな。まさか、初日からこんなに美味しいものが食べられるとは……」

「碧斗くんのおかげです。いっぱい褒めてあげてください」

そう言いつつ時計に目を落とすと、すでに五時を回っている。
琳を迎えにいく前に一度会社に行って報告書を出さないといけないし、そろそろ出ないと!

「あの、夕食は青いお鍋に碧斗くん用のカレーを、白いお鍋に西条さん用のカレーを作ってますので召し上がってください。そろそろ終了時刻なので帰らせていただきます」

「あー、遥くん、もしよかったら……その……夕食を食べて行かないか? 今日の話ももう少し聞きたい」

「ありがとうございます。ですが、保育園で息子が待っていますので、ここで失礼します。今日の報告書はテーブルに置いてますのでそちらをご覧ください。夕食で使った食器は食洗機に入れるのが面倒でしたら、僕が明日洗いますので置いててください」

駆け足になってしまって申し訳ないと思いつつも、琳が気になって仕方がない。

「息子……」

矢継ぎ早な僕の言葉に西条さんは驚いているようだったけれど、しばらくの間をおいてわかったと言ってくれた。

「それじゃあ、碧斗くん。また明日来るからね」

「えっ? はるかちゃん、かえっちゃうの? かえっちゃやだー!! いっしょにおねんねしよー!!」

声をかけると一気に涙を流しながら僕に抱きついてくる。
泣かせてしまったという気持ちでいっぱいだけど、これ以上琳を待たせて泣かせたくはない。

「また明日来るよ。朝ごはんに美味しいもの作ってあげる」

「あさ、ごはん?」

「うん。ね、約束」

小指を差し出すと、碧斗くんは泣きながら小さな指を絡めてくれた。

「いい子だね。パパと今日のこといっぱいお話しして、ゆっくり寝てね」

「うん……」

目にいっぱい涙を溜めたまま、碧斗くんが頷くと床にポトリと涙が落ちた。

それをさっとハンカチで拭き取って僕は玄関に向かった。

「はるかちゃん……」

「碧斗くん、西条さん。おやすみなさい」

悲しげな碧斗くんに必死に笑顔を見せて僕は玄関を出た。

やっぱりこの時が一番辛いんだよね。
でもまた明日も頑張ろうという気になる。

目の前で開いたエレベーターに乗り、急いでマンションを後にした。


  ◇◇◇


「りーん!!」

「はるかちゃん! せんせぇ、りんのおむかえきたぁー!!」

満面の笑顔で迎えてくれる琳を見ながら、涙で別れた碧斗くんを思い出す。

でもここからは琳だけの僕だ。

先生にさよならの挨拶をして、手を繋いでアパートに向かう。
その間、琳はいつもより遅くなった間何をして過ごしていたかを教えてくれた。

「ねぇ、はるかちゃん。どんなこだった?」

「うん。碧斗くんって言ってね。可愛い子だったよ。琳と同じオムライスが好きでね。卵、混ぜ混ぜしてもらったよ」

「そうなんだー! りんもいっしょにいたらおてつだいできたのになー」

琳と碧斗くん、仲良しになれる気はするけれど会うことはないだろうな……。

「今日は夜ご飯、何にしようか?」

「はるかちゃんのかれーがいい!!」

というわけで今日は西条さんの分と合わせて三度目のカレーの準備に取り掛かった。
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